2019年04月06日 10時28分

「メディアは私を『女性』だと伝えてくれません」戸籍の性別変更を求めた女性の絶望

「メディアは私を『女性』だと伝えてくれません」戸籍の性別変更を求めた女性の絶望
南和行弁護士

戸籍を男性から女性に変更するよう求めた審判が2月、京都家裁で申し立てられた。申し立てをしたのは、京都市の50代経営者の女性。戸籍上は男性であるが、性同一性障害と診断され、2014年に性別適合手術を受けて、女性として社会生活を送っている。しかし、京都家裁は3月27日、これを却下する決定を下した。

女性は診断前に結婚、パートナーの女性、子どもと3人で幸せな家庭に築いてきた。現在の性同一性障害特例法では、「生殖機能がない」などの要件を満たし、家裁が認めれば、戸籍の性の変更は可能である。しかし、女性の場合は同法の「婚姻していない」という要件を満たさないため、変更しようとすると離婚を余儀なくされる。

申し立ての却下の決定も、この法律によるものだった。これを不服として、女性は大阪高裁に即時抗告した。女性は、「女性の戸籍と引き換えに、家族をバラバラにしないでほしい」と訴える。この裁判に込められた思いを、代理人の一人である南和行弁護士に聞いた。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●女性を「性別適合手術を受けた男性」とテロップに出したテレビ局

女性は申し立てを行った日に京都市内で記者会見し、多くのメディアがこのニュースを報道した。女性は会見で「女性」として報道してほしいと伝えていたが、メディアのほとんどは、「性同一性障害の経営者」「性適合手術を受けた経営者」と書いた。

女性は後日、家裁に提出した文書にこう記している。「つまり、戸籍が男性になっている私は女性として扱われないのです」

メディアの中には、「性別適合手術を受けた男性」とテロップを出したテレビ局もあったことについて、「それは、私の日々に絶望感を与えてくれるに十分な扱いです。戸籍とは、私の尊厳を縛り付ける存在になっている顕著な例です」とつづった。

戸籍が男性であることは、「国がこの人を男性として扱っていいと言っている、ということなんです」と南弁護士は説明する。実際、女性はさまざまな場所で差別を受けてきたという。

「例えばトランスジェンダー女性が、クレジットカードの磁気が弱くなったから再発行を求めてコールセンターに電話したら、『声が低いように感じる』と言われ、なりすましの嫌疑をかけられる。本人が正直に自分自身の事情を説明し、『戸籍はまだ男なのですが』と言うと、もうそこからは何か問題がある人のような扱いをされ、戸籍を提出して事情を説明して下さいというようなことを言われる。

もしも、戸籍が女性であれば、そんなひどい扱いはされず『声が少し低い女性』として手続が進んだのではないかと思います。たかが戸籍という人もいますが、戸籍の性別が男性であることは様々な場面で、その人をどのように捉えるかのスタートラインにされてしまいます」

他にも、飛行機に搭乗する際、戸籍が「男性」であるがゆえに搭乗を拒否されそうになったことがあったという。航空会社の手続きではパスポートに従って「男性」とされてしまったが、空港に現れたのは女性。「他の方の搭乗券では搭乗して頂くことはできません」と不審者として扱われた。性適合手術を受けているにも関わらず、戸籍が「男性」であるという理由で、スポーツクラブから男性更衣室や男性浴室、男性トイレを使うよう、強要されたこともあった。

生命保険の加入、さまざまな行政手続き、選挙の投票。「シスジェンダー(編集部注:生まれた時の身体的性別と自分の性自認が一致している)の女性」であれば必要のない戸籍の性別確認を、女性は強いられてきた。「女性ではなく不審者扱い」に、その都度、女性は傷いてきたという。

「100人いたら、99人が戸籍と性自認がフィットしているからといって、そうじゃない人に対して、『あんたはおかしい』というのは、あまりに理不尽かなと思います。言われた方は、生まれたことが失敗なのかとさえ思い詰めてしまう。

この人が女性と生きていることは、偽りのない事実です。それにも関わらず、日常生活で接点がない大勢の人たちが、『この人は男や』となぜ言い続けるのだろうという率直な疑問があります」

●家族と幸せに生きることと、性別を尊重されることを求めることはわがままか?

このニュースが流れると、ネットではさまざまな反響があった。その一つが、結婚したまま女性に戸籍変更をするならば、性同一性障害特例法に従って離婚すべきだという意見だ。「事実婚にすればいい」「なんでも自分の都合を言うのは良くない」という批判のコメントが並んだ。

これに対しも、南弁護士は疑問を投げかける。

「多くの人にとって結婚は、家族であることや、かけがえのない関係であることを、国によって保障されることを意味します。また、国から自身の性を否定されることはありません。つまり、家族として生きることと同時に、自分の性別を保障されています。これについて、誰も欲張りとは言いません。

でも、この人がその2つを実現しようとしたら、『わがままだ』と言われるわけです。本当にそうなのでしょうか。例えば、選挙権を2人分ほしいと言ったらわがままだと思いますが、家族と一緒に生きることと、性別を尊重されることを法律上、保障してほしいということの、どこがわがままなのだろうと思います」

女性によると、ニュースのコメント欄には「こんな奴は始末いてまえ」という心ない言葉も書き込まれた。女性は「私は幸せになることを望んでは駄目なのでしょうか」と悲しい気持ちになったという。南弁護士はこう投げかける。

「では、性同一性障害の診断を受けた人は、常に他の人たちが得られている権利がマイナスであることを『あつかましい、あきらめろ』と言われなければならないのでしょうか。世の中、五体満足で、シスジェンダーで、ヘテロセクシャル(異性愛者)の人だけがマジョリティで、それ以外の人たちは、『すみません、部屋の隅を使わせてもらいます』と肩身の狭い思いでいいのでしょうか」

●「性同一性障害特例法」の問題点とは?

戸籍の性別と自認する性別が不一致である場合、それを一致させるために性同一性障害特例法が2003年、制定された。女性の代理人である南弁護士と吉田昌史弁護士は、審判申立書でその目的や意義を次のようにとらえた。

「性同一性障害特例法による、戸籍の性別変更は、性同一性障害にある者へ与えられる特別な恩典ではない。そもそもいかなる場面でも、まずは自覚する性別に基づいて、社会的な取り扱いがされることが本来あるべき個人の尊重である」

それに照らし合わせれば、戸籍変更ための制約は「必要最小限度」でなければならず、「婚姻していないこと」(同法3条1項2号)という要件は、戸籍を変更しようとする女性に対して離婚を強制するもので、「必要最小限度」とは到底いえない、と主張した。

戸籍変更に厳しい要件を求める同法について、南弁護士は問題点をこう指摘する。

「今回の審判申し立ては、もっと大きな枠組みで見た時に、すぐれて社会的な問題です。この人を男性とするか、女性とするかを、性同一性障害特例法では医師の判断にすべて委ねています。しかし、これは特に戸籍に関わる問題ですから、医師が判断が判断することではなく、法律が判断すべき問題です。

もちろん、医療的支援は、性同一性障害の方たちにとって欠くことのできないものです。だから医療の研究や技術が進み、性別適合手術やホルモン治療がもっと利用しやすくなることはとても大事だと考えます。ただ、常に法律の問題と医療支援の問題がシンクロするとは限りません。そうした枠組みをそろそろ見直す時期だと思います」

●もう一つの「同性婚訴訟」として

国内では同性婚を求める違憲訴訟が2月14日、東京地裁など全国4カ所で同時提訴されたが、女性は今回の審判申し立てについても、「同性婚訴訟」と位置付けていた。その思いを南弁護士はこう語る。

「日本では、婚姻届を出して戸籍上の夫婦になると、プレミアムがたくさんついています。現在、同姓カップルに対して、個別に運用レベルの緩和もありますが、社会保障や税の優遇、相続など公的な恩典や保護はされていません。

しかし、実際に女性は、女性2人のカップルと20代のお子さんというご家族を持ち、幸せな家庭を築いています。たまたま、女性の戸籍が男性だったため、法律上、婚姻を有効にすることができました。でも、実質的には同性婚をしているカップルです。戸籍変更のためにペーパー離婚しろと簡単に言う人もいますが、本来、それらは二者択一のものではないはずです。

女性のご家族も胸を痛めていて、女性の苦痛が早くなくなるようにと思っていらっしゃいます」

女性は家裁にあて、こう書いている。

「行政上や社会嫌悪からくる差別や偏見から解放され、私は自信をもって胸を張って、家族とともに前を見据えて女性として生きていきたい」「家庭裁判所におかれましては、どうぞ私の幸せと家族の幸せに斟酌(しんしゃく)して下さいますことを心よりお願いするものです」

この女性の訴えに、家裁は審判の却下という決定を下した。南弁護士は、「審判の理由は、性同一性障害特例法の要件について、立法裁量だという大枠的な判断しかしていません。政治に丸投げで個別の人権救済という裁判所の責任を放棄している。何よりも申立人本人が女性であるにもかかわらず、それと異なる戸籍の性別を強制されるという人権侵害に、具体的に何らの踏み込んだ検討もしていません」と話す。

女性は大阪高裁に即時抗告をした。幸せになりたい。その思いとともに。

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