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「イライラして尿や大便を……」 微罪では異例の警備法廷、傍聴人が殺到した理由
写真は東京地裁(KA-HIRO / PIXTA)

「イライラして尿や大便を……」 微罪では異例の警備法廷、傍聴人が殺到した理由

東京地裁429号法廷。極左や暴力団関連などの刑事裁判が開かれる「警備法廷」として知られるこの法廷で3月2日、一見この場所には似つかわしくない罪状の裁判が開かれた。

建造物侵入と器物損壊の罪に問われた被告人は、初老の男性・A氏だ。微罪なのに、なぜ429号法廷で開かれたのかといえば、「傍聴マニア」であるA氏のもう一つの顔が理由だったようだ。(ライター・高橋ユキ)

●「“傍聴マニア”とは別の顔」

霞ヶ関にある東京高等・地方・簡易裁判所合同庁舎。ここには事件の当事者だけでなく、日々、多くの傍聴人が集まる。

傍聴席の中心側、最前列。それが、霞ヶ関の有名傍聴マニアA氏の“指定席”だった。この場所を死守するため、彼は朝早く“出勤”し、裁判所の開門を外で待つ。目当ての裁判が始まる1時間以上前から、法廷前に並ぶ。

彼はそんな熱心さから有名になったわけではない。“傍聴マニア”とは別の顔を持っているのだ。詐欺行為などを繰り返しており、前科16犯(冒頭陳述より)。出所すればすぐに、傍聴人として霞ヶ関に舞い戻る。刑務所と裁判所を行ったり来たりしていることから、いつしか有名傍聴人となった。

彼を有名たらしめたのは、それだけではない。A氏は、気に入らない傍聴人を目にすると、法廷内外かまわず大声で怒鳴りつける。何かあればすぐに110番通報し、警察を出動させる。なにかとお騒がせの傍聴人なのである。

そんなA氏の姿が傍聴席から消えたのは今年初めのころ。『また逮捕された』という情報が傍聴マニア界隈を駆け巡った。

「これまで彼は、日本各地の菓子製造会社に電話をかけては『髪の毛が入っていた』と嘘をつき、お詫びのお菓子と金銭を送らせる“髪の毛詐欺”でたびたび逮捕、服役していたのですが、今回の事件はそれとは違いました。都内のコインランドリーで放尿、脱糞し、排泄物を防犯カメラに塗りたくったというのです」(ある傍聴人)

●厳戒態勢だった「警備法廷」

建造物侵入と器物損壊で起訴されたA氏の初公判は東京地裁で3月2日に開かれたが、微罪の裁判とは思えぬ“異例の警戒体制”が敷かれていた。

芸能人の薬物裁判でも、大きく報じられた事件でもないのに傍聴券は抽選となり、公判は429号法廷という『警備法廷』で行われたのだ。警備法廷は、極左暴力集団や暴力団関係、活動家などの公判で使われることが多く、傍聴するには裁判所職員に手荷物を預けて、荷物検査やボディチェックを受ける必要がある。

18枚の傍聴券に対して整理券交付所に集まった傍聴希望者は30人。およそ半数以上が霞ヶ関の傍聴人だった。

「法廷に集まるのが“霞ヶ関の傍聴人”ばかりになるだろう、と裁判所が踏んで警備法廷にしたのであれば納得がいきます。最近、霞ヶ関の傍聴人のなかに、裁判所内で禁止されている盗撮行為を行っている者がいるからです。

“盗撮傍聴人”は、裁判所の時間割のような『開廷表』だけでなく、傍聴人たちの写真を勝手に撮影して、匿名掲示板にアップしてます。名前も晒されるので皆、戦々恐々としているんです」(同)

そんな“盗撮傍聴人”を警戒して警備法廷となったと思しきA氏の初公判では、ボディチェックの厳しさが際立った。法廷に持ち込むペンも、盗撮機能がないかとじっくり調べられ、ズボンのポケットボタンに金属探知機が反応すると、同性の職員がポケットを念入りに触り、確かめる。「財布も開けて見せるように言われましたが、札入れの中も見せてくれと言われたのは初めてでした。腕時計はバックル側も見せるように言われたので驚きました」と、別の傍聴人もこの日の警備の厳しさを振り返った。

ようやく法廷に入ると、A氏の姿はいつもの“指定席”ではなく、傍聴席と裁判官らを仕切るバーの向こうにあった。グレーのスウェットを着用し、大人しく長椅子に座っている。

筆者は裁判所でA氏によく罵られていたので、バーの向こうから見つけられることを恐れ、傍聴席の一番後ろに座った。A氏から見えない位置を確かめ、さらに前に座る傍聴人に隠れるようにしたのである。

●「イライラして尿や大便を……」

だがすぐに、最後尾を陣取ったことを後悔する。女性検察官の声がことさら小さく、さらにマスクのためモゴモゴとしており、起訴状読み上げや冒頭陳述などが非常に聞き取りづらいのだ。

「被告人は令和3年12月12日午前5時15分ごろ、中央区のコインランドリーに侵入し……モニターに……取り付けて汚損した……」(起訴状読み上げ)

「店内で糞尿……立ちションして便を……当店は洗濯での立ち入りしか許可していない……」(調書読み上げ)

かろうじて聞き取れた情報によれば、A氏は昨年12月の早朝に都内のコインランドリーで排泄し、その便を防犯カメラに塗ったという。被害総額は約11万8000円。

「モニターに大便をつけました。これまで誰かに噂されている気がする。イライラして尿や大便を……解消するためにやっています」(A氏の調書)

さらに余罪があり追起訴がなされる予定だといい、この日は、10分程度で閉廷した。被告人質問は4月に行われる。

日頃は気に入らない傍聴人を裁判所で怒鳴りつけ、「殺してやる」と叫んできたA氏だが、この日はいつになく大人しそうな様子で被告人席に座っていた。

いつもとは違う席から見える傍聴席はどんなふうに見えたのか。その胸に去来するのはどんな思いだったのか。傍聴席に座った傍聴人たちはA氏の表情を見ようと試みたが、その心情が伝わってくることはなかった。

【プロフィール】高橋ユキ(ライター):1974年生まれ。プログラマーを経て、ライターに。中でも裁判傍聴が専門。2005年から傍聴仲間と「霞っ子クラブ」を結成(現在は解散)。主な著書に「木嶋佳苗 危険な愛の奥義」(徳間書店)「つけびの村 噂が5人を殺したのか?」(晶文社)など。好きな食べ物は氷。

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