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酒税ひとつでお酒は廃れる? 名作落語にも登場「柳蔭」など「みりん酒」の栄枯盛衰
白扇酒造の「柳蔭」

酒税ひとつでお酒は廃れる? 名作落語にも登場「柳蔭」など「みりん酒」の栄枯盛衰

今年の夏は特に暑い日々が続きました。江戸時代、そんな暑い日には「柳蔭(やなぎかげ)」という、みりんを使ったお酒が好まれたそうです。柳の木蔭で涼をとりながら飲むことに由来する、何とも風流な飲み物です。

今でこそ、みりんは「調味料」との考え方が一般的ですが、元々はお酒としても愛されていたそうです。現代でも正月(≒おとそ)などで飲む地域がありますよね。

柳蔭は「本直し」などとも呼ばれ、甘いみりんを焼酎で割って口当たりを良くした、現代で言うところのカクテルです。有名な古典落語「青菜」では、お屋敷の主人にふるまわれた植木屋さんが、その味に感激するシーンが描かれています。

ところが、その柳蔭、今ではめっきり飲まれなくなり「幻の酒」になってしまいました。一時、同じようにみりんを使ったお酒が勢いを取り戻した時期もあったのですが、酒税法の改正ですぐに廃れています。

酒税によって、酒の味や文化が変わってしまう事例として、2000年前後に起きた、お酒としてのみりん問題を紹介します。(編集部・園田昌也)

●普段料理で使っているのは、実は「みりん風調味料」

みりんは大きく3種類に分類できます。まずは、アルコール度数が1%未満の「みりん風調味料」。我々が普段使っているみりんの多くがこのタイプです。

みりんの原料となる米が不足していた、戦後すぐの1947年に福泉産業(静岡県富士市)が開発しました。酒税は「アルコール度数1%以上の飲料」が対象なので、酒税はかかりません。酒屋でなくても製造・販売できたことも普及に役立ちました。

次にアルコール度数が10%前後ある「発酵(醸造)調味料」。みりんタイプ調味料とも呼ばれます。度数は酒税の対象ですが、塩分を加えて「飲料」ではなくすることで酒税を回避しています。

そして、アルコール度数が14度ほどある「本みりん」。こちらは酒税がかかりますが、伝統的な調味料としての側面もあり、酒税が低く抑えられてきた経緯があります。

●焼酎の酒税アップの隙間で「本直し」が流行も…

この本みりんにアルコールや焼酎を加えたお酒が、1990年代末に大量に売れました。

有名なのが、福岡県久留米市にある酒造「鷹正宗」の本直し「いっぱいどう大」(25度)です。1999年7月に4リットル1300円前後で販売すると、瞬く間に売れ、他社もあとを追いました。税率がみりん扱いだったので、安くできたのです。

当時の日経産業新聞によると、「風味は焼酎とほとんど変わらないが、酒税が甲類焼酎の約6分の1で価格は3割ほど安い」(2001年3月21日付)とのことで、鷹正宗の売上高の3分の1ほどを占めていたそうです。

しかし、焼酎業界から不満の声があがります。この頃、焼酎に対する酒税が高くなっており、競争上不利になっていたからです。

焼酎(甲類)の酒税は1989年の酒税法改正で大幅に上がりました。さらに1997年と98年には、焼酎とウイスキーの酒税格差が「貿易障壁」だとして、世界貿易機関(WTO)の裁定も受けています。この間、焼酎の酒税は3倍以上になっていました(日経流通新聞1999年9月2日付)。

つまり、お酒としてのみりんは、値段が上がった焼酎などの代替品、いわば「安い焼酎」として、バブル崩壊後の不況で注目されたというわけです。ですが、焼酎業界からしたら「調味料」だから税率を低く抑えられているみりんが、お酒として売られては困ります。大蔵省(当時)としてもお酒として飲むなら税金がほしい。

この結果、2000年と2001年に酒税法が改正されました。焼酎類似のみりんは、みりんの割合を増やすなどして、味を変えつつも存続を図りますが、最終的に税額が焼酎並みに引き上げられてしまいます。1300円前後(4リットル)だった価格も500円前後の値上がりになったのだとか(日経新聞2001年5月14日付朝刊)。

鷹正宗の担当者によると、いっぱいどう大は今年2018年、ついに終売になりました。「名前は知られていて、ファンも多かったので残しておいたのですが、税金のメリットもなく、(販売量も)落ち着いていたので」とのことです。

●今でも一部に残る「柳蔭」

酒税メリットが薄い今、本直しは日本文化に関心を持つ人たちなどに飲まれているようです。

岐阜県の白扇酒造は「伝統的なお酒が失われないよう」柳蔭をつくり続けています。原料はみりんと本格米焼酎のみ。糖類や醸造用アルコールなどは一切使わないといいます。度数は20度で、税率はリキュール扱いです。

記者も取り寄せて飲んでみましたが、日本酒をギュッと濃縮したような、濃厚な甘さを感じました。オンザロックやソーダで割ると、スッキリ飲めます。だいぶ秋めいて来ましたが、お月見などで飲んでも良いかもしれません。

(弁護士ドットコムニュース)

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