韓国人であることを理由に上司から「レイシャルハラスメント」(差別的な扱い)を受けたので、会社に申し立てたところ解雇されたとして、元外資系証券マンの40代男性が、損害賠償や解雇無効を求めた裁判の判決が6月27日、東京地裁であった。角谷昌毅裁判長は、請求を棄却した。(ライター・碓氷連太郎)
原告の男性
●上司から「天皇を侮辱するな」と言われた
原告側によると、男性は2007年、モルガン・スタンレーMUFG証券に転職した。当時の上司が2012年、男性に対して、当時の李明博大統領が天皇に謝罪を求める発言をしたことを根拠に「天皇を侮辱するな」などと述べたという。
さらに、この上司は、徴用工問題に対する韓国大法院の判決への不満をぶつけたり、韓国海軍が自衛隊の哨戒機に対してレーダーを照射した問題の際に「レーダー照射、どうにかしてくれ。あなたの先輩だろ」などと発言したという。
これらの言動がレイシャルハラスメントに該当するとして、男性は2020年3月、会社にハラスメント被害の調査を求めたものの、会社側は「威圧的、敵対的または不快な職場環境を作り出すほど悪質または蔓延している」というハラスメントの定義に該当しないとした。
また、会社は、調査開始時に秘密保持契約を理由に男性に守秘義務があると主張し、社内外の第三者に話すことの一切を禁止した。調査結果に納得がいかなかった男性は、ハラスメント調査の担当者や米国本社CEOなどにメールを送ったところ、自宅待機を命じられた。
その後も、男性は調査の不当性を訴えるメールを米国本社の経営陣などに送信したところ、9月に「けん責処分」を言い渡され、2021年1月に解雇を通知された。男性は解雇無効だけでなく、ハラスメントの調査義務違反などを理由とする損害賠償も求めていた。
不当判決をかかげる原告側弁護団
●裁判所は「ハラスメントに該当しない」と認定した
判決後の記者会見で、原告代理人をつとめた川口智也弁護士は「レイシャルハラスメントに対しての理解が誤っている。またハラスメントに対する守秘義務の扱いと、解雇理由についても問題がある。人権意識がなさすぎる判決だ」と判決が不当だとして怒りの声をあげた。
今回の判決では、上司の発言について、男性に「本人にはどうすることもできない、国籍を根拠にした発言は不快感を与える」「精神的苦痛を与えるものである」としながらも、口調が威圧的ではなかったことなどから「ハラスメントには該当しない」と認定された。
また、守秘義務については、調査終了後も継続していて社内で調査結果についての意見を述べたことは懲戒事由にあたるとした。また、けん責処分を出されたあと、男性が会社の業務を妨害した事実はないが、裁判所は「今後、他の人に言いふらすのではないか」という「おそれ」があることを理由に、解雇は正当であるとした。 また、他部署から異動してきた同僚が業績を上げないのに降格されずにいたことに疑問を呈したところ、上司は「なぜ彼を嫌うのか。いい人じゃないか」と答えたという。同僚について不可解な人事であると抗議したことは「誹謗中傷」であり、それも解雇事由にあたるとした。
「この判決について非常に失望していて、とても受け入れることはない」。男性は落ち着いた様子で思いを口にした。そのうえで、今後控訴して、解雇の社会的相当性がないことを主張していきたいとした。