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「泣き寝入りしなくてよかった」 歩行者に道譲られたのに「反則切符」、警察が処分撤回するまでの1カ月
現場の状況。左側にいる歩行者が手で合図している(Aさんのドライブレコーダー映像より)

「泣き寝入りしなくてよかった」 歩行者に道譲られたのに「反則切符」、警察が処分撤回するまでの1カ月

東京都内で6月25日、横断歩道にいる歩行者から「お先にどうぞ」と譲られたドライバーが、そのまま進行したところ、警察に道交法違反(横断歩行者妨害)で反則切符を切られる事態があった。

以前からこの問題に関心を持っていた藤吉修崇弁護士が代理人として警察署に抗議した結果、7月25日付で処分が取り消された。警察側の非を認めさせるまでの1カ月間の闘いの経緯について、藤吉弁護士と当事者のAさんに聞いた。

●まさかの「反則金9千円、違反点数2点」

「やりましたよ。取り締まり処分を取り消すことはめったにないそうです」

7月29日、警察署からAさんと出てきた藤吉弁護士は、興奮した様子でこう語った。担当者3人から謝罪を受け「違反不成立」と書かれた告知書を手渡されたという。一時は無実の罪を着せられたAさんは「ほっとしました。泣き寝入りしなくてよかった。自分と同じような目に遭う人がいなくなったらうれしい」と話す。

告知書 Aさんが署から受け取った告知書

事の経緯はこうだ。現場は、バス停などがある駅前の信号機のない横断歩道。右側から歩行者1人が渡ろうとしたため、Aさんは一時停止して見送った。まもなく左側からまた1人が渡ろうとしたものの、その場で止まり、手をひらひらさせて、車に対して前に進むよう促した。Aさんは「お先にどうぞ」の意味合いだと判断し、車を進ませた。

すると、すぐに警察官から止められる。

「すいません●●署です。なんでお声かけしたかわかりますかね? 歩行者いたので止まってほしかったんですよね」

「いや、お店から出てきた若い男性がこう(『先に行って』という合図)してくれたから行ったんですけど。それでも違反なんですか? 証人っていうか譲った人、まだそのへんにいると思いますよ」

「(譲った人がいた)事実があったにしろ、なかったにしろ、行っちゃったら違反です」

「そんな理不尽な…」

道路交通法38条1項:車両等は、横断歩道等によりその進路の前方を横断し、又は横断しようとする歩行者等があるときは、当該横断歩道等の直前で一時停止し、かつ、その通行を妨げないようにしなければならない。

横断歩行者妨害で摘発されれば、3カ月以下の懲役または5万円以下の罰金。違反点数2点、反則金は普通車で9000円となっている。

●罪を着せられた30日間 

Aさんは納得していなかったものの、長引くのも嫌なので反則切符にサインした。しかし家に帰ってもモヤモヤが残り、ドラレコの映像が残っていることに気づく。確認すると、やはり歩行者は明確に譲ってくれている。

「やっぱりおかしい」。同様の事例がないか検索しているうちに、藤吉弁護士がかつて、摘発が増えている横断歩行者妨害について警察の見解を問うたYouTubeに行き着いた。連絡を受けた藤吉弁護士は「これは明らかに条文に則っていない」と判断し、代理人として共に闘うことになった。

「条文から読めるのは、一時停止と、歩行者の通行を妨げないようにする――という2点。今回は一時停止もした上で、歩行者は明確に先に行ってくれとの意思表示をしている。裁判になったとしても『妨害』とは認められない」

反則金の納付期限は7月4日。警察署との交渉が始まった。藤吉弁護士によると、反則金を納付してしまうと取り消しはできないとの判例があるという。通常、このまま無視し続ければ出頭命令、最悪の場合は書類送検され、刑事裁判の手続きに進んでしまう。

藤吉弁護士はまず、警察署に電話した。当時の担当者である地域課の2人に、歩行者に譲られた場合に違反となるのかを問い合わせると、条文の理解について曖昧な回答に終始した上、ドラレコの映像も見るつもりはないという。署員は「当初はサインしたけど納得できないということなら、事後否認ということで結構です」と話し、結論は出なかった。

こうしたやりとりをYouTubeやツイッターで公開して世論に訴えると、YouTube視聴回数はどんどん上昇した。8月1日現在は220万を超えており、関心の高さを物語っている。その後、藤吉弁護士はドラレコ映像を署長宛てに送付した。すると、約20日後に取り消しする方針との電話連絡を受けたという。

●警察は統一した運用を 

警察庁の数字では、2021年の全国の横断歩行者妨害での取り締まり件数は32万余と5年前の2倍となっている。この背景には、信号機のない横断歩道上での交通事故が発生していることや、歩行者がいつまでも渡れないような状況があり、「歩行者優先」を改めて周知させようとしてきた。

また、日本自動車連盟(JAF)は2016年から毎年、全国調査を発表。当初は停止率が全国平均20%程度だったが、年々改善し、2021年には30%になっているが、いまだ7割の車が止まらない。数字のいい都道府県はマナーがいいとされ、一方で悪い都道府県には汚名が着せられる状況だ。

Aさんと同じような目に遭った場合はどうすればよいのか。まず、今回はドラレコがあったから取り消しまでいけたが、証拠がなければほぼ不可能だ。譲ってくれた歩行者に証言してもらうことも考えられるが、すでに現場にいない可能性もあり、面識のない人を探し出すのは至難の業だ。

藤吉弁護士は強調する。「悪質なドライバーの取り締まりは必要です。しかし現場の警察官は条文をしっかり勉強してほしい。警察全体として、運用を徹底するべきだと思います」

今回の事態について、弁護士ドットコムニュースは警視庁に見解を問い合わせている。

プロフィール

藤吉 修崇
藤吉 修崇(ふじよし のぶたか)弁護士 弁護士法人ATB
インターネット上の誹謗中傷問題を多く扱う弁護士。弁護士になる前に、芸能関係の仕事に携わっていたことや自身も誹謗中傷を受けたことがあることから、この問題に取り組むようになった。YouTubeの登録者は10万人を超えている。 YouTubeちゃんねる「二番煎じと言われても」https://www.youtube.com/channel/UCG649yuz_0PadkYGKnJ1Tcw

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