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強制性交未遂事件の男子中学生、身柄拘束なしの「試験観察」に…「犯罪者を野放し」の批判は適切なのか
福井県警(shigeki.M / PIXTA)

強制性交未遂事件の男子中学生、身柄拘束なしの「試験観察」に…「犯罪者を野放し」の批判は適切なのか

強制性交等未遂の疑いで逮捕された福井県内の中学3年の男子生徒4人(いずれも15歳)について、家庭裁判所が3月23日・24日付で、身柄を拘束しないで一定期間の様子を見る「試験観察」を決定したと報じられた。

3月25日の読売新聞オンラインの記事によると、生徒たちは、女性に性的暴行を加えようとしたとして、2月に逮捕されたという。報道を受けて、ネット上では、「野放しにするのか」「未成年とは言え、犯罪者に優し過ぎる」など疑問や不安を呈する声が相次ぐことになった。

「試験観察」とはどのようなものなのか。刑事事件にくわしい星野学弁護士に聞いた。

●少年の更生支援のための制度

——試験観察の制度や狙いについて教えてください。

まず、試験観察の決定は最終的な処分ではありません。

試験観察は、ある程度の期間(一般的には3〜4カ月程度)を定め、その期間中の少年の行動を家庭裁判所調査官が観察・評価するもので、その結果を考慮して最終的な処分が決められます。

試験観察は、少年を家庭に戻す「在宅試験観察」と民間ボランティアである他の個人・団体あるいは施設に預ける「補導委託」とに分けられます。また、補導委託は、自宅などから補導委託先に通う「在宅補導委託」と補導委託先で生活をする「身柄付補導委託」とがあります。

たとえば、家庭できちんとしたしつけや教育が受けられておらず、それが犯罪の原因のひとつであるような少年については身柄付補導委託が採用されることになるでしょう。

試験観察が用意された狙いは少年の更生を支援するためといえます。少年が再び犯罪を犯さないようにするためには、少年が犯罪を犯した背景・原因を理解したうえで犯罪に至る背景・原因を改善しあるいは除去する必要があります。

それは短期間では困難であり、ある程度の時間が必要となります。試験観察は、短期間で最終的な処分を決めるのではなく、時間をかけてどのような処分が好ましいかを決めるための制度といえます。

また、試験観察を通じて、少年が社会復帰後に犯罪や非行をすることなく健全に暮らすために役立つことを身につけることが期待されます。具体的には、たとえば補導委託では、補導委託先でその家族とのふれあいを通じた健全な人間関係を知ること、社会で必要とされる基本的な生活習慣(たとえば、早寝早起きのような規律ある生活習慣)や勤労習慣を習得すること、他者との交流を通じて人とのつきあい方を学習することなどです。

さらに、試験観察中の勤労を通じて、将来の社会復帰に必要な社会的な責任感や職業能力を身につけることも更生に役立つとされています。

——ニュースでも「保護観察」はよく見聞きしますが、試験観察との違いを教えてください。

試験観察と似ている言葉で保護観察があります。試験観察との違いは、形式的には、保護観察は最終的な処分で、試験観察は最終的な処分をする前の中間的な処分です。

実質的には、保護観察が少年の更生のためのプログラムとして監督等がおこなわれるのに対し、試験観察は少年の更生に役立つのはどのようなプログラムか、あるいはどのような処分をするのが好ましいかを決めるために調査・評価するための制度といえます。

試験観察の決定は中間的な処分と説明しましたが、これは試験観察の期間終了後に最終的な処分が下されるという意味です。したがって、試験観察の結果次第では、少年が少年院に行くことになったり、あるいは成人と同じ裁判を受けて刑務所に行く可能性もあります。

したがって、試験観察の決定が下されたことをもって、直ちに犯罪者を野放しにしているという評価は適切とは思われません。

プロフィール

星野 学
星野 学(ほしの まなぶ)弁護士 つくば総合法律事務所
茨城県弁護士会所属。交通事故と刑事弁護を専門的に取り扱う。弁護士登録直後から1年間に50件以上の刑事弁護活動を行い、事務所全体で今まで取り扱った刑事事件はすでに1000件を超えている。行政機関の各種委員も歴任。

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