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子どもの虐待死が年間50人以上の日本、「ほぼゼロ」のフィンランド…何が違うのか?
児童虐待防止について語ったタンペレ大学のエイヤ・パーヴィライネン教授(右)と吉備国際大学の高橋睦子教授(2019年9月26日、弁護士ドットコムニュース撮影=東京都港区のフィンランド大使館)

子どもの虐待死が年間50人以上の日本、「ほぼゼロ」のフィンランド…何が違うのか?

日本では、子どもの虐待死が絶えない。近年では年間50件を超え、2017年度の虐待死は65人だった。1週間に1人以上、子どもの命が虐待によって失われていることになる。しかし、東京都目黒区で5歳の女の子が凄惨な虐待を受けて死亡した事件など受け、2020年4月から保護者や養護者による体罰禁止を盛り込んだ改正虐待防止法と改正児童福祉法が施行されることになった。

一方、フィンランドでは現在、虐待死はほぼゼロ。子どもへの体罰は1984年に法律で禁止されたほか、虐待を察知した人には通報義務もある。また、「ネウボラ」と呼ばれる妊娠期から就学前まで母子と家族全体をサポートする制度や、早期発見のための調査の実施など、さまざまな支援で虐待リスクの早期発見に努めているという。

では、実際にどのように児童虐待防止を行なっているのか。フィンランド大使館で9月26日、専門家を招いて開かれたセミナーを取材した。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●「虐待は犯罪」、北欧では1980年代から法律で禁止

この日、登壇したのは、タンペレ大学のエイヤ・パーヴィライネン教授(保健学)。児童虐待を「グローバルであり、残念な問題」と指摘、フィンランドでの取り組みを紹介した。

「各国で児童虐待防止の取り組みがされていると思いますが、北欧諸国では犯罪に位置付けられています。1980年代から法律で禁止されるようになりました。フィンランドでも1984年に体罰が禁止されました。また、児童虐待の効果的な早期防止について国がガイドラインを作っています」

これ以外にも、児童虐待を察知した人は法律で通報が義務付けられているという。しかし、「法改正によって体罰容認の意識や児童虐待自体は減ったものの、それには時間がかかりました」と話す。

では、どのようにして児童虐待防止を実現しているのだろうか。パーヴィライネン教授によると、その大きな役割を果たしているのが、「ネウボラ」だという。

ネウボラは、フィンランド語で「助言の場」を意味する。妊娠や出産、出産後は未就学児まで、子どもや家庭のあらゆる相談がワンストップでできる育児支援制度だ。ネウボラの利用は無料。妊娠中から出産後にかけて合計20回以上、保健師や看護師らによって定期検診や発達相談などが行われる。その利用率はほぼ100%といい、子育て支援の最前線拠点として定着している。

「家庭内の虐待リスクを発見、認識することはとても困難です。フィンランドも完璧ではありません。しかし、家庭の心配ごとを表面化させ、早期に察知することはとても大事です」とパーヴィライネン教授。そこで、病院の看護師やネウボラの保健師たちは、虐待リスクを早期に発見するためのツールとして、「Brief CAP」(BCAP)と呼ばれる調査方法を多く用いているという。

●妊娠中から「ネウボラ」で親の心配ごとを早期発見

BCAPとはどういうものなのだろうか。これは、世界的に用いられている「CAP」という虐待リスクの尺度の簡易版にあたる。CAPは研究上、有効と認められているが、166項目もあり、実際に現場で使うには冗長で複雑というデメリットがあった。そこで、フィンランドでは、25項目の質問から構成される簡易版のBCAPががネウボラなどでよく用いられているという。

「具体的には、BCAPはネウボラなどで、親との会話の出発点として使われます。これをきっかけにして、言いづらい親の心配ごとを聞き出すことできるのです」

たとえば、「しつけ」と称する虐待につながりやすいのが、親が厳格な考え方を持っているかどうかだ。それを調べるために、次のような質問をする。「家はいつもきちんと片付いていないといけない」「子どもは決して反抗してはいけない」「子どもは黙って言うことを聞くべき」「子どもには厳しいルールが必要だ」。

これらの項目について、「そう思う」と答えた親に対し、「子育てや家事で誰が手助けしてくれますか」「子どもの反抗はどのように表れますか」「日常で子どもが黙って言うことを聞かなければならないのは、どのような状況でしょうか」「子どもの長所を伸ばす子育ての原則を知っていますか」などの解決に向けた会話を重ねるという。他にも、「不幸せに感じているか」「経済的な不安があるか」といった項目がある。

パーヴィライネン教授らが作成したBCAPのガイドラインでは、「家族の心配ごとが多いほど、支援サービスの利用は難しく、十分なサポートを得難い」と指摘されている。そのため、早期にリスクを発見し、解決への手助けを行なうことが、虐待防止に必要だと訴えている。

●日本の虐待死は4割以上が「望まない妊娠」、フィンランドでは徹底サポート

セミナーでは、『ネウボラ フィンランドの出産・子育て支援』(かもがわ出版)の著者で、吉備国際大学の高橋睦子教授が登壇、フィンランドと日本の状況を比較した。

「日本でも事件報道などがあったことから、虐待に関する関心が近年高まり、やっと来年4月から体罰禁止を含んだ法改正が施行されます。しかし、日本の場合では依然として、年間50人をくだらない子どもたちが死に至っています」

社会保障審議会の資料によると、2003年から2018年にかけ国内で虐待によって亡くなった子どもは685例、727人だった(心中による虐待死は別)。加害者の割合は実母が55.6%と最も多く、このうち0歳児の割合は47.5%、中でも生まれて間もない0日児の割合は18.6%となっている。

高橋教授は「これは色々なことを物語っています。0歳児が5割近いのは、予期しない妊娠が背景にあります」と指摘する。

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実際、今年8月にも、東京都足立区の河川敷に生まれて間もない男児の死体を遺棄した疑いで、17歳の少女2人が逮捕され、話題となった。少女のうち1人は、前日に男児を産み落としたと話していると報道されている。

一方、フィンランドでは虐待死は近年、ほぼ0人で推移している。もちろん、望まない妊娠や虐待がないわけではないが、中学・高校の保健授業で保健師が望まない妊娠をしてしまった場合、どうしたらよいかを教えているという。

「万が一、生徒や学生が望まない妊娠をしてしまった場合は、学校の保健師に相談できます。もちろん、両親にも言わないことも約束してもらえるというサポート体制ができています。専門職に安心して相談できるということを知っていますから、人知れずに産んで河川敷に捨てるということはありません」

また、若い世代の避妊のためにコンドームを無料で配布する自治体が増えていることや、無料で中絶できることも指摘された。

高橋教授は、「予期せぬさまざまな問題が出るのは、人の社会という点でフィンランドも日本と同じだと感じますが、対応の仕方、政府の人材育成などの点で異なってきます。日本における虐待死防止にとって、フィンランドの取り組みは参考になるのではないでしょうか」と話している。

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