「自分から誘ったのでは?男を漁りに行ったんだろう」──そんな侮辱的なことを言われた。
大阪地検トップの検事正からの性被害を訴えた女性検事を支援する団体が実施したアンケート調査で、「捜査機関による二次被害」の実態を示す証言が数多く寄せられた。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●届かない声 有罪はわずか「5%」
女性検事を支援する団体は3月2日、東京都内で記者会見を開き、アンケート調査の「速報値」を発表した。
「性犯罪被害者から見た捜査・裁判の問題点に関する実態調査アンケート」は、2025年秋からインターネット上で実施され、607人から回答があった(有効回答603人)。
回答者のうち、性被害を捜査機関に申告できた人は32%にとどまり、加害者が最終的に有罪とされたケースは5%だった。
自身も性被害に遭ったことがあり、今回の調査チームに加わった池田鮎美さんは、2023年の内閣府の調査で「不同意性交等の被害を受けた人のうち警察に連絡・相談したと回答したのが1.4%」だった点に言及。
今回の32%という数字は必ずしも性暴力被害の全体の実態を示すものではないと注意を促した。
「今回は『捜査機関の二次加害の実態』についてのアンケートであると呼びかけたので、捜査機関に相談したことのある被害者がより多く回答してくれた可能性があります」
では、なぜ捜査機関に相談することが難しいのか。
調査では、警察に被害を申告しない・できない理由も聞いた。187人が「どこに相談してよいのかわからなかった」、158人が「自分さえ我慢すれば、なんとかこのままやっていけると思った」「相手の行為が理解できず、被害を受けたと思わなかった」、147人が「相談するほどのことではないと思った」と回答した。
●「絵文字送ったら男は勘違いする」警察対応に不信
被害者たちはどのような言葉に傷つけられたのか。警察と検察のそれぞれについて尋ねた自由記述欄には、捜査の過程で受けたとされる言葉の数々が並んだ。
<警察での対応>
「『このような被害にあわないように日ごろから気をつけなさい。あなたにも落ち度があった』と説教された」 「女性警察官でさえ、被害者の落ち度があるかのように指摘し続けた」 「『体を触られただけで、何もとられていないんでしょ。女性なのにこんな時間まで残業をして、夜道を一人で歩くから悪い』と被害届も受理せず、防犯カメラも探してもらえなかった」 「『知り合いなんでしょ』『なぜ被害当日警察に来なかったのか』と性被害を疑問視された」 「(加害者への)メールに対して『絵文字なんて送ったら、男性は勘違いするかもよ』と言われた」
●「体を使った取引で取材したのでは?」検察官から侮辱
<検察での対応>
「被害者が説明した事件の流れを、被疑者が一方的に否定し、供述が食い違っているにもかかわらず、送致から不起訴まで被害者の再聴取をせずに、不起訴処分とした」 「僕は男だからあなたの気持ちは分からないと言われた」 「調書に何度も『恥ずかしい』という単語を使っていた。私は一度も言っていないし、思ってもいなかったのに」 「『あなたは体を使った取引をして取材をしていたのではないか?』と聞かれた」 「『自分から誘ったのでは?男を漁りに行ったんだろう』等の侮辱的なことを言われた」 「何度も被害に遭う女性は金目当てだという内容を、司法修習生の前で意気揚々と説明された」
●「サバイバーへの敬意を持って職務を全うして」捜査機関に要望
看護師で公認心理師の伊藤悠子さんは記者会見で「性暴力は、PTSDの発症と重症化、さらには長期化を高い頻度でもたらします」と指摘。
「同意を無視した性的接触が、皮膚のバリアを超えて、粘膜という体の内部にまで及ぶとなれば、その瞬間、殺人と同じ生存の危機が起こっています」と述べた。
今回のアンケート調査に関して「周囲の対応が悪いと回復は遅延します。性犯罪捜査に携わる専門職の方々には、死なずに、この危機をサバイバルしてきた人たちへの敬意を持って、法に基づいた職務を全うしてほしい」と話した。
女性検事の代理人で、今回の調査に関わった田中嘉寿子弁護士は、2023年の改正刑法施行の前後で、不同意わいせつや不同意性交等の送致件数が増えている一方で、起訴率に変化が見られない点に触れ、次のように話した。
「実際に裁判になって無罪になれば、『こんな事件が無罪になるのは不当だ』とみなさんが知ることができるが、不起訴になれば誰も埋もれた声を拾うことができない」
性犯罪事件を捜査する検事の問題について話す女性検事(2026年3月2日、東京都千代田区の弁護士会館で、弁護士ドットコム撮影)
●二次被害の背景に「レイプシールド法の不存在」
田中弁護士は、被害者が受ける二次被害の背景について「刑事訴訟法にレイプシールド法がないことだと思います」と指摘する。
田中弁護士によると、レイプシールド法とは、被害者の性的経歴について、原則として法廷で主張・立証を制限する証拠法則のことで、欧米では導入が進んでいるという。
「レイプシールド法がないから被害者が公判で叩かれる、苦しい思いをする。
だから、捜査のときに、『落ち度はないのか』『性的経歴に問題はないのか』と聞いておかないといけないという意識が捜査官にもあります。
刑法を改正した後は刑事訴訟法を改正して実務を変えていかないと、被害者が捜査手続きの中で苦しむという現状は変わらないと思います」
団体は今後、アンケート結果の詳細分析を専門家に依頼し、警察庁、最高検察庁、法務省、最高裁判所、文部科学省、厚生労働省、こども家庭庁、日本弁護士連合会に提出する予定。適正な法運用と法改正を求めていく方針だという。