京都府城陽市の道路で5月上旬、乗用車が約5メートル下の河川敷に転落する事故が起きて、20代男性が車の下敷きになり、頭を強く打つなどして死亡した。この男性は、車の屋根部分に座っていたという。
報道によると、運転していた男性は、自動運転死傷処罰法(過失運転致傷)の疑いで、京都府警に現行犯逮捕された。府警は、同致死に容疑を切り替えて調べており、運転していた男性は容疑を認めているという。
亡くなった男性たちは、中学時代の同級生で、この日はバーベキューのために河川敷を訪れていた。ふざけて屋根部分にあがっていたとみられるという。たいへん痛ましい事故だが、車の屋根部分に乗る行為は、法的に問題ないのだろうか。平岡将人弁護士に聞いた。
●屋根部分に座る行為も「違法」
「車の屋根部分に乗せるだけでなく、乗る行為についても、道路交通法(道交法)で違法とされています。道路交通法には、次のような規定があります。
『車両の運転者は、当該車両の乗車のために設備された場所以外の場所に乗車させ(・・・中略・・・)車両を運転してはならない』(道交法55条1項)。
『車両に乗車する者は、当該車両の運転者が前二項の規定に違反することとなるような方法で乗車してはならない』(同3項)。
車の屋根は当然『車両の乗車のために設備された場所以外の場所』にあたりますので、車の屋根部分に乗る行為は、道交法55条3項違反となります。
運転者は、道交法55条1項違反となり、5万円以下の罰金または科料(道交法120条1項10号、123条)、同乗者にも、2万円以下の罰金または科料(道交法121条1項6号)の刑が準備されています」
●「軽トラ」の荷台に乗る行為との違い
それでは、軽トラの荷台に乗る場合と区別されているのだろうか。
「軽トラックの荷台も『車両の乗車のために設備された場所以外の場所』にあたるため、道交法違反となります。ただし、例外的に許されている場合もあります。
まず、トラックの荷台に貨物を積載している場合に、『当該貨物を看守するために必要な最小限度の人員をその荷台に乗車させて』運転することは許されています(道交法55条1項但書き)。ただし、貨物を積んでいるときのみで、貨物を届けた帰り道はダメだとされています。
また、警察署長の許可があれば、許可条件の範囲で、人を荷台に乗せることも可能です(道交法56条)。選挙のときに屋根の上に立って候補者が演説するのは、この許可を取っていると考えられます」
●場合によっては、「傷害致死」や「殺人」の罪に問われる可能性も
車の屋根部分に人を乗せている状況で事故が起きれば、運転者はどのような処罰を受けるのだろうか。
「通常の自動車事故の場合であれば、過失運転致死罪が成立します。7年以下の懲役もしくは禁固または100万円以下の罰金刑となります(自動車運転死傷行為処罰法5条)。
しかし、今回のケースでは、車両の屋根に人を乗せていることを知って運転をしています。
自動車が走行し、人が道路へ転落した場合、人がケガをすることは容易に予想できますから、運転行為そのものが、屋根にのっている人への危険行為であり、暴行・傷害行為、場合によっては殺人行為となります。
今回のケースでは、状況的に殺意はなかったのではないかと考えられますので、傷害致死罪(刑法205条、3年以上の有期懲役)として捜査されています」
●運転行為は「すべての人の安全や財産にかかわる問題」だ
今回のケースでは、ふざけて屋根にあがっていたという報道もある。被害者の落ち度は考慮されるのだろうか。
「被害者自身にも、屋根に乗って走行すること、身体生命へ危険を加える運転行為に同意していたと考えられますから、これが運転手の罪を軽くする方向に影響を与える可能性はあります。
ただ、私の考えを述べると、車両の運転という行為は、乗車している人の問題だけではなく、すべての人の安全や財産にかかわる問題です。そして、運転行為の社会への責任は、個人が許したからといって責任を免れるものではありません。
したがって、屋根に乗った人が、その状態で運転することの同意をしていたとしても、運転者はなお、被害者や公道利用者の安全保持のため、今回のような運転をすべきでなかったと思います。したがって、運転者の刑事責任を軽くするような事情として考慮すべきではないでしょう」