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アルコール依存症の当事者「つらいと言える場所もらえた」 コロナ禍「オンライン」で親交深める
司会の塚本堅一さん(左)とモデレーターの今成知美さん(11月15日/依存症の理解を深めるための普及啓発事業 事務局提供)

アルコール依存症の当事者「つらいと言える場所もらえた」 コロナ禍「オンライン」で親交深める

アルコール依存症から回復しようと、当事者やその家族がつながる「自助グループ」が、新たな局面をむかえている。コロナ禍において、リアルな場のミーティングが開催できなくなったが、オンライン化がすすむことで、全国の「仲間」と出会えるようになるメリットが生まれた。一方で、ネット環境の格差といった課題も浮かび上がる。

●自助グループ開催できず…「基地づくり」をした例も

11月15日、「コロナ禍でのアルコール依存症について考えるシンポジウム」(主催:厚生労働省)がオンライン開催された。アルコール依存症の自助グループの取り組みや、当事者の体験談が紹介された。

自助グループは、同じ問題を抱えている人たちが互いに分かち合い、支え合う集まりだ。

アルコール依存症の自助グループには、全国各地で例会をおこなう断酒会(2021年の会員数は当事者:5868人、家族:2134人)や、180以上の国と地域にあるAA(アルコホーリスク・アノニマス)などがある。

これまでは、公民館などを借りて例会やミーティングを開いていたが、緊急事態宣言が出たあとは多くの自助グループが開催できなくなる事態に陥った。

大阪市断酒連合会の小田泰仁さんは「会場に行くからこそ、断酒会があった。会場を失い、仲間との出会いもなくなりました。『大変ですね』と言われるたびに、『同情するなら、場所をくれ!』と思ったものです」と語った。

小田さんらはコロナ禍、「誰も取り残さない断酒会を残す。そして、望めばいつでも集まれる場所をつくる」と決意し、基地づくりをスタートした。

ある会員が所有している倉庫を大工、電気、水道関連の職に就く会員たちで改装し、約10カ月で大阪市断酒連合会本部「BEEHIVE」(大阪府大阪市)を立ち上げた。

連合会では、病院と本部を接続するオンライン例会を実施している。

画像タイトル 「BEEHIVE」完成までの様子(提供:依存症の理解を深めるための普及啓発事業 事務局)

それぞれの断酒会でもオンライン例会を実施している。

断酒会の1つである「虹の会(身障酒害者を囲む会)」の佐々木義博さんは「オンラインでできたことはありがたかった。日本全国の仲間に出会い、いろいろな話ができた」とオンラインならではのメリットを挙げる。

AAでは、日本だけではなく、世界中の仲間とつながることができるようになったという。シンポに参加したAAのメンバーによると、最近はメンバー1人の家に何人かが集合してアクセスするパターンもみられるようになり、ハイブリッド形式になりつつあるとのことだ。

●「助けてと素直に言える場所をもらえた」

コロナを機に、新たに立ち上がったオンライン自助グループもある。ASK認定依存症予防教育アドバイザーが運営する「依存症オンラインルーム」だ。

画像タイトル 依存症オンラインルーム(提供:依存症の理解を深めるための普及啓発事業 事務局)

アルコールで悩む人たちが参加できるオンラインのルームは2つある。

一つは、AAなど、自助グループへの橋渡しが目的のルーム(RoomA)だ。入院中の人を対象としており、毎朝30分間のミーティング(Zoom)がおこなわれている。自助グループにつながった人は「卒業」となる。

このルームに参加し、自助グループにつながった男性は、休日はスーパーの開店と同時にアルコールを買いに行き、気を失うまで飲む生活を送っていたという。手が震え出したときにアルコール依存症を自覚し、「もうダメだ」と入院を決意した。

「ミーティングはオンラインだったので、退院して間もない人やほかの病院に入院している人に出会うことができました。自分と似た境遇の人たちと1日の始まりに話すことで、飲酒欲求がおさまってくるようになったんです。私は卒業が決まりましたが、今後はお酒のない楽しい生活を続けたい」(男性)

同じくこのルームに参加した女性は、コロナ禍で在宅ワークとなったことを機に、家で飲むことが増えたという。酔っ払ったまま始業時間を迎える日々が続き、家族とも別居してしまった。

「家族にも迷惑をかけ、自分の力ではどうにもならなくなり、入院することにしたんです。自分の気持ちを正直に話せる場所がありがたかったですし、『つらい』『助けて』と素直に言える場所をもらえました」(女性)

画像タイトル 依存症オンラインルームRoomDの説明(提供:依存症の理解を深めるための普及啓発事業 事務局)

当事者と家族が参加できるもう一つのルーム(RoomD)につながった夫婦も体験談を語った。最初につながったのは、当事者である延原聖文さんの妻・みつ子さんだった。

聖文さんが2020年5月から約2カ月ほどアルコール依存症で入院中、妻のみつ子さんはこのルームに参加し始めた。聖文さんは退院後、みつ子さんがオンライン自助グループに参加していることはわかっていたが、関心を示さなかった。

画面にたまたまうつりこんだ聖文さんに気づいた司会者が「参加しませんか」と声をかけても、聞く耳を持たなかった。「私ひとりでなんとかやめる。いらんことするな、と思っていたんです」と聖文さんは当時を振り返った。

司会者が声をかけ続けたところ、いつの日からか聖文さんもオンラインミーティングに参加するようになっていた。今では自分でパソコンを立ち上げ、開始前の雑談に参加したり、オンラインで出会った仲間に会いに行ったりしているという。

こちらのルームでホストをつとめる田辺暢也さんによると、「家族がつながることで、当事者本人が変わることがある。他の家族の体験談を聞き、回復につながる人もいる」という。

●「家族や職場の人も、気づいたら相談を」

ただ、オンラインのミーティングには、デメリットがあることも指摘されている。

NPO法人ASK(アルコール薬物問題全国市民協会)が2020年にオンライン上で実施した「依存症当事者・家族のオンライン活動に関するアンケート調査」(回答総数608)によると、「ネット環境が整っていないとスムーズにいかない(66%)」、「初めての人には使い方がわかりにくい(57%)」「使ったことがない人には心理的ハードルが高い(54%)」などが主なデメリットとして挙がった(複数回答可)。

ほかにも「周囲に聞こえるのが気になる(自宅でプライバシーの確保が困難)(34%)」との回答もあり、トイレや風呂場から参加したという声もあった。

ただ、「コロナ収束後もオンライン活動に参加するか」との質問に対しては、約7割が「はい」と回答しており、一定の需要があることもわかった。

画像タイトル 「依存症当事者・家族のオンライン活動に関するアンケート調査」の紹介(提供:依存症の理解を深めるための普及啓発事業 事務局)

そもそも、アルコールの問題に悩んでいても、オンライン自助グループをはじめ、相談できる場所につながっていない当事者や家族などもいる。

モデレーターをつとめた今成知美さんは「家族はもちろん、職場の人たちも相談できる場所がある。アルコールの問題に気づいたら相談してほしい」と呼びかけた。

【主な相談先と自助グループ】
<依存症全国センター>
https://www.ncasa-japan.jp/you-do/treatment/treatment-map

<全日本断酒連盟>
https://www.dansyu-renmei.or.jp/

<A.A.>
https://aajapan.org/

<ソーバーねっと(断酒会系オンラインミーティング一覧)>
https://addiction-peer.net/onlinemtg_result.html

<依存症オンラインルーム>
https://www.ask.or.jp/adviser/online-room.html

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