ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、ロシア国内のすべての店舗を閉鎖し、営業を一時的に停止したファストフード大手の「マクドナルド」。しかし、その“隙”を狙って、「そっくりな店」が現れるかもしれない。
報道などによると、「ワーニャおじさん」のフランチャイズ名で、マクドナルドを象徴する「M型アーチ」のロゴに似た商標が、3月12日付でロシアの特許庁に出願されたという。
Uncle Vanya's or McDonald's? https://t.co/YBZKhtKP1I pic.twitter.com/LDvF85xVuU
— Crain's Chicago Business (@CrainsChicago) March 16, 2022
出願された商標には、赤基調に黄色の「B」マークと白文字のフランチャイズ名が描かれている。「ワーニャの“B”」を意味しているようだが、マクドナルドのロゴを90度右に傾けた形にかなり類似しているように見える。
ネットでは、「もうなんでもアリなのね」「おそロシア」「絶対こうなると思った」など、あきれるような声が多数挙がっている。「こういうことがあると、今後ロシアに進出しようとする企業がいなくなるのでは」と指摘する声もあった。
マクドナルドのロゴは日本国内の店舗や商品でも使用されており、抜群の認知度を誇る。もし、今回の商標が日本で出願された場合、認められることはあるのだろうか。齋藤理央弁護士に聞いた。
●商標の類似性は「呼称・観念・外観」の3点で比較検討
——マクドナルドのロゴに類似した商標がロシアの特許庁に出願されたと報じられています。
確かに、問題の商標が出願されたという情報が、日本の特許庁がリンクしているロシアの特許庁からリンクされているサイト(https://new.fips.ru/)にも掲載されています。
また、ロシア語なので正確な意味までわかりませんが、3月12日の出願申請後、3月17日に出願を取り下げる申請をメールで受信したという表記もあるようです。
——今回の商標が、もし日本で出願された場合、どのような法的問題が考えられますか。
商標は、ロゴマークなどのうち特許庁に登録されたものについて、商標権を与えられ保護されます。そこでまずは、マクドナルドが日本で商標を登録しているかどうかが問題となります。
マクドナルドは色なしのMマークを多く登録しているようですが、赤字に黄色のMマークや、黄色のMマークもいくつか商標登録されているようです。
そうすると次に問題となるのが、ワーニャおじさんのBマークのロゴが、マクドナルドの登録されているMマークの商標と類似するかどうかです。この商標の類似性の問題は、商標権侵害でもよく問題になる点の一つです。
この商標の類似性は、「呼称・観念・外観」という3つの要素で比較検討するのが一般的です。
●「マクドナルドの商標と類似していることは否定し難い」
——今回の商標を「呼称・観念・外観」の要素から見た場合、どのように判断できますか。
まず問題となるのは、ロゴの見た目「外観」です。ワーニャおじさんのBマークはマクドナルドのマークを90度回転しただけです。
この場合に参考となる判決の一つとして、有名な時計ブランド「オメガ」の商標を巡って争われた裁判例(東京高裁平成14年6月18日判決)があります。
商標の類似性判断には「取引の実情」、つまり実際のロゴの使われ方も影響します。たとえば、オメガのケースで東京高裁は、時計に表示する場合ロゴに天地はないので、問題となった商標も90度回転させた上で外観の類似性を判断すべきと判示しています。
「オメガ」事件で争われた商標(編集部が一部加工)
今回の商標についても、看板の場合は別かもしれませんが、ポテトやハンバーガーにロゴマークを表示する場合は天地がないのですから、ワーニャおじさんのロゴマークも反時計回りに90度回転して類似すべきか判断すべきでしょう。90度回転させた場合外観(ロゴマークの見た目)は非常に似ています。
「マクドナルド」のロゴと「ワーニャおじさん」のロゴ(編集部が一部加工)
次に、ロゴマークの読み方「呼称」が問題となります。
マクドナルドのロゴとワーニャおじさんのロゴは、「エム(M)」と「ビー(B)」で読み方がまったく異なるようにも思えますが、先ほどのオメガのケースでは、問題の商標を90度回転させた場合、オメガと読めると判断しています。
今回のケースでも、90度反時計回りに回転させるとエムとも読めるように思います。そうすると、呼称も同じということになります。
さらに、ロゴの持つ意味内容「観念」についても、90度回転させて「ビー(B)」ではなく「エム(M)」と読めるとすれば、アルファベットの「エム(M)」という認識が可能ですから、同一ということができます。
仮に90度回転させても「ビー(B)」を「エム(M)」とは読み難いとしても、同じハンバーガーにこれだけ外観が似たロゴマークを付けるのであれば、やはり商標が類似していることは否定し難いと考えるべきでしょう。
——すでに登録されている商標と類似している商標を登録しようとした場合、どのように扱われますか。
商標法4条1項11号によって商標登録が拒絶されます。
つまり、特許庁から登録を拒否されてしまい、商標登録ができませんので、商標権で保護を受けることはできないことになります。
ワーニャおじさんのロゴマークについて、日本で商標登録するのは難しいでしょう。