ある性的暴行事件を起こしたとされる男の“再逮捕”が2021年、たびたび報じられた。
リクルートコミュニケーションズの元社員・丸田憲司朗被告人(31)は、就職活動中の女子大学生や、女性会社員らに睡眠作用のある薬物を飲ませて性的暴行を加えたとして、準強制性交等や住居侵入などの罪で起訴されている。
法廷には、ピチピチの黒いジャケットにワイシャツ、濃い色のズボンに坊主頭という出で立ちで現れた丸田被告人。一体その口から、どんな言葉が出てきたのだろうか。(ライター・高橋ユキ)
●被害者とは「就活アプリ」で知り合う
最初の逮捕は2020年11月。知人である30代女性に対し、睡眠作用のある薬を入れた酒を飲ませて性的暴行に及んだという準強制性交等容疑だった。
ところが逮捕はこの一度では終わらず、翌月にも同容疑で逮捕となる。二度目の容疑は、就職活動中だった20代女性に2020年7月、同様の手口で性的暴行を加えたというものだ。女性とは、就活中の学生が企業に勤める社会人と情報交換できる就活アプリで知り合った。
その後も逮捕は続いた。2021年9月には、会社員の20代女性に対して2017年4月、これまでの手口と同様、睡眠作用のある薬を入れた酒を飲ませ性的暴行を加えたという容疑で9度目の逮捕。
2021年10月には、知人女性に対し2019年9月、睡眠作用のある薬入りの酒を飲ませ、わいせつな行為をしようとしたとして、準強制性交未遂の疑いで逮捕された。
2020年11月の逮捕から2022年1月現在まで、計10回逮捕された丸田被告人。これを“異例”と報じる向きもあったが、最初の逮捕後にスマートフォンなどに残された動画像やLINEなどから、別の事件が発覚することは珍しくはない。
また逮捕報道後に、逮捕が続いたことから「逮捕後に犯罪を繰り返していた」と誤解が生まれる様子もあったが、丸田被告人は一度目の逮捕から勾留されている。
●初公判で明かされた犯行の手口
そんな丸田被告人に対しては、9回目の逮捕直前である2021年8月31日、東京地裁(鈴木巧裁判長)で初公判が開かれた。
手口はどの事件もほぼ同じだ。就活アプリで出会った就活中の女子学生や、知り合いの会社員女性らを食事に誘い、隙を見て飲み物に睡眠作用のある薬物を混入させては、それを女性らに飲ませて意識を失わせ、性交におよぶ。
初公判では、複数ある事件のうちの一部である『会社員Aさん』『大学生Bさん』『大学生Cさん』に関わる事件についての起訴状読み上げや証拠書類の取調べが行われた。
その日の起訴状などによれば、リクルートコミュニケーションズの社員だった被告人は2020年6月、Aさんと飲食中、隙を見てAさんの飲み物に睡眠作用のある薬物を混入させた。それを知らずに飲み、抗拒不能状態になったAさんに対し、自宅で性交したという。
さらに同年7月と10月には、就活マッチングアプリを介して知り合った大学生のBさん、Cさんに対してもそれぞれ、同様の手口で抗拒不能状態に陥らせたうえ性交したとされている。また犯行の様子は、スマホなどで撮影していたという。
法廷での丸田被告人は、ピチピチの黒いジャケットにワイシャツ、濃い色のズボンに坊主頭という、さっぱりした風貌。マスクに隠れ口元は見えないが、濃い眉毛が印象的だ。時折傍聴席を見て、傍聴人の顔ぶれを確認しているかのような様子がうかがえた。
就活生に就職活動のアドバイスなどを行っていたという丸田被告人だが、初公判の罪状認否では「……間違いない……」など、消えそうな声で答えるため、裁判長から「え!?」「聞こえない!」「もうちょっと大きな声で」と、何度も注意を受けていた。
読み上げられた起訴状のうち『会社員Aさん』『大学生Bさん』の事件は認めたが、『大学生Cさん』の事件は「記憶がなく……意図して薬物を摂取させたことはない」と否認した。以降の公判では、追起訴分の事件について否認や留保を続けている。ところが一方で、被害女性には謝罪の言葉も述べた。
「なかなか謝罪する機会がありませんでした。ここでお詫びさせてください。Dさん、申し訳ありませんでした」(2021年12月15日公判・会社員Dさんに対する事件での罪状認否)
「え〜、起訴状ちょっと違うところ、ありますので……え〜、一方で結果的に、え〜、迷惑を……大変申し訳ない……大変申し訳ありませんでした」(同年12月27日公判・大学生Fさんに対する事件での罪状認否)
否認や留保をしながら謝罪を繰り返す被告人だが、飲み物に混入させる薬物の量について丸田被告人は「処方された睡眠薬を他人に服用させるため、実験を行っていた。薬理効果や、効果の持続時間など、ある程度把握して使っていた」と調書に語っていることが分かっている。
“実験”の内容は明らかにならなかったが、準備を重ねて犯行に臨んでいた様子がみえる。
●「気がついたら被告人の部屋にいました」
実際に公判に証人として出廷した女性たちの証言からも、丸田被告人のそうした“実験の成果”とおぼしき様子が垣間見えた。
女性たちは自覚のないままに薬物を摂取し、犯行時にはほぼ『意識がない状態』に陥ったのち、朝に目覚めて、被害に気づかず自宅に戻っている。そして数年後に警察から連絡を受け、被害を知らされたケースがほとんどだった。犯行のタイミングに最も薬理作用を得られるよう丸田被告人なりに試行錯誤を重ねていたのだろうか。
睡眠作用のある薬を、女性たちに服用させたとされる手口も、証人尋問で明らかになった。トイレのために離席したタイミングが狙われたようだ。また女性がトイレに行く様子がない場合、離席を促したりもしていた。
「ふたりで飲食しているとき、2回お手洗いに行きました。2回目のお手洗いのとき、時計を見ましたが夜の9時半でした。両親が厳しく、遅い時間に帰ることが許されなかったこと、翌日に友人と約束があったことから、終電までに帰りたいと思っていて、意識的に時計を確認していました。
その後、記憶がなくなりました。目の前が急に暗くなるような、プツっと記憶が切れています。気がついたら被告人の部屋にいました。特に何か思う間もなく、また意識がなくなり、その後目覚めたら朝になっていました。無断外泊をしてしまったのでとても焦りました。急いで身支度を整えてすぐに被告の部屋を出ました」(会社員Dさんの証言)
「食事に誘われ、ふたりで飲食している時、トイレに行くように2回促されました。1回目は『トイレ行ってきなよ』と。特に行きたくなかったので断りましたが、少し時間を置いてからまた同じように『トイレ行ってきなよ』と言われました。
一度断っていることに加えて、会計を払ってくれるのかなと思い、トイレに行きました。戻ると飲み物のグラスが少し自分のほうに移動していて、あまり飲みたくなかったが、被告から『残ってるワイン全部飲みなよ』と勧められ、飲みました。その後、だんだんと眠くなってきました」(大学生Fさんの証言)
ほかには“酔い止め”として服薬を勧められたケースもあった。
「3軒目のお店に入った後、被告に『すごく酔ってるじゃん。酔い止めの薬だよ』と言われて飲みました。アルミパッケージに入った白くて丸い形の錠剤、2錠をお酒で飲みました。しばらくしたら寝てしまったようで記憶がなくなりました。
急に目の前が暗くなって、意識や記憶がなくなったような……次の記憶は、もうお店を出ている被告と……外を歩いていて、急に地面が近づいていって、自分が倒れ込んで……。次の記憶は、被告の家で起きたときです」(会社員Eさんの証言)
●被害後、疑念を抱きながら生活していた女子大生も
性交の自覚がないまま過ごしていた女性もいたが、疑念を抱きながら生活していた女性もいた。先の大学生、Fさんは性交時におぼろげながら一時的に意識を取り戻している。
「陰部に性交のときのような違和感があって目を開けました。自宅のロフトのベッドマットレスの上で、私は仰向けで、服は着ていませんでした。被告が私におおいかぶさるような体勢になっていて、その動きと陰部の違和感で性交されていると思いました。でも眠気の方が強くて、体が動かず、声も出せなかった。そのあとまた意識を失いました」
不安を覚えたFさんはその後、婦人科に行き「避妊に失敗した」と申告したうえでアフターピルを処方してもらったという。いまでこそ「できるだけ長く刑務所に入って罰を受けて欲しい」と語るが、逮捕前や、逮捕後しばらく、自分から丸田被告人を追及することはできなかったとも語っていた。
「これ以上関わりたくない、自宅を知られているので何かあると怖いと思った。その後、被告の逮捕はニュースで知りました。いままで私はお酒で記憶をなくすことがなかったので、おかしいな、何か事件に巻き込まれたのではと思っていましたが、ニュースを見てやっぱりと思いました。
でも、その時は何も行動を起こしませんでした。自分がニュースの被害者になるのは怖いと思った。普通に生きていれば事件に巻き込まれることもないし、被害者として扱われたり、自分のことがバレるのではないかと思ったからです」
この一連の事件では、丸田被告人が犯行の様子を撮影する際に、被害女性らの身分証も撮影していたともいわれている。
睡眠作用のある薬だと知らないままに薬を摂取、または服用する意思がないのに知らぬ間に摂取したことで意識を失った女性たちの証言を、丸田被告人は時折うつむきがちになりながらも、目を見開いて聞いていた。公判はしばらく続く見込みだ。
【プロフィール】
高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。