ハローキティなど人気キャラクターを数多く生み出しているサンリオの「クロミ」をめぐって、法廷の場で“ある権利”が争われている。
サンリオのサイトでは、クロミはマイメロディのライバルを自称し「黒いずきんとピンクのどくろがチャームポイント」と紹介されている。
2月25日配信のデイリー新潮の記事によると、アニメ制作会社のスタジオコメットがクロミの「著作者人格権」を持つとしてサンリオを訴えたという。
記事では、スタジオコメット側の話として、別の会社がマイメロディを主人公とするアニメを企画し、そのアニメ制作の依頼を受けたスタジオコメットに所属するアニメーターがクロミを生み出したと書かれている。
サンリオは自社のHPで、スタジオコメットとの間で「訴訟係属中です」と認めたうえで、次のようなコメントを出している。
<当社としては、「クロミ」の著作権は関連する契約等によって明確に当社に帰属しており、また、著作者人格権についても適切に処理されていると考えております。その上で、当社は、昨今のスタジオコメットの主張について、誠意をもって協議して参りました。しかし、当社の見解がスタジオコメットに受け入れられることはありませんでした。
当社としては、長年に渡りキャラクター等の知的財産権の取り扱いについて、適切に対応して参りました。今後も司法の場で当社の立場を明確に伝えて参ります>
裁判の詳細は不明だが、そもそも著作人格権とは何か。スタジオコメットの主張が認められた場合、クロミを扱ったグッズは買えなくなるのか。知的財産権にくわしい舟橋和宏弁護士に聞いた。
●スタジオコメット、サンリオは何を主張しているのか?
デイリー新潮などの報道によれば、スタジオコメットの主張は、サンリオ社のキャラクター「クロミ」は同社に所属するアニメーターによって制作されたものであり、同社にクロミについて著作権等の権利が帰属するということのようです。
企業が、自社の業務等に際し、従業員等を通じて制作した物は、通常職務著作として企業に著作権(著作財産権、著作者人格権の双方)が帰属すると考えられます(著作権法15条1項)。
この考え方からは、スタジオコメット所属のアニメーターが独自にクロミのデザインなどを制作したのであれば、同社が「クロミ」のイラスト等について著作権者になると思われます。
ただし、スタジオコメットが言うように、サンリオのキャラクターであるマイメロディに関連してアニメーション制作の発注があったとすると、サンリオとしては、その制作の過程で作られたアニメーション等の成果物一切について、サンリオが権利譲渡を受けることが前提であった(そのように合意した)と主張することが考えられます。
この妥当性はさておき、成果物の権利一切を買い取る形での制作契約がなされることは実際上多く見受けられるところです。
●「著作者人格権」は譲渡できない
ただし、こういった契約があるとしても、権利の性質上、著作者人格権は譲渡できません。
「著作者人格権」とは、著作物の創作者が、著作物に対して持つ人格的利益を保護する権利です。
具体的には、公表権(著作権法18条)、氏名表示権(同法19条)、同一性保持権(同法20条)、および、名誉・声望を害する方法で著作物を利用されない権利(同法113条11項)等をさします。
そして、権利の性質に争いがありますが、著作者人格権は譲渡できない一身専属的な権利とされています。(同法59条)
そうすると、成果物の権利一切を買い取る契約でも、著作者人格権は創作者に残ってしまいますから、その対応として、著作者人格権を行使しないという不行使特約を結ぶことが多く見られます。
そういった観点から、サンリオは著作財産権を適切に譲り受けており、著作者人格権も適切な処理をしていると主張していると考えられます。
なお、スタジオコメットの請求が著作物の利用差し止めなのか、ロイヤリティなどの金銭請求なのかは明確ではありません。
●利用差し止めが認められた場合でも、グッズ販売の継続はありうる
ただ、仮に差止請求権が認められるという結論になるとしても、当事者間でロイヤリティを支払う等により現在のグッズ販売等を継続するという結論になり得ると考えます。
訴訟に時間がかかることからも、即座に販売停止などでグッズ等が買えなくなることはないでしょう。
●紛争の背景と、企業が注意すべき点
こういった紛争の背景としては、制作対価の多寡や、対価に成果物の権利譲渡までが含まれているか不明確になっていること、著作者人格権などの権利処理が十分でないことなどが考えられます。
昨年11月施行のフリーランス新法においては、知的財産権を譲渡させる場合に対価を報酬に加える必要があるとしています(「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律の考え方」10頁)。
今回はフリーランス新法が適用される関係ではありませんが、自社が創作したと明示することや対価は重要なものですから、取り決めが明確でなかった場合、本件に限らずトラブルになるということも予想されるところです。
訴訟がどう推移していくかは現段階でなんとも言えませんが、IPビジネスを扱う各社においては、こういったトラブルに備え、契約書等を含め適切な対応を講じる必要があります。