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「一蘭」カップ麺など販売価格を強制か、公取委が調査…消費者にはどんな影響?
「一蘭」のカップ麺や乾麺(2022年3月29日、弁護士ドットコムニュース撮影)

「一蘭」カップ麺など販売価格を強制か、公取委が調査…消費者にはどんな影響?

人気ラーメンチェーン「一蘭」(福岡市)が商品化したカップ麺などについて、小売店での販売価格を不当に拘束した疑いがあるとして、公正取引委員会が独占禁止法違反(再販売価格の拘束)容疑で同社を調査していると3月29日、報じられた。

これを受け、一蘭は自社のウェブサイトで「現在、公正取引委員会から任意の調査を受けていることは事実でございます。弊社と致しましては、全面的に調査に協力をしております」とコメントしている。

報道などによると、同社は、カップ麺などの自社商品を販売する際、小売店に価格を維持するよう指示し、値下げをしないよう圧力をかけた疑いがあるという。公取委は2021年から任意で調査を実施しているようだ。

同社のカップ麺「一蘭 とんこつ」は2021年2月に販売を開始。麺・スープ・秘伝のたれ以外の具材は一切入っていないが、「税込490円」という一般のカップ麺より高い価格設定だったため、販売当初から「強気な価格」などと話題となっていた。同社ホームページでは、これまでに総出荷数500万食を突破したとしている。

「再販売価格の拘束」による独禁法違反とはどのようなものなのか。今後、場合によっては一蘭のカップ麺が食べられなくなるのだろうか。公正取引委員会での勤務経験のある籔内俊輔弁護士に聞いた。

●「販売価格への口出し」を野放しにすれば、消費者にもデメリット

——「再販売価格の拘束」とはどのような違反行為なのでしょうか。

独占禁止法で禁止されている不公正な取引方法(違反行為の類型が16ある)の1つです。

典型的には、メーカーが自社商品の販売先である卸売業者や小売業者に対して、それらの事業者が商品を販売するときの価格を指定したり、一定価格以上で売るように指示したりして、それを守らせることをいいます。

メーカーが希望小売価格を設定して、それを販売先にあくまで参考情報として伝えるだけであれば、通常独禁法上問題にはなりません。しかし、指示を守らない場合に、出荷の停止や取引条件を悪くする等の不利益を与えたり、それらを示唆して圧力をかけたりして、安売りをさせないようにすると、販売価格に関する指示を「守らせている」と判断されます。

——自社の通販サイトでのみ一切値下げなどをせずに売り続けるのであれば、問題はないということでしょうか。

今回のカップ麺は、「一蘭」の自社ウェブサイトでも通信販売されていたようですが、この場合は、販売価格を値下げしなくても、まったく問題ありません。各企業が取引先に対して商品を販売する場合に、その販売価格を決めるのは自由だからです。

しかし、既に他社(取引先)に販売してしまった商品をどのような価格で販売するかについて口出しすることは、原則として再販売価格の拘束に当たり、独占禁止法違反になります。

——販売価格への口出しを厳しく禁じているのはなぜでしょうか。

再販売価格の拘束がおこなわれると、拘束を受けた事業者は、競争手段の重要な要素である価格を自由に決められないようになって、安い価格を提示して顧客を獲得しようという競争ができなくなります。

消費者からみても、どこの店でも一定価格以上の価格設定になってしまうため、価格競争があればより安く購入できるはずなのにそのメリットを受けられなくなります。再販売価格の拘束は、価格競争への悪影響が大きいため、独禁法では原則禁止されています。

——これまでにどのような再販売価格の拘束による独禁法違反がありましたか。

過去には、メーカーが家庭用テレビゲーム機(プレイステーション)用のハードやソフト等について、小売業者に対して直接または卸売業者を通じて、原則として希望小売価格で販売するようにさせていたとして、独禁法違反であるとされた事件がありました。

近年、ブランド力のあるキャンプ用品、育児用品等について、メーカーが安売り防止のために再販売価格の拘束をおこなっているとして公正取引委員会が行政処分をしたケースもあります。

●公取委の今後の対応「改善を指導するにとどめる可能性もある」

——「一蘭」のケースは公取委の調査段階と報じられていますが、今後どのような進行が考えられますか。

公正取引委員会は、再販売価格の拘束をしていたことが明らかになった事業者に対しては、「排除措置命令」という行政処分をして、再販売価格の拘束を継続している場合にそれをやめることを命令したり、既に違反がなくなっていても再発防止をするために違反を取りやめたことの確認や再発防止のための研修や監査等を行うことを命令したりすることが通常です。

また、「10年以内に2回」の再販売価格の拘束をおこなった事業者には、2回目の違反の際には課徴金が課されるという制度になっています。ただし、実際に再販売価格の拘束について課徴金が課されたケースはこれまでありません。

排除措置命令などの行政処分がなされている事例では、法律上の権限に基づき違反が疑われる事業者の事務所などに「立入検査」がなされることが多いです。

報道によれば、今回のケースで公正取引委員会は任意での調査をおこなっているとのことです。

今後の調査の進展や事件処理結果について予測は難しいですが、立入検査まではしていないのだとすると、最終的には行政処分ではなく、「警告」と呼ばれる行政指導等で違反にあたるおそれがあるとして、改善を指導するにとどめる可能性もあるかと思います。

——今後、一般消費者への影響としてはどのようなことが考えられますか。

調査の結果、今回問題となっているカップ麺などについて再販売価格の拘束がなされていたことが判明したとしても、商品自体を販売してはいけないということにはなりませんので、ただちに入手不可能になるなどの事態にはならないと思います。

調査を通じて、スーパーなどの小売業者における販売価格における競争が活発になれば、消費者はより安く購入することができるようになるかもしれません。

プロフィール

籔内 俊輔
籔内 俊輔(やぶうち しゅんすけ)弁護士 弁護士法人北浜法律事務所東京事務所
2001年神戸大学法学部卒業。02年神戸大学大学院法学政治学研究科前期課程修了。03年弁護士登録。06〜09年公正取引委員会事務総局審査局勤務(独禁法・景表法違反事件等の審査・審判対応業務を担当)。12年弁護士法人北浜法律事務所東京事務所パートナー就任。16〜20年神戸大学大学院法学研究科法曹実務教授。

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