客らが店員などに迷惑行為におよぶ「カスタマーハラスメント」(カスハラ)。国が企業側に対して対策の義務化を求める法改正案を閣議決定するなどの動きがあるものの、サービス業の現場ではいまだに被害が後を絶ちません。
そこで、カスハラの加害・被害の実態等について、弁護士ドットコムの一般会員を対象にアンケートを実施しました。(実施期間:1月22日〜1月29日、有効回答数800人)
アンケートでは、「カスハラの加害側になったことがある」という回答が全体の約1割にのぼるという結果になりました。
加害経験者のうち、「カスハラに当たる可能性があると認識していた」は28.4%にとどまり、「正当な批判・論評だと思ったから」が60.5%となるなど、加害側の意識に課題がある可能性のある回答が目立ちました。
カスハラの加害および被害ともに、内容は「暴言」、現場は「電話オペレーター」が最多となり、顔の見えない相手に心無い言葉を浴びせるという典型的なカスハラシーンが想起される結果となりました。以下では、アンケートの詳細を紹介します。
●カスハラ経験がある人は約1割
アンケートの回答者は、男性が62.6%、女性が35.9%、その他が1.5%でした。
年代別では、50代が34.3%で最多。多かった順に、40代は25.9%、30代は16.3%、60代は15.3%、20代は4.4%、70代以上は3.6%、10代は0.4%でした。
カスハラをした経験の有無を尋ねたところ、「ある」が10.1%、「ない」が89.9%と約1割が加害者になったことあるという結果となりました。
●カスハラ「加害」は「正当な批判だった」が6割
カスハラをした経験が「ある」と回答した81人を対象に、カスハラをした時点で自身の言動がカスハラに当たる可能性があると認識していたかを尋ねたところ、「認識していた」は28.4%にとどまり、「認識していなかった」が71.6%となりました。
カスハラ加害の具体的な内容に尋ねたところ、「暴言」が55.6%で最多でした。「説教」が25.9%、「威嚇・脅迫」が24.7%と続くなど、言葉によるカスハラが目立つ結果となりました。
「金品の要求」(7.4%)、「暴力行為」(7.4%)、「土下座の強要」(4.9%)、「性的な要求(セクハラ)」(2.5%)なども一定数ありましたが、これらは事件となってもおかしくない行為です。
カスハラをした場所については、「電話オペレーター」が44.4%でもっとも多く、飲食店が24.7%、コンビニが12.3%でした。
「その他」が24.7%でしたが、選択した人の自由回答(記述式)によれば、「携帯ショップ」「郵便局」「空港」など他の回答と同様にサービス業の現場が挙げられていました。
カスハラの動機についても尋ねたところ、「正当な批判・論評だと思ったから」が60.5%、「怒りが収まらなかったから」が45.7%でした。
「正当な批判・論評だと思ったから」と回答した49人のうち、「自身の言動がカスハラに当たる可能性があると認識していた」と回答したのは9人(18.4%)にとどまり、カスハラ経験者全員に尋ねた際の「認識していた」の28.4%を下回る結果となりました。
●カスハラ「被害」経験者が過半数
カスハラをされた経験の有無を尋ねたところ、「ある」が54.0%、「ない」が46.0%と過半数が被害者になったことあるという結果となりました。
カスハラ被害の具体的な内容に尋ねたところ、「暴言」が72.0%で最多でした。「説教」が54.6%、「威嚇・脅迫」が51.9%と続くなど、割合上位の3項目は加害側の回答割合と一致する結果となりました。
一方で、被害側では「無理な要求」が49.5%にのぼり、加害側の17.3%に比べ目立つ数値になりました。
加害側が無理な要求とは認識していないカスハラでも、被害側は無理な要求と受け止めている可能性もありそうです。同様の傾向は「長期間にわたる拘束」(被害側は32.6%、加害側は13.6%)でもうかがえます。
カスハラをされた場所については、「その他」が40.5%が最多でした。選択した人の自由回答(記述式)によれば、「銀行窓口」「営業先」「来客対応時の社内」などが挙がっていました。
「電話オペレーター」が23.4%、「飲食店」が13.9%、「役所の窓口」が8.6%と続きました。
●カスハラを見かけた人の多数が「不快になった」
カスハラの加害および被害以外に、第三者としてカスハラと思われる言動を見かけたことがあるかどうかを尋ねたところ、「ある」が74.4%、「ない」が25.6%となりました。
カスハラを見かけた際の心境については、「不快な気持ちになった」が92.9%と最多でした。「傷ついた・辛い気持ちになった」も31.6%にのぼり、カスハラが第三者に及ぼす“負の影響”をうかがわせます。
●カスハラに有効な対策は?「防犯カメラや録音」が最多
カスハラ対策として有効な手段について尋ねたところ、「防犯カメラや録音をする」が75.6%でもっとも多く、「悪質なケースでは、実名を公表する」が52.1%、「従業員向け対策窓口を設置する」が45.9%と続きました。
厚生労働省が2024年12月に企業側にカスハラ対策を義務化する方針を示したことを受け、こうした動きについての認識を尋ねたところ、「知っていた」が44.4%、「知らなかった」が55.6%でした。
また、東京都が制定した「カスタマー・ハラスメント防止条例」が2025年4月から施行されることを受け、罰則規定のない同条例への期待についても尋ねました。
同条例にカスハラ対策の効果は見込まれるかについて、「一定の効果はある」が28.9%が最多となる一方、「あまりない」が28.0%、「全然ない」が13.3%にのぼるなど、賛否が分かれる結果となりました。
●カスハラ問題に詳しい能勢章弁護士のコメント
アンケートの結果には違和感がありませんでした。
カスハラ加害者は独自の価値観をもち自己の言動が正しいと信じて疑わないことが多く、そのため自己の行為がカスハラだと認識していないことがよくあります。7割が「カスハラに当たる可能性を認識していない」とし、しかも、動機のトップが「正当な批判・論評」であったのはそうしたカスハラ加害者の特徴を示すものでしょう。
カスハラ加害者には立場の弱い人や言いやすい人を選ぶという特徴もあります。普通ならあり得ませんが、暴言をコミュニケーションのツールとして利用するために怒鳴ったら怖がる人をあえて選んで暴言を行うということもあります。そのような特徴からすると、カスハラの内容で「暴言」が、現場で「電話オペレーター」が最多となるのも納得できます。
カスハラに対する世の中の見方は変化しており、“顧客と店員は対等だ”との認識が以前よりも広がっています。カスハラを見かけた人の多数が「不快」と回答したのも、こうした世の中の見方の変化を示すものと言えるでしょう。