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「五公五民」と批判される国民負担率47.5%、数字の高低だけでは語れない真の問題 
写真はイメージです(ペイレスイメージズ 2 / PIXTA)

「五公五民」と批判される国民負担率47.5%、数字の高低だけでは語れない真の問題 

財務省は2月21日、「国民負担率」を公表しました。令和4年度の国民負担率は47.5%、国民負担に財政赤字を加えた潜在的な国民負担率は61.1%の実績見込みでした。つまり、給与を貰っても、約半分は税金や社会保険料で取られてしまうということです。

この点について、「負担が重すぎる」という批判が噴出しています。江戸時代の年貢に例えて「五公五民」という言葉がTwitter のトレンドに入りました。「令和の時代なのに、江戸時代と同じように年貢(税金等)を取るのか」と話題になったようです。

一方、「世界的に見るとまだ負担は少ない方だ」という意見もあります。そこで、今回は、国民負担率が50%近いことの是非について考えてみたいと思います。(ライター・岩下爽)

●国民負担率とは

国民負担率とは、租税負担及び社会保障負担を合わせた義務的な公的負担の国民所得に対する比率です。また、日本は財政赤字を抱えているので、その分は将来の国民の負担になるということで、財政赤字の分を負担に加えたものを「財政赤字を含む国民負担率」として公表しています。

しかし、財政赤字は将来の負担であって今の負担ではないので、国民負担率に加えることは妥当とは言えません。では、なぜ財務省は敢えて財政赤字を加えた数字を発表しているのかと言えば、これだけの負担増になるのは必然だということを印象づける狙いがあるのだと思います。

国民負担率推移を見てみると、昭和45年(1970年)は「24.3%」だったものが、平成元年(1989年)には「37.9%」に増加し、令和4年(2022年)には「47.5%」になっています。少子化対策や防衛費増税と国民の負担を増やすことには積極的な政権なので、このまま行けば、50%を超えるのも時間の問題と言えます。

●国民負担率の国際比較

財務省は、国民負担率を公表すると同時に「国民負担率の国際比較(OECD加盟36カ国)」も公表しています。この資料によると、日本はOECD加盟国36カ国の中で22番目の負担率になっています。

この資料だけ見ると、「日本はまだまだ負担率は低い方だから仕方ない」と思われるかもしれません。しかし、そこが正に財務省の狙いで、「日本の負担率はまだまだ低い」とアピールし、税金や社会保障費をもっと増やすことを正当化しようとしています。

ちなみに、「国民負担率」というのは日本独自の指標で、世界的には分母を「国民所得」ではなく「GDP」にしています。「国民所得」と「GDP」との大きな違いは、「在日外国人」を含むかどうかです。欧州諸国では国境を越えて毎日通勤をしている人もいるので、国内の税や社会保障費を外国人が支払っている割合が高く、外国人を含めず「国民所得」で計算すると負担率が極端に高くなってしまうという事情があります。

●国民負担率約50%は多いのか?

前述のとおり、日本はOECD36カ国中22位という負担率なので、客観的に見て日本の負担率は極端に高いとは言えません。ただ、負担(値段)というのはサービスに見合ったものかどうかということを捨象して考えても意味がありません。

たとえば、同じ料理でも5,000円という値段が高いかどうかを料理の内容を抜きに考えても意味がないということです。ラーメン一杯が5,000円なら高いけれども、フランス料理のフルコースが5,000円なら安いというように、「5,000円」が高いかどうかは提供される内容によります。

税や社会保障費も同じで、これらの費用が高いかどうかは、公共サービスや社会保障の内容が充実しているかどうかによって変わってきます。北欧のように、幼稚園から大学まで教育費が無償であったり、失業給付の給付額も高く長期間支払われたりするような充実した福祉が提供されるなら、高い負担率でも不満は出ません。

一方、授業料は全額自己負担、低額かつ短い期間の失業給付しかないという内容なのに高い負担率であれば不満が出ます。日本の場合はどうでしょうか。医療保険は比較的充実していると思われますが、年金の先行きは怪しく、大学の高い授業料は自己負担、短い期間の失業給付しかないということを踏まえると約50%の負担というのは高いような気がします。

●生活保護の支給まで渋る日本の行政

社会保障の最後の砦と言われる「生活保護」についても、生活保護問題対策全国会議の資料によると、2010年のデータで日本の利用率は1.60%にすぎません。ドイツが9.70%、フランスが5.70%、イギリス9.27%なので、日本の生活保護費の支給が極端に少ないことがわかります。

生活保護基準を満たしている人のうち、実際に生活保護を受給している人の割合である捕捉率で見ても、日本は2割程度になっています。つまり、8割の人は生活保護の水準なのに生活保護を受けられていないということです。ドイツの捕捉率が64.6%、フランスの捕捉率が91.6%という数字から日本がいかに生活保護を支給していないかがわかります。

これは、行政による「水際作戦」が行われているからです。水際作戦とは、役所の窓口で生活保護をあきらめさせる施策のことです。生活保護の相談窓口に相談に行くと、申請は簡単には受理されず、「なんで働かないのか」や「親族から支援を得られないか確認する」と言われ、生活保護の申請を断念させるよう仕向けられるのです。

最近だと、令和3年2月にネットカフェや公園を転々としていた20代女性が生活保護の相談に行ったところ、横浜市が簡易宿泊所に住民票を移さなければ生活保護は受給できないと不適切な説明をして生活保護を支給しなかったという事案があります 。女性は相談の内容を録音していたため、この事実が明らかになり、支援団体の協力を得て横浜市に苦情を申入れました。横浜市は不適切な対応だったとして謝罪に追い込まれました。

このように、日本は福祉に関して十分満足できるレベルにあるとはいえない状況にあります。可処分所得の中央値の半分に満たない世帯の割合を「相対的貧困率」と言いますが、日本の貧困率は15.7%(2018年度OECD の所得定義の新基準)になっています。

国際的な比較で見てみると、OECD加盟国37カ国の中ではワースト7位、先進7カ国では最下位になっています 。日本は、一見豊かな国のように見えて、実は貧困者が多いというのが現実です。

政府は「失業率は改善した」と主張しており、2023年1月の完全失業率は2.4%と確かに低い水準です。しかし、実態は非正規労働者が約4割で、多くがワーキングプアという状態では貧困が解消するわけがありません。見かけの数字は良くても中身が伴っていなければ、知らないうちに貧困がどんどん増えていきます。

今回のテーマである負担率についても、「高い低い」という議論をするのではなく、負担率に見合う公共サービスや社会保障がなされているかを国民がしっかりと見極め、それがなされていないならば、公共サービスの充実を求めたり、負担率の引き下げを求めていくことが必要です。国政選挙は当面はありませんが、統一地方選挙が近づいていますので、どの政党に投票すべきなのかしっかりと考え投票することが重要だと思います。

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