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「娘を励ますために性交」小5から続いた性暴力 懲役6年判決の父、法廷での言い分
東京地裁(Caito / PIXTA)

「娘を励ますために性交」小5から続いた性暴力 懲役6年判決の父、法廷での言い分

父親から子どもに対する性暴力事件で、その量刑をめぐって話題となる判決が相次いだ。

監護者性交等と児童買春・児童ポルノ禁止法違反(製造)の罪に問われていた34歳の男に津地裁は1月13日、「相当悪質だ」と懲役8年の判決を言い渡した(求刑懲役9年)。その2日後の15日には、福島地裁で監護者性交等の罪に問われた40代男の差し戻し審で、求刑通り懲役6年の実刑判決を言い渡している。

SNS上では「相当悪質でも懲役8年か」「6年は短すぎる」など、驚きの声があがっている。法定刑はどのように定められているのか。過去の裁判例とあわせて、みていきたい。(ライター・高橋ユキ)

●2017年からの2年間、最も多い量刑は「7年以下」

これまで監護者性交等罪で起訴された被告人にどのような判決が言い渡されたかについては、法務省がまとめた資料『性犯罪の量刑に関する資料(平成27年〜令和元年)』( http://www.moj.go.jp/content/001323989.pdf )に詳しい。

これによれば刑法改正の2017年から2019年の間、監護者性交等罪で91人に対して判決が言い渡され、うち最も重い量刑が「懲役15年以下」で、最も軽いものが「3年以下」。そして最も多い量刑が「7年以下」であった。

こうした実態に照らせば、現段階においては「相当悪質だ」という事案で懲役8年というのはたしかに「相場より若干重い刑」ではあるようだ。

●犯行中、被害者は現実逃避のためスマホでアニメ

しかし、事件の詳細をみていけば「短すぎる」と声があがるのも致し方ないのかもしれない。

津地裁の事件の判決によると被告人は、同居していた13歳の実の娘に性的虐待を加え、その裸を348回にわたってスマホで撮影していたという。

柴田誠裁判長は「生まれた時から同居し、生活面で被告人に依存せざるを得ない娘が、要求を拒否することは難しい状況だった」と指摘している。被害者である娘は犯行中、現実逃避のためにスマホでアニメを観ていたという。(「共同通信」1月13日)

また、福島地裁の事件では 判決で柴田雅司裁判長は、被害後に娘が複数の友人に相談していたことなどをあげ、「生活面で被告人に頼らざるを得ない立場にある被害者に対し、説教を口実に及んだ極めて卑劣な犯行」と判断したという(「毎日新聞」1月16日)。

●被告人は「小太りで小柄な中年男性」だった

個別の事例を振り返ってみると、同罪についてはある特定の日時や、ごくわずかな期間に対する行為について起訴されているが、実際にはそれよりはるかに前から、長期間にわたり、わいせつ行為に及んでいる場合がままある。

その1つが、2020年10月20日、東京地裁で懲役6年の判決が言い渡された(求刑懲役8年)事件だ。この事件では、実父(年齢不明)が、当時高校2年生だった実の娘に性的虐待を加えたとして、監護者性交等の罪に問われた。

初公判の冒頭陳述で検察官は「被害者が小学校5年生の頃、妻が仕事で留守の時に被害者の寝室に入り陰部を触る、胸を揉むなどの行為をしていた。さらに被害者が高校生になると何度も性交するようになった」と、被害者が小学生の頃から性的虐待を繰り返していたと主張していた。

被告人は小太りで小柄な中年男性だ。マスクに覆われ口元は見えないが「ごく普通」の風貌である。被害者秘匿の観点から、氏名や居住地が明かされることはない。

起訴されていたのは「2017年8月ごろに、他の家族がいない間に当時高校2年生だった娘と性交した」ことについてであり、判決でもこれが認定されているが、裁判所はこれに加えて「長きに渡る性的虐待が徐々にエスカレートし、被害者が高校生になると性交を繰り返すようになっていた」と、被告人による長期の性的虐待も認めている。

性的なものだけでなく、暴言や暴力による支配もみられた。被害者である娘は意見陳述で、涙ながらにこう陳述している。

「幼い頃から暴力を受けていた。お父さんは怒りっぽく、勉強ができないだけで問い詰める。小学校2年生の夏、塾の受講料が高いといい、自宅で勉強を教わることになりましたが地獄の日々でした。できないことがあれば頭を叩き『バカ』『アホ』と怒鳴るので何も頭に入って来ませんでした……」

このように被告人は娘に対し、暴言や体罰によって恐怖心を植え付け、長年性的虐待を繰り返していた。

●「家族関係が壊れることを恐れひとりで耐え忍んでいた」

平穏な普通の家庭で、その時突然事件が起こったのではない。親による性的な行為は、子にとって到底受け入れがたいものだ。被告人である親の側は、長い時間をかけ、これを受け入れざるを得ない関係を構築してきた。

また子の側としても、自分が被害を訴えることにより、親が罪に問われることになれば、生活に大きな変化が生じる。こうしたことから性的虐待をすぐに他人に告白できないという現状もある。

先に触れた東京地裁であった監護者性交等の事件で、裁判長はこう指摘している。

「被害者は本来、健全な家族関係の中、心身ともに健全な成長を遂げるはずであったのにそれを踏みにじられた。また被害を打ち明けて家族関係が壊れることを恐れひとりで耐え忍んでいた」(判決文より)

さらに監護者性交等罪の公判では、犯行の多くが自宅で行われているため、防犯カメラ映像などの証拠もなく、被害者の証言が立証の拠り所となる。そのためか、被害者と被告人の言い分が大きく異なることも特徴のひとつだ。

この東京地裁の事件で父親は、弁護人からの被告人質問の際、長年にわたる性的虐待を次のように否定している。

弁護人「小学5年生のころ、盆踊りの時期に娘さんの乳首をなめたことは?」 被告人「ありません」 弁護人「小学生の頃あなたにアダルトビデオを見せられたと言っていますが事実ですか?」 被告人「ありません」 弁護人「風呂で乳首を舐めた事実は?」 被告人「ありません」

これに加え、事件当時の性交については「娘を励ますため」だったとも述べており、検察官に懲役8年を求刑されたことを受け「執行猶予」を求めてもいた。被害者と被告人の認識に大きなギャップがある。

●監護者性交の背景に「長年にわたる主従関係」

現在、横浜地裁で開かれている同罪の公判でも、生理中の娘に対して性交したとして起訴されている父親は「(性器が)たってなかったので入らなかった。嫌がってるのに入るのかな」「血がついてたから少しは入ったのかな」「あまりにも可愛いから抱きしめようとしただけ」などと一貫性のない証言を続けた。

対する娘は「小学校に入ってぐらいから、いやらしいことをされている」「3年生の頃には、父親の行為が嫌で母親に助けを求めた」と供述しており、この事件でも両者の証言に大きな隔たりがみられる。性的虐待については証言を二転三転させた父親だったが、いっぽう暴力については「ベルトで頭を叩いたりしていた。頭はやめてと言われたので背中に……」と認めている。

長年にわたる性的虐待や、暴力や暴言などによる主従関係が形成された末になされた性交が、筆者の見てきた監護者性交等罪の現状だ。「懲役7年以下」という量刑相場は今後、変わっていくだろうか。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

【監護者性交等罪】 「監護者性交等罪」は「監護者わいせつ罪」とともに、2017年の刑法改正(強姦罪などの要件や罪名の変更、親告罪から非親告罪への変更など)の際、新たに制定されたもので、7月13日に施行された。この改正では強姦罪の対象となる行為に、従来の「女子」に対する「膣性交」だけでなく、口腔性交や肛門性交(性交等)も加わり、それに伴い罪名も「強制性交等罪」と変わった。

強姦罪の法定刑の下限は懲役3年だったが、改正により「強制性交等罪」の下限が懲役5年となった。

「監護者性交等罪」(刑法第179条2項)は「十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による」と定められており、刑法第177条の「強制性交等罪」と同様「懲役5年以上の有期懲役」となる。

監護者ではない者による強制性交等罪が成立するには「暴行・脅迫を用いて」いることが認められなければならないが、監護者による性犯罪は、暴行・脅迫があったかどうかは無関係だ。

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