約40年間、精神科病院に入院させられたとして、元患者の伊藤時男さん(73)が国に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は10月1日、「国の不作為によって意に反した長期入院を強いられたと認められない」として訴えを退けた。原告は控訴する方針。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)
●東日本大震災を機に退院
訴状などによると、伊藤さんは10代で統合失調症と診断され、1973年から2012年までの39年間入院。その間、退院を希望したが認められなかった。
2011年に東日本大震災が発生し入院していた福島県の病院が閉鎖され、別の病院に移ったことで2012年10月に退院できたという。
2020年9月、地域で自由に生きる権利を奪われたなどとして、国に3300万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。
判決後の報告会であいさつする伊藤時男さん(右)
●東京地裁、退院請求をしなかった点などを指摘
原告らはこの日の判決後、東京地裁近くの日比谷コンベンションホールで報告会を開いた。
弁護団によると、東京地裁は判決で、伊藤さんが入院中に制度に基づいて退院を請求したり弁護士に救済を求めたりしなかったことや、家族が退院に消極的な姿勢を示していたことなどに触れ、「国会議員または厚生大臣等の不作為によって、原告が必要もないのにその意に反して長期入院を強いられたと認めることはできない」と判断して訴えを退けた。
原告代理人の長谷川敬祐弁護士は「びっくりするほど中身がない判決で、あまりにも腹立たしい」と述べた。
●原告「不当判決」と批判
「長期入院で、病院(の生活)がいいと考えちゃって、退院しても何も生活できないと思うようになって、“施設症”に陥っている患者さんがいっぱいいます。国に訴えたいのは、“施設症”を作っている病院がいっぱいあるので、なくしてほしいです」
提訴時にそう訴えていた伊藤さんはこの日、東京地裁の判決について「不当判決だと思います。最高裁まで上告したい。みなさん応援をよろしくお願いします」と話した。