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赤羽・居酒屋の「命の無料弁当」が半年突破「〝やさしさバトン〟つないでるだけ」
橋本さん一家。左から保憲さん、弥寿子さん、哲男さん

赤羽・居酒屋の「命の無料弁当」が半年突破「〝やさしさバトン〟つないでるだけ」

東京・赤羽のカフェ「ソーシャルコミュニティ めぐりや」は、2回目の緊急事態宣言が出た今年1月から毎晩、生活に困っている人に無料の弁当を提供している。当初は期間限定の予定だったが、飲食店への時短要請は一向になくならず、ついに活動期間は半年を超えた。単純計算で1万食近くを提供してきたことになる。

活動はテレビや新聞などにも取り上げられ、遠方から食材提供の申し出もあるという。店長の橋本弥寿子さんは笑顔でこう語る。

「寄付品を送って下さるかたはみんな、『ありがとう』って言うんです。ありがたいのは、こっちのほうなのに。私たちはいろんな人からのバトンをつないでいるだけなんですよ」

今月初めまでは涼しい日もあったが、梅雨が明けて暑さが本格化してきた。食材を工夫したり、ギリギリまで冷房の効いた店内で保管するなど、衛生面に配慮しながら配布しているが、7月末に継続について判断するという。(編集部・園田昌也)

●利用者と会話も 関係築き5人が生活保護受ける

7月19日、午後9時半。定刻になって弁当の配布が始まると、すでに8人の男性が待ち構えていた。20代に見える人もいれば、高齢者もいる。

この日は弁当のほかに、お菓子やヤクルトなども提供。衛生面に配慮して、一度に出す弁当は最低限にしている。

記者が横で見ていたところ、「夜は風が出て涼しいね」と中年の男性二人組が声をかけてきた。この日の東京は今年初となる気温35度以上の「猛暑日」だった。

「日中はしんどかったですね」と返すと、「こんなに暑いとオリンピックの選手もぶっ倒れちゃわないかね」と世間話が始まった。

店のスタッフの橋本哲男さんによると、弁当を取りに来るのは路上生活者だけでなく、生活保護を受けていたり、仕事がなくて生活に困っていたりする人も多いのだという。

向こうから身の上話をしてくることも珍しくなく、弁当をきっかけに関係を築き、5人が生活保護を受給するようになった。

「最初はあまり踏み込んだ話はしないようにしていたんですが、最近では話してくれる人には、積極的に名前を聞いたりするようになりました。

ただ、うちは街の飲食店であって、支援のプロではありませんから、うまく対応できないこともあります。その辺りは共産党の地元区議さんが詳しいので、相談・協力してもらっています」(哲男さん)

無料弁当を求める人の中には、別の区から歩いて来る人や、自転車で荒川を隔てた埼玉県川口市から来る人もいるという。

●小学生が毎日手伝い、農家から米提供の申し出も

記者が赤羽在住ということもあって、弁護士ドットコムニュースでは今年3月にめぐりやの活動を記事にした。同時期にテレビの放送などもあったことから、協力の申し出も数多く寄せられたという。

たとえば、近所に住む小学6年生の松尾栞奈さん(通称・かんちゃん)は、3月後半からほぼ毎日、母親と店を訪れ、弁当づくりを手伝ってきた。

かんちゃんを通して、めぐりやの活動を知った学校の先生は給食でふりかけが出た日、全学年から余ったふりかけを集め、100個以上を寄付した。自宅から米を持ってきて、かんちゃんに託した友だちもいたという。

哲男さんは、「うちから『何を寄付して下さい』とお願いしたことはないんです。でも小学生が自分たちで何ができるか考えてくれたのが嬉しいですね」と話す。

大量のふりかけは、取材した7月19日に寄付された。

このほかにも、他県の農家から飲食店用の米が大量に余っていると電話がかかってきたこともある。定期的に届くようになった米は計450kg。1日50食ほど(米は約3kg使用)を作るから重宝している。

また別の日には、これまた他県の男性から梅干しを送りたいとの電話があった。届いた梅干し20kgは梅雨どきのおかずとして役に立ったという。

支援の現場では、「被災地へ千羽鶴」の是非がたびたび議論されるように、支援したい人と現場とのミスマッチから、かえって現場の負担が増えることもある。

しかし哲男さんは、「うちの場合は、事前に電話してくれるかたが多く、送ってもらったものが無駄になることはほとんどありません。もらう側のことを考えてくれ、ありがたいです」と説明する。

●協力金は減額になったけれど…「生きがいをもらっている」

当初1日6万円だった時短などの協力金は、今年4月から売上に応じた形に変わった。めぐりやの場合は1日3万円、3回目と4回目の緊急事態宣言中は4万円で当初より減っている。

しかも、現在までに振り込まれているのは5月11日分まで。近日中に7月12日~8月22日分の一部として112万円が先払いされる見込みだが、5月12日~7月11日分は、まだ給付の受付すら始まっていない。

それでも哲男さんたちは、「うちも余裕はないが、家族経営なので何とかやれている」と話す。

「複数個持っていく人もいるので、毎日うちの弁当を食べている人は、せいぜい20人ちょいです。

もちろん、半年以上、毎日夕方から日付が変わるぐらいまで店にいたっていうのは、自分でも良くやったなとは思います。ただ、その時間、家にいたとして何をしていたかなって。活動を通して、いろんな人から生きがいをもらっていると感じています」(哲男さん)

名は体を表すとは言うが、赤羽めぐりやを中心に多くの人をめぐる「やさしさのバトン」。そのバトンパスはまだまだ終わりそうにない。

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