モバイルバッテリーを原因とする火災が相次いでいる。
東京都杉並区のマンションで9月25日朝に火災が発生し、男女6人が病院に搬送された。報道によると、火元とみられる部屋の住人は「スマートフォンにモバイルバッテリーをつないで寝ていたところ、炎が上がった」と話しているという。
また、京都市の10階建てホテルでも10月6日、2階客室から出火し、消防隊員が消し止める騒ぎがあった。報道によると、充電中のモバイルバッテリーが出火原因とみられている。
スマホの普及に伴い、リチウムイオン電池を使用したモバイルバッテリーは今や生活必需品だが、火災や発火事故のリスクも指摘されている。
では、モバイルバッテリーが火元となった場合、所有者やメーカーの法的責任はどうなるのか。消費者問題にくわしい上田孝治弁護士に聞いた。
●失火責任法で「賠償責任」を負わない場合も
──モバイルバッテリーの所有者の責任はどうなりますか。
モバイルバッテリーが原因で火災が発生し、近隣住民などに損害を与えた場合、所有者が正しい使用方法を守らず使っていたり、異常があるのを知りながら使用を続けていた場合には、民法の不法行為として損害賠償責任を負う可能性があります。
ただし、「失火責任法」によって、失火による損害賠償は、失火者に重大な過失(著しい不注意)がある場合に限って責任が認められます。単なる過失だけでは、所有者は賠償責任を負わないのが原則です。
●PL法で「被害者の立証責任」が軽くなる
──メーカーの責任はどうでしょうか。
モバイルバッテリーなどの製造物に欠陥があり、それによって損害が発生した場合、メーカーは「製造物責任法」(PL法)に基づいて、被害者に対して損害賠償責任を負うことになります。
PL法では、(1)製造物であること、(2)欠陥(通常有すべき安全性を欠いていること)があったこと、(3)損害が生じたこと、(4)欠陥と損害との因果関係──という4つの要件を満たせば、メーカーの責任が成立します。
民法では、被害者がメーカー側の「過失」を立証する必要がありますが、PL法では「過失」を要件とされません。被害者は製品に「欠陥」があることを示せばよく、立証の負担が軽くなっているのがポイントです。
とはいえ、被害者は「欠陥」の存在を証明する必要があります。欠陥の箇所や原因を科学的に特定しなければならないとなると、証明のハードルは非常に高くなります。
そのため、裁判例では「通常の用法に従って使用していたにもかかわらず、身体・財産に被害を及ぼす異常が発生したことを主張・立証することで、欠陥の主張・立証としては足りる」とされています。
なお、PL法では、メーカーだけではなく、輸入業者も責任を負うとされています。
したがって、モバイルバッテリーに欠陥があり、それが原因で損害が発生した場合、被害者はPL法に基づいて、メーカーや輸入業者に損害賠償を請求することができます。