電車やバスの中で、自分が「マナー違反」だと思った人を無断撮影した写真をSNS上で晒す行為が横行している。「スカッとした」などと共感を呼ぶこともあれば、「盗撮するほうがマナー違反」と批判を受けることもある。
最近注目をあつめたのが、川崎市立川崎病院の清掃担当者と思われるアカウントが、電車やバスで優先席に座ったり、荷物を座席に置いている人を勝手に撮影し、顔が見える状態の写真を「バカな人」などという言葉とともにエックスに投稿した問題だ。
また、別のアカウントも、電車内で遊ぶ小さな子どもを無断撮影。顔にモザイクをかけてはいるものの、全身が写っている写真とともに、保護者をとがめる投稿をおこなって、エックスで議論を呼んだ。
こうしたSNSの「マナー違反警察」に法的なリスクはないのだろうか。ネットの誹謗中傷問題にくわしい藤吉修崇弁護士に聞いた。
⚫️民事・刑事の両面から法的リスクが発生
——電車やバスの車内で無断に撮影し、顔がわかるような写真や動画を、SNSに投稿する行為には、どのような法的問題があるのでしょうか。
こうした行為には、無断で撮影されてSNSに投稿された人に対する名誉毀損や肖像権の侵害の可能性があります。民事上では、投稿者が損害賠償責任を負うリスクがあります。
また、刑事上でも、名誉毀損罪や侮辱罪に問われる可能性があります。たとえば、「バカな人」などという言葉がなくとも、その人の社会的な評価を低下させる表現行為があれば、名誉毀損罪が成立する可能性はあります。
——写真や動画の顔にモザイクをかけていたとしても、法的なリスクは免れないのでしょうか。
基本的には、顔にモザイクをかけていたとしても、その人物を知っている人が見て、「この人は◯◯さんだ」と特定できるようであれば、名誉の毀損は生じます。
⚫️「一度写真や動画が投稿されれば、被害が長期化」
——弁護士ドットコムニュースがJR東日本に取材したところ、車内や駅構内での撮影について、次のように回答しています。「周囲のお客さまに危険が及ぶ行為など、駅や車内の秩序を乱す行為はおやめいただきたく存じます。また、プライバシーに関わるほか、お客さま同士のトラブルにも繋がるため、他のお客さまが映るような撮影、またその動画の公開についてもおやめいただきたく存じます」。明確なルールはないとのことですが、どこまで拘束力はあるのでしょうか。
駅などの施設内であれば、鉄道会社に管理権がありますので、私人逮捕系YouTuberのように撮影目的で駅に立ち入った場合、建造物侵入罪に問われる可能性もあると思います。
——人を無断撮影してSNSに晒す行為には少なくない法的リスクが生じるということでしょうか。
たとえば、あおり運転を受けた人がドライブレコーダーなどの動画をSNSで投稿するということが目立ちます。たしかに一定の抑止にはなると思います。ただ、やはり私的制裁に過ぎず、本来であれば、きちんと道交法違反などで罰を受けることが望ましいです。
最近では、私的制裁のための投稿がエスカレートしているように感じます。投稿者にとっても法的なリスクは高く、何よりも投稿された人にとっては、ネット写真や動画が残ってしまうと被害が長期化します。
投稿する前に、一度立ち止まってそうした被害についても考えてほしいです。