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不起訴だったのに…逮捕記事で「住所の地番」書かれた夫婦、逆転敗訴 プライバシー侵害を否定
会見する男性(左|2021年11月18日、司法記者クラブ)

不起訴だったのに…逮捕記事で「住所の地番」書かれた夫婦、逆転敗訴 プライバシー侵害を否定

逮捕を伝える新聞記事で、住所の地番までを掲載したのはプライバシー権侵害だとして、ブラジル国籍の夫婦が、静岡新聞社を相手に計660万円の損害賠償と謝罪広告の掲載を求めた訴訟の控訴審判決が11月18日、東京高裁であった。

渡部勇次裁判長は、静岡新聞社に66万円の賠償を命じた一審判決を取り消し、夫婦側の請求を棄却する逆転判決を言い渡した。夫婦側は上告する方針。

夫婦は覚醒剤取締法違反などの容疑で逮捕されたが、その後、嫌疑不十分で不起訴となっていた。

●一審判決後、静岡新聞は方針変更したが…

今年5月の一審判決は「地番まで掲載する必要性が高いとは言い難い」と判断。直後の同月20日、静岡新聞はこれまでの方針を変え、県内の事件・事故の記事について、当事者の住所は「丁目」までを原則とするとのお知らせ記事を掲載した。

一方、今回の高裁判決では「地番の記載の有無により、私生活上の平穏が害されるおそれに格段の違いがあったかは…(中略)…必ずしも明らかとはいえない」などとして、プライバシー侵害を否定した。

この点について、夫婦側代理人の太田健義弁護士は「結局いらない情報ということを書く側が認めている。その中で書かれたことで被害を受けていないから問題ない、というのは裁判官の人権感覚としてマズい」と批判した。

原告の男性は「知らない人が家まで来たり、声をかけられたり嫌がらせがあった」「いろいろな苦労をして、日本で人生を送ってきた。一つの記事で人生がゼロやマイナスに戻るのが悲しい」などと語った。

控訴審判決には、次のような記載もある。

「逮捕報道等においては、速報性も重要となり、取材時間が限られている中で事実の正確性の確保やプライバシーへの配慮が求められていることも考慮に入れる必要がある」

しかし、夫婦が逮捕されたのは6月20日なのに対し、記事が掲載されたのは勾留期間が終わる直前の7月だった。夫婦側は、裁判所の指摘は当てはまらないとの見解を示した。

対する静岡新聞社は、判決を受けて次のようにコメントした。

「当社の主張が認められた判決と受け止めています。引き続き、公平、公正でプライバシーに配慮した報道を続けてまいります」

●判決が報道に与える影響は?

なお、太田弁護士は記者団に向かって、次のようにも話した。

「記者が書かなくなると、警察は(地番までの)情報を出さなくなる。メディアには警察をチェックする役割があるのだから、そこは情報を出させたうえで書かないという判断をしてほしい」
「(記者会見に出席した)みなさんが地番まで書くとは思えないので、この判決が出たからといって、地番まで出す運用が定着するとは思っていない」

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