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「成人向け同人誌」ほしがる未成年 ルール違反みかけたサークル参加者「節度を守って」
取材に応じたサークル参加者のAさん(2019年9月、弁護士ドットコム撮影)

「成人向け同人誌」ほしがる未成年 ルール違反みかけたサークル参加者「節度を守って」

「最近同人誌即売会で、成人向け同人誌を大人が買って未成年に渡すというケースが出ています。代理購入までサークル側の手は及びません。法律・条例に違反してるか取り上げて欲しいです」

同人誌を制作しているという岩手県の50代女性から、弁護士ドットコムのLINE公式アカウントに取材依頼が寄せられた。

女性はこうしたケースについて、「どうしてもその作品が欲しいから、悪気なくこうした行為に走るのでは」と想像する。

取材を進めると、成人向け同人誌を作るサークルからは「どう対処するのが最善か、イベントの度に考えています。この問題は多くの成人向け作品を出してるサークルが常に抱えています」という声が聞こえて来た。

●代理購入、目の当たりに

「万が一なにか起こったときには、自己責任の世界。サークル側も気をつけているけど、これまで同人誌を好きな人たちが、頑張って作り上げてきた文化を崩すのはとても簡単だと思います」

こう話すのは、同人誌即売会で「代理購入」を目の当たりにしたことがあるサークル参加者のAさん。Aさんは、女性向けで成人向けの同人誌を頒布していた。表紙に18禁であることを明示し、中身も性器の一部を黒ベタで修正している。

Aさんは、30〜40代くらいの女性に同人誌を販売したが、その後、少し離れたところにいた中学生くらいの女の子に本を渡す姿を目撃。女の子は、Aさんの同人誌の中身を確認した上で、リュックにしまったという。

購入する人も次々に来る中、席を立つこともできず、Aさんはその場から手招きして女性を呼んだが、去って行った。

●「信頼関係で成り立っている」

刑法175条は「わいせつな文書、図画、電磁的記録」などを配ったり、公然と陳列したりすることを禁止している。多くの同人誌即売会の要項では刑法上の「わいせつ」(刑法175条1項)に抵触する同人誌の頒布は禁止されており、商業誌と同様に、性器の露骨な描写などには黒ベタなどの修正が施されている。

また、刑法上の「わいせつ」にあたらない場合でも、地域の青少年条例の有害図書にあたる場合もある。東京都の青少年条例では、性的感情を刺激する図書などを青少年に頒布、販売、閲覧などさせないように努めるよう定められている。

国内最大規模の同人誌即売会「コミックマーケット(コミケ)」がサークル参加者向けに送っている冊子「コミケットアピール」にも、青少年条例の自主規制対象となるものについては「18歳未満か判断がつきにくい場合には身分証等で年齢確認を行い、18歳未満には販売、頒布、閲覧等をさせないで下さい」と記載がある。

Aさんが別のサークルで売り子をした際には、成人向けの本を頒布していると分かった上で未成年が買いに来ることもあった。そこで身分証の提示をお願いしたところ、買うのをやめた人もいたそうだ。

「自分で年齢確認される立場とわかっている人は身分証を持って来ますし、大体の人はマナーを守ってやっている。お互いに迷惑をかけないために、節度を守っている」

「誰かに頼んで買ってもらいたいほど、読みたい気持ちもわかります。でも、作者への敬意があるなら、ルールは守ってほしい。同人誌の即売会は、信頼関係で成り立っていて、皆が注意しあってやってきた。結局は気遣いの問題だと思っています」

●法的には?

こうした行為は法的に問題ないのだろうか。鐘ケ江啓司弁護士は「この問題で適用が考えられるのは、青少年健全育成条例と、刑法の詐欺罪」だと話す。

「ただ、例えば東京都の青少年健全育成条例については、指定図書でない同人誌の販売等の禁止はあくまで努力義務のため、購入者や販売者、代理購入業者に犯罪が成立することはありません。

また、詐欺罪も財産上の損害がない場合には、詐欺罪は成立しないなどと言われることもあり、未成年が成人と偽って成人向け雑誌を買うような事例も実務や学説で、詐欺罪が成立しないと想定されています」

一方で、サークルが代理購入業者には販売しないといった対応をとることも、法的に問題はない。鐘ケ江弁護士は「誰に売るかはサークルが決めることです。イベント運営者やサークルが自主ルールを定めて運用していくことが適切な対処でしょう」と話した。

●運営側「自分のスペースをしっかり見てもらうことが第一」

イベント運営側は、どう考えているのだろうか。

「売られた後まで全て責任をとるというのは難しい。サークルがせめてやれることは、作品がR18に該当するか判断することと、自スペース前に来た18歳未満の参加者に閲覧・頒布しないように配慮することの2点です」

サークルの頒布責任についてこう話すのは、同人誌即売会「COMICCITY」などを運営する「赤ブーブー通信社」(東京都新宿区)の頒布物担当者だ。

HPでも「R18について考えよう」と発行時の注意点をまとめ、サークルの頒布責任について「一旦サークルの手許から離れたR18同人誌は、その同人誌の所有者が管理者として家庭内においても18歳未満の者に閲覧させないように努力する必要があります」と記載している。

ここ十数年、代理購入について具体的に相談されたことはないと言い、「参加者側の意識は相当高い。だからこそ、ルールを守らない人が目立つのかもしれない」とみる。

「サークル参加者には自分のスペースをしっかり見てもらうことが第一です。同人誌即売会なら悪質なケースを特定できれば、その人にイベントに来ないでくださいなどの通告や個別の対応が可能で、代理購入だけでイベント全体が崩れることはないと思っています」

それよりもイベント運営側として注意しているのは、R18作品を置いたままサークルスペースが無人になることだ。席を離れる場合は、未成年者による立ち読みを防ぐため、机の下に隠したり、布を被せたりするよう徹底してほしいと話す。

イベントの入場時に運営側として全員に年齢確認を行うのは物理的に難しく、赤ブーブー通信社では、R18作品を置いたまま席を外しているサークルを見かけた場合、一時的に販売停止の札を貼っている。1回のイベントで10~20件ほどあるという。

「水際で止められることこそが即売会の強みです。これが守られなければ、R18エリアを区分けしたり、1冊ずつ袋に入れてもらったりしなければいけなくなります。サークル参加者にも一般参加者にも負担となり、今の即売会の形がガラッと変わる可能性があると思います」

同人誌即売会は、自分たちでルールを作り、秩序を保ってきた歴史がある。何か問題がおきれば自主規制を余儀なくされる恐れもあり、好きなものを守るために主催者やサークル側は入念な対策をしている。すべての参加者が人に迷惑をかけない範囲で楽しむことが大前提だろう。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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