子どもが飲食店でヤケドしたのですが、慰謝料請求はできませんかーー。そんな質問が、弁護士ドットコムの法律相談コーナーに寄せられました。相談者によれば、店内で席に案内されるのを2歳の娘と待っていると、店員が運んでいたカレーが歩いていた娘の頭とおでこにかかり、ヤケドをしてしまったそう。
店員はすぐに応急処置をし、店の責任者も病院まで来るなど謝罪をしてくれたそうで、治療費の支払いをすることで合意しています。しかし、相談者は「治療費だけで済む話なのでしょうか?」と納得していない様子です。
このような場合、治療費のほか慰謝料を請求することはできるのでしょうか。治療費や慰謝料の計算の際、逆に親が監督責任を問われたり、店から過失相殺を主張されたりする可能性もあるのでしょうか。大橋賢也弁護士に聞いた。
●「損害」は何か
まず、店員は、過失によって子どもに火傷を負わせてしまっていることから、不法行為責任を負います(民法709条)。また、店を運営する会社は、店員の仕事中の不法行為責任に対して、使用者責任を負います(民法715条1項)。
次に、店員や会社が賠償責任を負わなければならない「損害」とは、何であるかが問題となります。通常考えられる『損害』としては、(1)治療費、(2)病院へ通院する際の交通費、(3)(被害者が2歳の子どもなので)通院付添費、(4)傷害慰謝料等が考えられます。
治療費と通院交通費は、領収書を示して実際にかかった費用を請求することになります。通院付添費は、症状または幼児等必要と認められる場合に被害者本人の損害として肯定されるもので、1日3000円程度認められる可能性があります。傷害慰謝料は、入通院期間に応じて算定するものです。交通事故の際に用いられる基準を参考にして、算定することになります」
●2歳の子どもに過失は無くても、被害者側に過失が認められる場合も
子どもが店内で突然走り出し、店員が子どもを避けようとして立ち止まった際にカレーが子どもにかかってしまったといった場合でも、店員や会社は全額賠償しなければならないのでしょうか。
「民法722条2項は、『被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる』と定めています。これは過失相殺といって、被害者にも落ち度があった場合には賠償額を減額することによって、当事者間の公平を図ろうとする趣旨の規定です。
最高裁は、『被害者と身分上ないしは生活関係上一体をなすとみられるような関係にある者(これを被害者側といいます)』に過失がある場合は、過失相殺をすることができるとしています(被害者側の過失の法理)。
ご相談の件でも、親が漫然と子どもを店内で走り回らせていたり、親が目を離した隙に子どもが走り出したような事情があれば、2歳の子どもに過失は無くても、被害者側には過失があるということで、賠償額が減額される可能性があります」