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「ひどい接客だった」客のデタラメ投稿に悩む飲食店、店内カメラの映像で対抗 店舗経営する弁護士に聞く
黒嵜弁護士(提供)

「ひどい接客だった」客のデタラメ投稿に悩む飲食店、店内カメラの映像で対抗 店舗経営する弁護士に聞く

「ひどい店だった」。ある日、ネットに書き込まれた苦情。時には炎上を招き、経営に影響することもある。過去には著名人が飲食店の名前を出して物議を醸したケースもあった。

苦情を書き込まれても、店側が「無実」を証明することは難しい。客側の発信にウソや誇張があっても、現場にいなかった人たちには判断のしようがない。はたして対策はあるのだろうか。

飲食ビジネスを法的に支援するフードビジネスロイヤーズ協会の副会長で、自身も中華料理店を多店舗展開する黒嵜隆弁護士は、ドライブレコーダーのように、店内カメラをつけるのも一つの手だと指摘する。

●ネットに不評、まずは事実関係の調査を

――ネットでネガティブな書き込みを見つけたら、どうしたら良いでしょうか?

「そもそも、実態とかけ離れた内容が相当数あるというのが、ネットの口コミです。ネガティブな書き込みは避けられないということを前提に対応しなくてはなりません。

基本的には、投稿内容が客観的に正しいのか、店側が調査をする必要があるでしょう。これは対面でのクレーム対応でも一緒です。もしも事実であれば、改善点を教えてもらったと思って、真摯に対応しなければなりません」

――事実でなかったら?

「その書き込みが経営にどう影響するかの見極めが肝心です。大したことがなければ、いちいち気にしないことです。

影響が大きいのであれば、店側もネットで正確な事実関係を発信することなどが考えられます。ただ、これができるのは、きちんと調査をして、自信があるときだけです。投稿の仕方によっては、さらに炎上する可能性があることも考える必要があります」

――今年6月、有名人が「蒙古タンメン中本」での食事中、他の客から急かされ、店員からも退店を促されたとブログに投稿し、話題になりました。中本側は当日の監視カメラなどをチェックし、ウェブサイトで細かな時系列や滞在時間を開示するとともに、食事が終わったと誤解していたと謝罪しました

「この対応は正に事実確認をきちんとやっている事例の一つだと思います。炎上したときは、投稿者を納得させるというより、その投稿を見た周りの人たちをどうするかが重要になってきます」

――時系列を公開することに、プライバシーや店の信用上の問題などはないのでしょうか?

「反論のためであれば、法的にも倫理的にも問題はないでしょう。特に中本のケースは一定の影響力のある有名人が相手です。

大切なのは、反論に必要で合理的な範囲の情報にとどめるということです。たとえば、当事者の顔写真をあえてさらす必要はありませんよね。そのラインを超えてしまうと、店側に別の炎上リスクが生まれてしまいます」

――中本には店内カメラがあったから良かったものの、それがなければ「言った言わない」になって証明が難しくないですか?

「カメラのある店は決して多くはありませんが、少なくもありません。運営側として、カメラの設置を検討するというのは一つの手だと思います。防犯やトラブル防止だけでなく、店のオペレーションの把握など、マネジメント面でも役立ちます。

ただし、それは経営側の考え方であって、従業員は嫌かもしれない。働きにくい職場には定着してくれませんから、その辺りを総合的に考える必要はあるでしょう」

●投稿者に「炎上の責任」を問えないか?

――店と揉めた腹いせに誹謗中傷やデマを書き込んでくる問題客もいると思います

「先ほど言った通り、対応すべきかどうかの見極めが大切だと思います。商売をやっている以上、クレームは避けられません。法的措置をとるにしてもお金がかかりますから、多少のことには目をつぶって、店を信頼してくれる常連客を大切にした方が良いです。

ただ、そう簡単にも割り切れないので、目に余るものについては、書き込みの削除請求を考えましょう。まずは当該ネットサービスの運営会社に任意で削除を求めます。グルメ系の口コミサイトでもそうですが、SNS運営者側から、削除基準が示されているはずです。任意で削除しないのであれば、裁判上の削除要請(仮処分や本訴提起)もあります」

――書き込んだ相手を訴えるのはどうでしょうか?

「発信者が特定できていれば裁判を起こすことはできますが、費用倒れになることがほとんどです。私自身、削除の相談は受けますが、投稿者を訴えるということはあまりないですね」

――2020年のことですが、福島県のラーメン店がグルメサイトに「業務用スープを使っている」とウソを書き込まれたとして起こした裁判で、名誉毀損は認められたものの、賠償額は11万円という判決がありました

「間違った投稿内容で実際にどのくらい売上が下がったかという立証が難しいのです。また、店に対するデマに限らず、日本では誹謗中傷での慰謝料が少ないという問題もあります。

ただ、費用倒れになると分かっていても許せない、放置しておけないというケースであれば、訴えても良いと思います。そうすることで抑止力も生まれるのではないでしょうか」

●主張食い違えば、投稿主もネットの炎に食われうる

ネットの発達で誰もが店を評価する側にまわった時代。軽い気持ちで投稿したものが、店やその関係者に大きな被害をもたらし得ることは理解しておくべきだろう。投稿内容が店側の主張と食い違うようなことがあれば、ネットの炎は自身に襲い掛かってくる可能性もある。

一方、店側としては、いざ重大な被害が起きても、裁判の構造上、被害回復は必ずしも十分ではない。ネガティブな評価をあまり気にしすぎてもいけないようだが、万一のときに備えて、あらかじめ対応をシミュレートしたり、場合によっては店内カメラを設置したりするなどの対策を検討することも考えられそうだ。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

プロフィール

黒嵜 隆
黒嵜 隆(くろさき たかし)弁護士 弁護士法人フロンティア法律事務所
1961年生まれ、熊本県玉名市出身。大学生のときのオートバイ事故で車いす生活になる。1998年弁護士登録(東京弁護士会)。弁護士法人フロンティア法律事務所代表、一般社団法人フードビジネスロイヤーズ協会副会長( http://fbla.jp/ )。株式会社クロスロードカンパニー代表取締役として六本木、西麻布などで中華料理店「ふるめん」を経営している( https://furumen.owst.jp/ )。共著に『飲食店経営のトラブルQ&A』(民事法研究会)。

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