11月29日に上海で予定されていた歌手の浜崎あゆみさんのコンサートが中止になりました。中国側から直前になって「公演中止の要請」があったといいます。
その理由は「不可抗力」とされていますが、台湾有事をめぐる高市早苗首相の国会答弁などにより、日中関係が悪化していることが背景にあるとの見方も出てきています。
チケット代は返金されることになりましたが、こうした事情によるライブ直前中止の場合、会場設営やスタッフの人件費などは、最終的に「誰が負担」するのでしょうか。エンターテインメント法務にくわしい河西邦剛弁護士に聞きました。
●主催者に「返金義務」が生じる
日本では、コンサートの主催者(プロモーター、イベンター)が中心となり、チケット販売や会場契約、出演契約を取りまとめるほか、アーティストや映像・音響などの制作チームと連携し、当日に向けた準備を進めます。
コンサートをめぐる各種契約は、この主催者を中心に結ばれるので、主催者側が発注者となり、アーティスト側は出演業務の受注者となります。
受注者であるアーティスト・事務所側がビジネス上の立場が弱いように見えますが、必ずしもそうではありません。有力アーティストの場合、受注者のパワーも相当強くなります。
チケット代金は客が主催者に払い、主催者がその一部を出演料としてアーティストサイドに支払います。なお、会場で販売されるグッズについては芸能事務所に直接売上計上されるのが一般的です。
このように、主催者にはチケットの売上が入るとともに、法律上は返金義務も生じることになります。したがって、一般的には、主催者が公演中止の最終判断をすることになります。
●中国の企業にとって「不可抗力」だった
今回のケースは事実関係に不明なところが多いですが、報道などによると次のことがいえます。
・中国のコンサート運営企業が判断
・浜崎さんサイドにキャンセルを要請
・理由は「不可抗力の要因」
そうすると、コンサートの主催者は中国の運営企業だと思われます。そして、今回キャンセル要請の理由が「不可抗力」ということですが、誰にとって不可抗力だったかというと、中国の運営企業にとって「不可抗力だった」と思われます。法的には、この企業にとって「過失がない状態だった」ということではないかと思います。
日本のコンサート主催者であれば、天候等によってコンサートが中止になった場合に備えて、興行中止保険に加入しています。しかし、一般的に「政治的要因」は保険の適用外となります。
保険内容はケースバイケースですが、今回、日本の一般的な興行中止保険と同内容で、仮に「政治的要因」が理由であるとすると、保険の適用はないということになり、中国の企業がチケット返還について全額負担を負うことになります。
●話し合いによって調整されると思われる
浜崎さんの所属事務所は大きなグループ会社で、中国法人もあります。一般に、国をまたぐ契約は準拠法や管轄裁判所が複雑になるので、今回でいえば中国法人同士で契約を結ぶ傾向にあります。
そうすると、中国のコンサート運営企業と浜崎さん側の中国法人が契約していることが考えられます。浜崎さん側が主催者に出演料や渡航経費を請求できるかは、主催者と浜崎さん側の契約内容によるかと思われます。
しかし、契約書の内容に関わらず、こういうケースでは話し合いにより調整されることがほとんどです。
浜崎さんは2024年にもアジアツアーを開催しており、中国でのライブ開催は今後も予定され、お互いにとってビジネス上の関係が続くと思われるので、契約書どおりに判断するという可能性は低いように思われます。
なお、2020年に緊急事態宣言が発令されコンサートが次々中止になった際も、多くのライブで主催者とアーティスト側が協議する中で費用負担をしており、今回も裁判に発展する可能性は現状では考えにくいところです。
今回のケースで複雑になってくるのが、浜崎さん側が手配したスタッフ、ダンサー、バンドメンバーのギャラについてです。
たとえば、浜崎さんの日本ツアーでもいつも出演しているダンサーやバンドメンバーが帯同予定であったとすると、ダンサーやバンドメンバーとの契約は、中止を判断した中国企業ではなく、浜崎さん側の日本法人と契約している可能性が高いかと思われます。
そうすると、契約上はダンサー等へのギャラや渡航費の法的な支払い義務は中国の企業ではなく、浜崎さん側に生じる可能性があるかと思われますが、ここについてもまとめて協議していくと思われます。