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「同性愛は家族ではない」と言われ…それでも「弁護士夫夫」が隠さずに生きる理由
(C)Nanmori Films

「同性愛は家族ではない」と言われ…それでも「弁護士夫夫」が隠さずに生きる理由

大阪で法律事務所を営む弁護士夫夫を描いた映画「愛と法」。毎日慌ただしい日々をおくるカズ(南和行弁護士)とフミ(吉田昌史弁護士)、そして二人の元に駆け込む依頼者。それぞれの思いが丁寧に描かれたドキュメンタリーだ。

映画は昨年、第30回東京国際映画祭や第42回香港国際映画祭などで上映され、9月22日から全国に先立ちシネ・リーブル梅田(大阪市北区)にて先行上映され、初回満席での上映スタートを切った。同月29日からユーロスペース(東京都渋谷区)などで順次公開される。

時に司法に絶望しながらも、法律を信じ期待しながら戦う二人。「この映画はいろんな人の生活や人生が重なり合って、そこから社会が浮かび上がっている」と話す南弁護士に、映画を振り返ってもらった。(編集部・出口絢)

ーー弁護士事務所を家族経営する二人の日常、そして依頼者の思いがたくさん詰まった映画でした。出来上がった作品をみて、どのような感想を持ちましたか

関係者向けの試写会で事前に観ていましたが、東京国際映画祭で3回目を観た時に、初めて涙がこみ上げました。皆切実な思いで「おかしいやん」と裁判を起こしている。普段弁護士の仕事としてやっているので、僕の目線からしか裁判を見られないんですよね。依頼者が裁判をどう感じているか、置かれた状況をどう思っているか。それぞれの視点からの思いを初めて知りました。

同時に、弁護士として、依頼者の気持ちを汲み取れていただろうか、自分本位で向き合っていなかっただろうか。自分の態度や仕事を振り返るきっかけになりましたね。

ーー「わいせつ物公然陳列罪」などの罪に問われた芸術家のろくでなし子さんや「君が代裁判」の辻谷博子さんなど、全国的なニュースになった裁判の原告も多く出てきます。どのような思いで弁護活動をしていたのですか

裁判をしていると、処分や罪の重さに「えぇ〜」と思うことは多々ありますが、映画で出てくる事案は、僕も「なんでこんなことで」と思うものばかりで際立っていましたね。

映画にも出てくる「君が代裁判」は、依頼者は「おかしいよね」と思って裁判を起こしたけど、世間の反響は「あんたの方がおかしい」というものだった。「学校の先生だから歌わなきゃあかんやん」「皆がやってるんだから給料減らされて当たり前」「文句言う方がおかしい」「諦めたら」といった声が大多数。マイノリティの中のマイノリティでした。

「私は違います」と拒否をしたら、それだけで「アホ」「ばか」とまるで社会で生きていくことがダメかのように言われる。それが僕はおかしいなと思う。そういった人が生きることを許さないという発想が思い浮かぶのは何故なのだろうか、と常々思っているんです。

ーー「憲法カフェ」の講義後、受講者の男性から「血縁関係や法律的な根拠がなければ家族ではない」と言われるシーンがありました。このような経験は、日常的によくあるのですか

僕は様々なところで講演活動をしていますが、あのように真正面から文句を言われた経験はこれまで3回しかないんです。これは戸田監督の引きの強さですね(笑)。過去2回は「あんたは親不孝なこと言ってなんとも思わんのか」「子孫の雄という普遍的な人間の役割を放棄していることの社会的責任をどう考えているのか」と言われました。

いずれも60歳過ぎた男性で、自分なりの理屈で言ってくるんです。「あなたのような存在はおかしい、気にいらん」と僕を傷つけたいと思っているから言ってくるんでしょう。嫌ですよね。

でも、同じように外で講演をしているバイセクシュアルの女性で性の多様性をテーマに人前で話すこともある友人は、すごく頻繁に言われるそうです。僕は弁護士で男だと言うことで、世間の人から悪口を言われにくい下駄を履かせてもらっているだけなんだと思います。

ーー時には嫌な思いをすることがある。それでも講演活動を続けるのは、なぜですか

僕たち二人が同性愛であることを、テレビや映画にできるくらい隠さずに生きることができるのは、自分たちの努力でもなんでもありません。薄い氷の上をたまたまうまいこと歩くことができたからだと思っています。

親や兄弟など身内が「外で言うな」と言う人ではなかった、二人とも弁護士だから自分の力で戦うだけの知識があった。こうした社会に対してたまたま傷つきにくいファクターを持ち得ているから、言えているだけなんです。

カミングアウトすることが正義ではありません。日常の中で傷つけられまくっている人がいる。それなら、せめて僕と吉田が外で自分のことを話すことで、誰かが「あっ、そうなんや。無自覚で言ったことが人を傷つけていたかも」と気づくきっかけになったらなと思っています。

ーー弁護団で集まって尋問の練習をしたり、時には依頼者にいらついたり。普段弁護士の皆さんとは記者会見やインタビュー取材で会うことが多いので、舞台裏が見られて新鮮でした。

「目まぐるしく忙しいんやなあ。まぁ頑張ってるわ」と思いました。映画の撮影は2014〜16年ごろ。当時は30代で体力もあったので、2人でわーっと馬車馬のように働いて。時間と体力で乗り切っていたところもありました。

でも40代になって「しんどいなあ」と思うことも増えました。仕事の引き受け方をちゃんとコントロールする必要がある。この弁護士という仕事を一生やっていくには、どうしたらいいか。自分たちの仕事ぶりを落ち着いて俯瞰的に眺めることなんてなかったので、僕と吉田の役割分担を考えるきっかけになりました。人生の中間ダイジェストをしてもらったような感じで、ありがたいですね。

アメリカで放送された「グッド・ワイフ」という弁護士ドラマがありますが、この映画にはお仕事ドラマのような要素もありますよね。法曹養成はさんたんたる状態ですが、この映画を見て弁護士になりたいと思ってくれる人が増えたらいいなと思います。

この映画には僕たち二人を含めて、色々な人の日常や人生が出てきます。僕と吉田がずっと歌ってるような映画じゃないので安心して見てください(笑)。いわゆるLGBT映画という範疇にも入らないものだと思うので、先入観は持たずに、色々な人に観てもらいたいです。

(弁護士ドットコムニュース)

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