アイドルグループのイベントで会場スタッフに対する「暴力行為」が発生した。当日、イベント中止を余儀なくされた運営各社は12月21日、加害者側との間で示談が成立したと公表した。示談内容には、賠償金の支払いのほか、今後すべてのイベントへの立ち入り禁止などが盛り込まれているという。
問題が起きたのは、指原莉乃さんがプロデュースを手がける女性アイドルグループ「≠ME(ノットイコールミー)」が、今年4月に埼玉県越谷市内の商業施設の駐車場で開催予定だったイベントだ。
埼玉新聞によると、警備員を羽交い締めにし腹を足で踏みつけたりして、2週間のケガを負わせたとして、これまで男性3人が傷害と威力業務妨害の疑いで逮捕された。いずれも不起訴になっている。
こうした一部ファンの行き過ぎた迷惑行為は、各地のイベントで問題視されてきた。法的には、どこまで責任を問うことができるのか。また、運営側はどのような対応を取ることができるのか。エンターテインメント法務にくわしい河西邦剛弁護士に聞いた。
●迷惑行為したら「出禁」や「会員資格の抹消」も
──アイドルイベントで、ファンによる迷惑行為や暴力行為が発生した場合、運営側はどのような法的対応を取ることができますか。
刑事責任や民事責任の追及だけでなく、運営側独自の対応として、イベントへの出入り禁止(出禁)やファンクラブ会員資格の抹消といった措置が考えられます。
いずれの対応を取る場合でも、現場の証拠保全が非常に重要になります。イベント現場には多数のスタッフがいるため、有事の際には動画撮影をおこなうなど、証拠を可能な限り残すよう、日頃からスタッフに周知しておくことが望ましいでしょう。
●イベント中止、チケット代は返金される?
──今回は、イベントを「中止する」という判断となりました。運営側にとっても大きな損失を伴いますし、多くのファンから責任を問われかねない決断です。法的には、どのような判断であれば正当化されるのでしょうか。
多くのチケットの裏面には「不可抗力により表記日時の興行を中止する場合以外は他の日時、別種チケットとの交換、または払い戻し等はいたしません」といった趣旨の記載があります。
ここから読み取れるのは、次の点です。
・「中止」でない場合(出演者や演目の変更など)は、原則として払い戻しはおこなわれない ・主催者にとって「不可抗力」による中止の場合は、払い戻しはおこなわれる ・明文規定がなくても、「不可抗力」でない中止の場合も、当然に払い戻しが認められると考えられる
つまり、不可抗力かどうかを問わず、イベントが中止された場合、原則としてチケット代金は返金されるという整理になります。
ファンから運営側に法的責任が追及される場面の大半が、チケット代金であり、その点で返金がされる以上、運営側の法的責任が大きく問題となるケースは、これまでもほとんどありませんでした。
遠征にかかった交通費や宿泊費などは自己負担になりますが、結果として運営者側が大きな経済的負担を負う構造になっています。そのため「中止するか否か」という判断は、ファンとの関係より、主催者がイベント保険の適用を受けられるケースか否かが一つの目安になります。
むしろビジネスとの関係で重要なのは、ファンの不安を和らげ、ファン離れを防ぎ、タレントのイメージを守ることです。その観点からも、中止に至った経緯や理由について、事実に基づいた正確な情報をファンやメディアに向けて丁寧に発信する姿勢が求められます。
●賠償額は数千万円に及ぶ可能性も
──今回、示談によって賠償金が支払われたとのことですが、一般的にイベント中止にまで至ったケースでは、加害者側への賠償請求額はどの程度になるのでしょうか。
運営側が発生した費用をすべて請求する場合、数千万円単位になることも十分考えられます。
具体的には、
・イベント中止に伴うファンへのチケット代返金 ・会場費やスタッフの人件費 ・被害者の治療費や慰謝料 ・弁護士費用 ・広報対応にかかる費用
などが含まれるでしょう。
一括で支払われれば問題はありませんが、分割払いの場合、途中で支払いが滞るケースも散見されます。
両親を連帯保証人にするなどの方法は考えられるものの、回収を確実に担保する現実的な方法は、一括支払いに限られるのが実情です。
●「出禁」破ったらどうなる?
──今回は、今後一切のイベントに参加しないという誓約をさせたとのことですが、もし当該ファンがこれを破った場合、どのような措置が可能でしょうか。
示談書で出禁を誓約していても、示談はあくまで民事上の契約です。そのため、違反したからといって、直ちに刑事罰が科されるわけでもありません。
ただし、威力業務妨害罪や建造物侵入罪が成立しやすくなります。出禁処分を受けているのにもかかわらず、イベントに来場し、退去命令に従わなかった場合、犯罪として成立する可能性が高まります。
今回は不起訴となっているため前科はありませんが、警察や検察には捜査記録が一定程度残っています。仮に再び通報があった場合には、これまでの経緯を踏まえ、逮捕や起訴に至る可能性は高まると言えるでしょう。
他のファンが、今回の加害者を会場で見かけた場合に、運営側へ情報共有し、毅然と対応することも、再発防止の一つの方法だと考えられます。