東京・台東区のドヤ街「山谷(さんや)」には、カメラを片手に街に繰り出す男性たちがいる。この街で生活しながら、風景や人物などを写真で記録する活動をおこなう写真部(「山谷・アート・プロジェクト」)のメンバーたちだ。
家や仕事を失うなど事情を抱えてこの街にいる彼らは、今はアーティストとして、山谷の「今」を記録し続けている(以前の取材記事<「ここならば、生きていける」閉ざされたドヤ街・山谷に流れ着いた男たちが写真を撮り続けるワケ>)。
それぞれの作品を披露する「フォトコンテスト2022」が10月、オンライン上で開催された。12月23日、表彰式がおこなわれ、受賞者に表彰状や手作りの色紙などが渡された。
●街に、猫に、心を寄せて撮る
コンテストでは、メンバー10人が全員受賞。一般投票でもっとも票を集めた「2022年度写真大賞」を含む13の賞が用意され、ダブル受賞をした人もいた。
支援者による手作りの色紙。参加したメンバーは「こんなにもらえるなんて思わなかったよ」と嬉しそうにカメラにおさめていた(12月23日、弁護士ドットコム撮影)
「審査員賞」を受賞したメンバーのJIROさんの作品は、山谷の街からみえるスカイツリーの写真だ。
JIROさんの作品(提供:写真部)
JIROさんは、ありのままの山谷の風景をカメラにおさめている。表彰式前におこなわれた撮影会では、寒空の下、街角に咲く花や風景、参加者にレンズを向けていた。
立ちション防止のために描かれた鳥居を撮影するJIROさん。実際は、鳥居を的に立ちションする人がいるというが、これも「山谷」らしさのひとつだ(12月23日、弁護士ドットコム撮影)
路上生活をしていたころに「猫に救われた」エピソードを語ってくれたMISAOさんは「ポルテ広場賞」を受賞。受賞作はもちろん、猫を撮った1枚だ。
MISAOさんの作品(提供:写真部)
撮影会では、いつもの撮影スポットに猫がいなかった。「寒いからかな…」と諦めていた矢先、街角を歩いている猫をみつけるや否や、静かに近づいた。
目線を落とし、優しく毛を撫でながら声かけをする。向けられたレンズに、猫は警戒心をみせなかったが、他の参加者が駆けつけると一目散に逃げていった。MISAOさんは「こわがっているよ」と猫の気持ちを代弁していた。
猫にカメラを向けるMISAOさん(12月23日、弁護士ドットコム撮影)
「大賞」に選ばれたのは、HIDEAKIさんの作品。路上生活者や経済的に困窮している人たちが通う無料診療所(山友会クリニック)も入るNPO山友会の建物の前で、この街で支えあいながら生きる人たちを撮影した1枚だ。
HIDEAKIさんの作品(提供:写真部)
他のメンバーの作品とコンテストの結果は、山友会のホームページで公開されている。
●ドヤ閉鎖相次ぎ、変わりゆく山谷の街並み
祝いの席には、今は亡き元メンバーのマッチャンも参加。写真部には欠かせない初期メンバーのひとりだからだ。
表彰式がおこなわれた会場には、メンバーを見守る亡き元メンバー・マッチャンの姿があった(12月23日、弁護士ドットコム撮影)
この数年間で、大きく変わりつつある山谷の街並み。老朽化し、管理人の後継ぎがいないドヤの閉鎖は相次ぎ、大正から続く「いろは会商店街」からは活気が失われている。同時に、新しい旅館やマンションなどの建設が進んでいる。路上生活者の支援などをおこなうNPO「山友会」スタッフの後藤勝さんは「あと数十年後には、山谷は『今』とはまったく違う街になっている可能性もある」と指摘する。
写真は、その時代の「一瞬」を記録したもの。メンバーたちは、山谷を生きる人たちと変わりゆく街並みの「今」を刻む重要な役割を担っている。