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宣言下の五輪「お祭りムード」どころじゃない? 「営業制限」で苦しむ飲食店と特措法
画像はイメージです(K@zuTa / PIXTA)

宣言下の五輪「お祭りムード」どころじゃない? 「営業制限」で苦しむ飲食店と特措法

新型コロナウイルスの影響で1年延期された東京オリンピックが開幕したが、感染が全国的に再び拡大しており、足元では「お祭りムード」とは言い難い状況だ。

東京都では、7月12日より4回目の緊急事態宣言が発令された。予定期間の8月22日まで続けば、まん延防止等重点措置の対象となった4月12日以来、4カ月以上連続して緊急事態宣言または重点措置の対象となっていることになる。

飲食店はコロナ禍の昨年より、感染拡大防止の目的で都道府県それぞれの時短要請などを受けてきた。その後、2021年1月に発令された2回目の緊急事態宣言(1月8日~3月21日)に基づく20時までの時短要請も出された。

2回目の宣言中の2月12日までは、あくまで「要請」だった。要請に応じれば、感染防止協力金を受け取ることができるが、要請に応じなくても罰則を課される心配などはなかった。

ところが、2月13日に施行された新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正特措法)により、これまでとは大きく制約が課されることになった。

●改正特措法の概要

改正特措法ではまず、緊急事態宣言下では「要請」にとどまらない時短・休業などの「命令」ができるようになり、命令に違反した場合には30万円以下の過料が課されることになった。

さらに、「まん延防止等重点措置」が新設され、措置下では緊急事態宣言時と同様に、都道府県知事が、営業時間の変更などを命令できるようになった。違反すれば20万円以下の過料だ。

命令に伴う立ち入り検査も可能となり、拒んだ場合は、緊急事態宣言下でもまん延防止等重点措置下でも20万円以下の過料となる。

重点措置は、緊急事態宣言にまで至らない段階での実施が想定されている。しかし、従来の「要請」に従わなくても合法的に営業できる状態がなくなり、営業を続ければ過料が課せられる可能性があるという点では、緊急事態宣言と同じようなものといえる。

●都による時短命令、「応じない」「黙っていない」飲食店も

法改正された翌月の2021年3月、改正特措法に基づく「命令」がさっそく実行された。

東京都が、時短要請に応じなかった7事業者32店舗に対し、2回目の緊急事態宣言が終わる3月21日までの3~4日間、20時以降の営業を停止するよう「時短営業命令」を出したのだ。

特措法の改正当初は、「もし命令に従わない場合でも罰則適用は慎重に」との声もあったが、2021年7月には、この時の都の命令に応じなかった飲食店4店舗について、裁判所がそれぞれに過料25万円を課すことを決定したことが明らかとなっている。

この半年にも満たない間に、飲食店への時短営業などの「要請」が、従わない店舗については「命令」に変わり、実際に罰則まで課されることが示された出来事といえる。

一方で、改正特措法に基づく要請や命令に黙っていない飲食店もあらわれた。

都から命令を受けた32店舗のうち26店舗を運営するグローバルダイニング社が、命令自体には応じつつも、命令期間終了直後の3月22日に、時短命令は違法だとして、都を相手取り、損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。

同社の長谷川耕造社長は、提訴後の会見で、「自分たちの弁明書や都からの通知はすべて情報公開していたが、それを理由に都は時短命令を発出してきた。狙い撃ちしたものとしか思えない」と話し、都の対応を批判していた。

提訴については、特措法に基づく命令などを含むコロナ対策が必要最小限のものかどうかなどを司法の場で解明するとともに、飲食店への制限などに関する社会への問題提起が目的だと位置づけている。

都側は、裁判で「命令はグローバルダイニングを狙い撃ちし、見せしめ目的でおこなわれた」「命令は違憲・違法」とする同社側の主張について全面的に争う姿勢を示しており、今後示される判決が注目される。

●重点措置下の酒類提供停止、「違憲の疑い」指摘する声も

まん延防止等重点措置下での要請・命令のあり方についても、すでに疑問の声はあがっている。

厚生労働省は4月23日、重点措置下でも飲食店などに酒類やカラオケ設備の提供停止を要請したり命令できるよう、告示を改正した。その後、埼玉、神奈川、千葉などで、重点措置に基づく酒類やカラオケ設備の提供を停止する要請が実際におこなわれた。

緊急事態宣言時でしかできなかった要請・命令を重点措置下でもできるように、法改正ではなく告示改正で実現したことについて、京都大学の曽我部真裕教授(憲法学)が「違法の疑いがある」との見解を発表した。

曽我部教授は「今回の緊急事態宣言における戦略の全体像がどのようなもので、酒類提供禁止等といった個別の措置がその中にどう位置づけられる、どう必要なのか、説得力のある説明がなされていないことが非常に問題」と指摘していた。

4月25日に4都府県を対象として始まり、その後10都道府県まで対象が拡大した3回目の緊急事態宣言は6月20日、沖縄を除き解除されたが、7都道府県は重点措置に移行。その際は、酒類の提供停止ではなく、利用人数や滞在時間などに条件をつけたうえで酒類の提供を認める形をとった。

今後の重点措置下での酒類提供における一つの先例となるかもしれないが、特措法や告示は改正されたまま残っている。自治体が飲食店などに対して、緊急事態宣言中と同様に、全面的な酒類提供の停止を「要請」「命令」の形で求める可能性は依然として存在する。

もし酒類の制限が今後も続くようなら、「特措法は違憲」と強く反発する動きが出てくるかもしれない。

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