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押し紙訴訟、読売新聞の「独禁法違反」を認める 元販売店への賠償は認めず 大阪地裁
大阪地裁(LOCO / PIXTA)

押し紙訴訟、読売新聞の「独禁法違反」を認める 元販売店への賠償は認めず 大阪地裁

新聞販売店の元店主が、不要な仕入れを強制される「押し紙」被害にあったとして起こした訴訟で、大阪地裁はこのほど、読売新聞が、実際に販売・配布する部数(実配数)の約2倍の注文を指示したとして独占禁止法違反があったと認定した。

元販売店側代理人の江上武幸弁護士は、「押し紙問題で、読売の独禁法違反が認定されたのはおそらく初めて」と判決を評価。一方、読売新聞大阪本社は、一度も注文部数を指示したことはないと述べ、明らかに誤った認定であり、承服できないとしている。

判決は、読売側の独禁法違反を認めたものの、 部数に応じて販売店に支給される補助金・奨励金を、読売側が本来より多く支払うようにしていたことなどから、損害賠償の対象となるほどの違法性があるとは評価できないとして、元販売店側の請求は棄却した。

元販売店側が5月1日に控訴したことから、独禁法違反の論点が、高裁で改めて審理されることになる。

●廃止された「2%ルール」

訴えたのは、広島県福山市にある販売店の元経営者。4月20日の大阪地裁判決(池上典子裁判長、野村武範裁判長代読)によると、2012年に前任から店舗を引き継いだ際、実配数876部に対して、2倍近くの1641部を注文した。

その後も2018年6月に契約終了となるまで、実配数より相当数多い部数を注文。大量の「残紙」が出たため、廃業を余儀なくされたとして約1億2400万円を求めていた。

新聞販売店では通常、雨などに備えて実配数よりも多くの新聞を注文している。問題は、この「予備紙」がどこまで許容されるかだ。

歴史をひも解くと、新聞各社でつくる「新聞公正取引協議会」が1985年、予備紙は実配数の2%までとする各地区用のモデル規則をつくっており、実際に1.5~2.0%で運営する地区もあったようだ。しかしながら、このルールは1998年頃までに廃止されたという。

一方、公正取引委員会は1999年、「新聞業における特定の不公正な取引方法」を全面改正(平成11年告示)し、以下の2つの行為を禁止した。裁判では、読売側にこれらに違反する行為があったかが争われた。

【3項1号】販売業者が注文した部数を超えて新聞を供給すること(販売業者からの減紙の申出に応じない方法による場合を含む。)

【3項2号】販売業者に自己の指示する部数を注文させ、当該部数の新聞を供給すること。

元販売店側は、「注文した部数」を「本来必要な部数」と規範的にとらえ、残紙が実配数の2%をはるかに超えていることから、上記の3項1号に違反すると主張。これに対して、判決は2%ルールはすでに廃止されているなどとして、「注文した部数」を字面通りにとらえ、読売側が注文部数より多く供給したとは認められないと判断した。

また、元販売店側は、読売側が仕入れを減らすこと(減紙)に応じなかったとも主張したが認められなかった。判決はメールなどのやり取りが残っていないことや、平均して月20万円ほどの利益が出ており、減紙を申し出る積極的な動機があったとは言いがたいことなどを理由としている。

●文書に「水増しするな」、実際は実配数の倍指定との認定

一方、販売店を始めた時点で、約800部の残紙があった点については、読売側が仕入れ部数を指示したと認定。実配数の2倍近くの供給に正当かつ合理的な理由はなく、元販売店側に不利益を与えたものだとして、独禁法違反(平成11年告示3項2号)だと認定した。

判断理由としては、前任者のときと同じ仕入れ部数であることから、注文部数の引き継ぎが当然の前提とされていたものと推測される、などとしている。

また、経営状況が把握できなくなるとして、読売側が元販売店に対して、部数の水増しをしないよう求めており、請求書にも他の新聞社同様、「購読部数(有代)に予備紙等(有代)を加えたものを超えて注文しないでください」と書かれていることから、元販売店側が進んで大量の仕入れをするとは考えがたいと指摘した。

ただし、店舗を引き継いだあとの期間については、読売側からの具体的な注文部数の指示があったことを認めるには足らないとした。

●「販売店が残紙を自ら引き受けた」

そのうえで判決は、元販売店側も残紙の存在を十分認識したうえで経営を引き継いでおり、本来支給されるより多くの補助金・奨励金を得ていることから、「大量の残紙を自ら引き受けたといえる」と評価。独禁法違反は認めたものの、読売側の公序良俗違反や不法行為責任までは認めなかった。

また、判決は大量の残紙が出ていたことについて、読売側が注文数と実配数が大きく乖離した状態を「容認していたと評価せざるを得ない」として、新聞の部数が紙面広告を出すかどうかの判断基準の1つになっていることなどから、「社会的に望ましいものではないということもいえる」と言及している。

なお、この事件では、元販売店側が従業員募集の広告用に申請した補助金などで、水増し請求をしたとして、読売側が反訴した。この点について、判決は読売側の主張を認め、不正を認識していれば、以後支給することはなかったなどとして、販売店側に不正以後のものも含めて約900万円の支払いを命じた。

読売新聞大阪本社広報宣伝部は取材に対し、次のようにコメント。

「判決は原告の請求をすべて棄却する一方、本社の反訴請求を認容しており、主張がおおむね認められたと理解していますが、本社が原告の引き継ぎ時に注文部数を指示したと推認している点は明らかに誤った認定であり、承服できません。本社は、原告が販売店の代表となることが内定した段階を含め、一度も注文部数を指示したことはありません」

一方、元販売店側は、水増し請求の部分について、不正はなく、読売側の承諾をとったうえでのものだったとしており、この点についても控訴審で争われる。

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