動画サイトYouTubeで「ガッツCH」を運営する"私人逮捕系"ユーチューバー2人が11月20日、動画撮影のために覚醒剤を持って来させたとして、覚醒剤取締法違反の教唆の疑いで逮捕された。
報道によると、2人は今年8月、女性を装い、男性に一緒に覚醒剤を使おうなどと持ちかけ、覚醒剤をJR新宿駅まで持ってこさせた疑いが持たれている。その際、警察に通報して、男性が逮捕される現場を撮影しようとしていたという。
この動画には、同じく"私人逮捕系"ユーチューバーとして「煉獄コロアキ」と名乗り、名誉毀損の疑いで逮捕された男性も参加していたとも報じられている。
今回逮捕された2人は、どのような法的責任が問われる可能性があるのだろうか。元刑事というキャリアを持ち、刑事事件にくわしい澤井康生弁護士に聞いた。
⚫️覚醒剤所持の教唆犯とは?
——今回、2人はどのような罪に問われていますか?
覚醒剤所持の教唆犯です。覚醒剤は所持することが禁止されており、罰則は10年以下の懲役です(覚醒剤取締法41条の2)。
教唆犯は、覚醒剤を所持している人に犯罪を実行するようにそそのかした場合に成立する犯罪で、共犯の一種です。教唆犯の法定刑は正犯(自分で犯罪を実行すること)と同じです(刑法61条1項)。
報道によると、今回の事件は、ユーチューバーが他人に覚醒剤を購入させて、待ち合わせ場所に持って来るようそそのかしたということです。
覚醒剤を購入した男性に、覚醒剤を譲り受けた罪と所持した罪が成立するとすれば、これをそそのかしたユーチューバーにもその教唆犯が成立する可能性があります。
⚫️「一般人にはおとり捜査をおこなう権限はない」
——いわゆる「おとり捜査」のようにも思えます。一般人はおとり捜査をおこなえるのでしょうか。
おとり捜査は任意捜査の一環としておこなわれるものであり、警察などの捜査機関またはその依頼を受けた捜査協力者が、その身分や意図を相手方に隠して犯罪を実行するように働きかけ、相手方がこれに応じて犯罪の実行に出たところで現行犯逮捕などにより検挙するものです。
しかし、一般人にはそもそも捜査権限は認められておりませんので、おとり捜査をおこなう権限はありません。
——警察による「おとり捜査」は、どのようにおこなうのでしょうか。
おとり捜査には「犯意誘発型」と「機会提供型」の2種類があります。
犯意誘発型は犯罪意思のない人に対して、働きかけによって犯意を生じさせ、犯行に及んだところを検挙するケースです。
機会提供型はすでに犯意を有している人に対して、その犯意が現実化する機会(犯行の機会)を与えるだけの働きかけをおこなった結果、犯行に及んだところを検挙するケースです。
機会提供型のおとり捜査について、最高裁は『直接の被害者がいない薬物犯罪等の捜査において、通常の捜査方法のみでは当該犯罪の摘発が困難である場合に、機会があれば犯罪を行う意思があると疑われる者を対象におとり捜査を行うことは、刑訴法197条1項に基づく任意捜査として許容される』と判示しています(最高裁判所平成16年7月12日判決)。
これに対して、犯意誘発型のおとり捜査については、適法と認めた古い判例(最高裁昭和29年11月5日判決)がありますが、国家が犯罪を創り出すものであるという批判もあり、現在も同じ判断が出るとは限りません。
そのため捜査機関としては、おとり捜査をおこなうとしても、機会提供型がメインであり、積極的に犯意誘発型のおとり捜査をおこなうことはないと思います。
⚫️いろいろな問題がある"私人逮捕系"ユーチューバー
——"私人逮捕系"ユーチューバーが相次いで逮捕されました。
私人逮捕系ユーチューバーにはいろいろな問題が含まれています。まず、現行犯逮捕の要件を満たしていないのに勝手に現行犯逮捕だといって逮捕してしまう点です。これは逮捕監禁罪(刑法220条)に該当し、3カ月以上7年以下の懲役の罪に問われます。
次に、その状況をYouTubeで配信することによって、対象者の名誉を傷つけることになるので、名誉毀損罪(刑法230条)に該当し、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金の罪に問われます。最後に、今回のケースのように、他人におとり捜査をしかけると、犯罪の教唆犯や幇助犯となってしまうこともあります。
このように"私人逮捕系"ユーチューバーの活動はリスクがありますので、ほめられた行為ではありませんし、われわれユーザーも称賛するようなことはしないほうがよいと思います。