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オンラインカジノ「日本は格好のエサ」「反社に金流れる」、ギャンブル依存専門家が語る「本当の怖さ」と対策法
ギャンブル依存に詳しい都留文科大・早野慎吾教授

オンラインカジノ「日本は格好のエサ」「反社に金流れる」、ギャンブル依存専門家が語る「本当の怖さ」と対策法

卓球の五輪メダリストが書類送検されたことで端を発し、お笑い芸人やプロ野球選手の利用が次々に明らかになっているオンラインカジノ。

全国の警察が昨年摘発した利用者は、前年の3倍にのぼった。こうした状況の下、総務省もサイト接続を遮断する「ブロッキング」について検討する方針を明らかにするなど対策に本腰を入れ始めている。

一方で、「グレー」もしくは「違法ではない」と認識して、手を出してしまう人はあとを絶たない。オンラインカジノが持つ危険性や今後求められる対策はどのようなものなのだろうか。

2020年から全国4万人を対象としたギャンブル依存調査を続けている都留文科大の早野慎吾教授(社会心理学)は、その依存問題を強調したうえで「日本は海外業者にとって"格好のエサ"になっている」とうったえる。(弁護士ドットコムニュース・玉村勇樹)

⚫︎都合良く考える「ギャンブル脳」がオンラインカジノへと向かわせる

東京五輪・卓球男子団体の銅メダリスト、丹羽孝希選手の書類送検をきっかけに一気に広がったオンラインカジノ問題。

お笑い界では、昨年の『M-1』チャンピオン・令和ロマンの高比良くるまさんや、ダイタクの吉本大さんなどが利用した疑いがあるとして警視庁から事情聴取を受けていたことが報道され、活動自粛に追い込まれている。

さらにプロ野球でも、オリックス・バファローズの山岡泰輔投手の利用が発覚。その後NPBが聞き取り調査したところ、現時点までに山岡投手を含め、8球団15選手が利用していたことがわかっている。

弁護士ドットコムニュースでもたびたび報じている通り、オンラインカジノの利用は「違法」だ。単純賭博罪の場合は50万円以下の罰金または科料、常習性が認められて常習賭博罪になると3年以下の懲役となる。

しかし、高比良さんは、警視庁の任意の事情聴取に対して「グレーだと思っていた」と話すなど、違法性が浸透していないように感じる。だが、これこそ「ギャンブル脳の考え方」と早野教授は断じる。

「ギャンブルをやっている人というのは、自分にとって都合よく物事を考えます。どんなギャンブルでも胴元が勝つようにできているのに、『自分は勝てる』と思ってやっているんです。『ギャンブル脳』です。

そして、オンラインカジノは、黒もしくはグレーかもとわかっていても、『自分は大丈夫』と解釈して手を出してしまう。慎重な人はグレーなことには手を出しません」

⚫︎オンラインカジノは「依存性が高い」ギャンブル

アメリカのサウスオークス財団がギャンブル依存症の診断のために開発した「SOGS」というスクリーニングテストがある。

「ギャンブルで負けたとき、負けた分を取り返すためにギャンブルをしたことがあるか」「実際は負けているのに、勝っていると吹聴したことがあるか」など12項目(20点満点)で検査。5.0点以上でギャンブル依存症の疑いがあると診断される。

早野教授が2020年から2022年にかけて、同一サンプルに実施した調査では、平均SOGSスコアが競馬や競輪などの公営ギャンブルでは3.27から3.10、パチンコでは3.19から2.81まで下がっており、年々、依存性は下がってきている。つまり、ギャンブル依存症疑いと診断されても、その多くが自然回復するというのが早野教授の見解だ。

これに対してオンラインカジノは逆に5.94から6.25と上がっており、依存性は悪化していた。しかも、ギャンブル依存症が疑われる5.0点を平均で上回っており、回復傾向が見られないということだ。

早野教授はオンラインカジノにはのめり込みやすい要素がそろっていると考える。

まずはアクセスモード(参加労力)。ギャンブル依存の概念で、参加するのにどれだけの労力を必要とするかだ。

「オンラインカジノはスマホやパソコンをネットにつなげば簡単に参加できます。それだけでなく、時間の壁もありません。パチンコは現地まで行かなければできません。それに、パチンコや競馬はどれだけ熱くなってしまっても時間が来たら強制的に終了しますが、オンラインカジノはのめり込みやすい深夜も含めて、24時間やっています」

また、現金ではなくクレジットや暗号資産などで決済している点も、歯止めがかけられない要素だという。

「たとえば、パチンコだったら、遊技機に入れたお金がなくなった瞬間が一番止められるタイミングです。次の現金を入れるかどうかを判断するからです。実際に、現金を見ることで意識が現実に戻ります。一方、クレジット決済などの現金を使わないデジタルマネーの場合、その感覚は希薄になってしまうんです」

そして、自分の能力で結果を動かすことのできるゲーム性(行為者関与効果)だ。

「当たり外れを引くだけのくじと違い、麻雀やトランプはお金が掛かっていなくても、ゲームとして面白い。自分が関与できる度合いが大きいから。オンラインカジノも同じことが言える。つまりオンラインカジノはのめり込みやすい要素が全部詰まっているんです」

⚫︎ギャンブル問題は「依存性の高さ」が根本ではない

一方で、早野教授は「オンラインカジノの最大の問題点は依存性の高さではない」と断言する。

「オンラインカジノは海外のマフィアの資金源になっている可能性があります。しかも日本のウェブサイトであれだけの広告が出るということは日本の組織も仲介していると推測できます。回り回って、日本の反社会的勢力にお金が流れている可能性も否定できません」

国内業者や組織も絡んでいると見られるきっかけになったと早野教授が考えるのが、2022年に山口県阿武町で起きた誤入金事件だ。

この事件で、当時の被告人は、町が誤入金した約4000万円をオンラインカジノで使ったが、後にカジノの決済代行業者が使用した金を全額、町に返済したことがわかっている。

「海外の業者だけなら、まずお金は返さない。なぜなら、海外のものは合法のところもあり、日本では取り締まれないので返すことはないからです。しかもアメリカでは、カジノを禁止している州もあり、海外のカジノであっても合法、違法が入り混じっています。お金を返したことで国内業者も絡んでいると睨んで、ようやく警察が本腰を入れたんです。警察としても、日本の反社にお金が回ることだけはなんとしても防ぎたいのです」

加えて、社会貢献につながっていない点も見逃せないと早野教授は語る。

たとえば、国内最大の公営ギャンブルとして、昨年3兆3千億円余りを売り上げた中央競馬は、購入された馬券の最低10%が国庫に納付される。これらは国の一般財源にあてられ、4分の3が畜産振興に、残りの4分の1が社会福祉に役立てられている。

「どうしてもギャンブルというと、依存症が話題になります。しかし、最も大きな要素は、反社会的組織にお金が流れるか否かです。公営ギャンブルや宝くじを設けたのはそういう意味合いです。

ギャンブルが根絶できないことは、歴史が証明しています。ほとんどの先進国では一度はギャンブルを禁止しましたが、失敗しています。それなら管理するほうが合理的です。国にお金が流れるし、社会貢献にもつながります。依存症問題は、実は二の次なのです」

⚫︎海外業者にとって日本は"格好のエサ"

読売新聞によると、昨年全国で摘発されたオンラインカジノの利用者は162人。統計を取り始めた2018年以降最多で、前年の3倍の数字だ。個人がスマートフォンを使って賭ける「無店舗型」が主流になっているという。

早野教授は「海外で運営されているオンラインカジノは、国同士の干渉が必要になるので、止めようがありません。だから見せしめのように有名人を摘発して対症療法しているのが現状です。本来ならば、厳罰化するのが効果的なのですが、それはそれで問題があります」と指摘。そのうえで、オンラインカジノが現在でも簡単に利用できてしまう状態に言及する。

「情報工学の技術に法律や対策が追いついておらず、罪だなんだと言ったところで、利用そのものを止められる状態になっていません。世界に通用する情報工学に優れた人物を警察に取り込んで対策をすることがまず必要です」とし、「そういう人間を育てて警察の取り締まる側の大元に配置しなければいけない」と強調した。

総務省はここに来て、カジノサイトへの接続を遮断する「ブロッキング」などの抑止策の検討を有識者と始めることを明らかにするなど、規制に向けてようやく重い腰を上げたばかり。

海外のオンラインカジノの運営は、国内法がそのまま通用しない場所でおこなわれている。情報戦で勝てる体制を整えなければ、いつまでも取り締まりは「ザル」のまま。日本は海外業者にとって、エサにされ続けるだけだろう。

【取材協力】
早野慎吾(はやの・しんご)  都留文科大学大学院文学研究科教授。専門は社会心理学、言語心理学。著書:『首都圏の言語生態』(おうふう)、『パチンコ広告のあおり表現の研究:パチンコ問題を考える』(立川言語文化研究会)など多数。研究論文:The study of differences by region and type of gambling on the degree of gambling addiction in Japan. Scientific Reports. 2021 A Study on Effective of Gambling Advertising Expression on Gambling Addiction in Japan. Ars Linguistica. 2022など多数。

この記事は、公開日時点の情報や法律に基づいています。

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