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日テレ「奈良公園シカ」報道炎上、街頭インタビュー依存が背景か…それでも「現地取材をやめるな!」TVプロデューサーの提言
奈良公園のシカ(読者提供)

日テレ「奈良公園シカ」報道炎上、街頭インタビュー依存が背景か…それでも「現地取材をやめるな!」TVプロデューサーの提言

日本テレビ系列のニュース番組『news every.』が「奈良公園のシカに対する暴力問題」を報じたことをきっかけに、SNS上の炎上が発生した。取材に応じた人々に誹謗中傷が向かってしまったのは、由々しき事態だ。

今回の出来事は、テレビニュースへの信頼性、報道機関の取材姿勢、そしてネット上の誹謗中傷という複数の問題が複雑に絡み合っている。いずれも今の社会とメディア関係者が真剣に向き合うべき課題である。(テレビプロデューサー・鎮目博道)

●『news every.』の取材は大きくは間違っていなかった

まず指摘しておきたいのは、『news every.』が現場に足を運んだこと自体は、大きくは間違っていないという点だ。

自民党総裁候補である高市早苗氏が「奈良のシカを蹴り上げる外国人がいる」と発言した以上、その真偽をたしかめるのは、まさに報道機関の責務である。

ひとつ間違えば、外国人差別につながりかねない発言の重みを踏まえれば、報道機関が現地で検証することは不可欠だった。

●一方で「掘り下げ不足」は否めない

他局も含めて、テレビニュースは、他のメディアやネット上に転がる二次情報に頼りすぎで、「取材が足りない」と批判されている。「現場取材に汗をかく」ことが軽視されがちな中、日テレの姿勢は評価できる。

ただ、そのうえで、今回の放送には「脇の甘さ」も見られた。いみじくもSNSで指摘されていたことではあるが、紹介された証言が少数にとどまったため、取材の掘り下げが不十分だと受け止められた。

現地関係者数人のインタビューを根拠としてニュースを構成するのは、少し「取材が浅すぎた」と言えないか。

●「街の声」に頼りすぎない工夫を

今回のケースについて、証言してくれた人たちは奈良公園の事情についてよく知っていて、その信頼性に問題はないと私には見えるが、一般論としてテレビニュースは「街頭インタビュー」を重視しすぎる傾向がある。

局が都合よく「取捨選択」できてしまうため、都合の良い内容だけを採用して、それ以外はボツにすることができる。必ずしも「市井の声」を反映しているとは言いがたく、若干の信頼性に欠けるのだ。

統計学の手法に基づく世論調査には及ばないにしても、少なくとも「数十人とか百人単位」程度のインタビューを重ね、その全体に関する情報を公開するべきではないか。

「私たちは◯月◯日の◯時から◯時まで、◯人にアンケートをおこないました。その結果、Aという趣旨の回答の人が◯人、Bという回答の人が◯人でした。その中の数名の声をご紹介します」といった工夫が求められるだろう。

番組内でその程度の説明ができる取材をしたうえで、街頭インタビューを紹介するというようにしなければ、「テレビは嘘をついている」と考えているネット民たちをはじめ、視聴者の信頼を得るニュースにはならないのではないか。

ニュースの信憑性に「疑義をさしはさみたい」と考えている人に、ツッコミを入れる隙を与えてしまっていると思う。

●お手軽な「街の声」に頼りすぎない

画像タイトル 『news every.』(公式サイトから)

さらに言えば、「街の声だけ」では取材不足だ。地方自治体や捜査機関、学術機関などにあたってデータを探すべきだったと思われる。

放送時間に追われ、人数もギリギリで作っていることはわかる。ただ、それが難しかったとしても、少なくとも公的な立場にある人の見解をなんとか聞き出して、紹介することが必要だと思う。

せっかく取材したのに、若干甘さが残って逆に炎上を招いてしまったことは残念だ。「ちゃんとやるべきことをやろうとした」わけだから、むしろ徹底的にやるべきだった。

そして多少炎上したからといって、逆に萎縮してしまうような事態にならないかが一番心配だ。むしろこれからが正念場だ。日テレには是非頑張ってほしい。繰り返すが、実際に現場に行って事実確認をすることは報道の基本だ。

炎上を恐れて現場から足を遠のかせるべきではない。

●取材を受けてくれた人をどう守るべきか

ここまでは「取材の甘さ」を語ってきたが、もう一つ指摘すべきテーマがある。炎上事案における取材先への配慮の問題だ。

今回は、善意でインタビューに答えてくれた取材先の方に、大変な迷惑がかかってしまった。「テレビ局の仕込みではないか」などという事実無根の疑念をかけられ、誹謗中傷され、身元を特定されるようなことまで起きているのは明らかに異常だ。

短絡的にそのような行動に走った人たちは間違っている。しかし、最近では炎上しやすいテーマを扱えば、すぐにこのような状況になりえる。そんな社会情勢にあるのは間違いない。

炎上中のテーマ、あるいは炎上しやすいテーマの取材であっても、「良かれと思って」協力してくれた善意の一般の方をどう守るべきなのか。テレビ局として、業界として対策をとるべきだろう。

●「インタビューの匿名化の弊害」も考えられる

たとえば「インタビューの匿名化」もその一つの方策ではないか。顔を画像処理で隠し、音声も変えることで、個人の特定を難しくし、「※取材者のプライバシーに配慮して処理をおこなっています」などとテロップ表記するなど、やれることはあるはずだ。

とはいえ、たしかに、そうした「インタビューの匿名化」をおこなうことによって、さらに一層「報道の信頼性を低下させる」という反作用があることも事実だ。

「仕込みではないか」などと疑われる可能性はいっそう高くなる。だからそうしたくない、という現場の気持ちも痛いほどよくわかる。

しかし、最近のネット言論空間における、誹謗中傷などの苛烈さを考えれば、やはりそこは「取材を受けてくれた人の身の安全第一」でいくべきではないだろうか。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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