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「あおり運転」ドライバーに720万円賠償命令、「うつ病発症」が認定された背景は?
神戸地方裁判所(papilio / PIXTA)

「あおり運転」ドライバーに720万円賠償命令、「うつ病発症」が認定された背景は?

大きな社会問題となっている「あおり運転」。その責任が刑事裁判や民事裁判で追及される中、注目すべき判決があった。

あおり運転をされたことなどで、うつ病を発症したとして、兵庫県内の男性が、相手の運転手を相手取り、治療費など約8800万円の損害賠償を求めた裁判。神戸地裁は昨年10月、約720万円の支払いを命じる判決を下した。

判決によると、原告の男性は2012年11月、神戸市内を車で走行中、追い越した被告の車に追いかけられた。男性が赤信号で停止したところ、車から降りてきた被告が「開けろ」と大声をあげたり、ドアを何度も蹴ったりしたという。

男性は、そのトラブルから8日後、「ショックで不眠になった。運転中に後方の車が過度に気になる」などとして医療機関を受診した。さらにその後、出勤できなくなり、うつ病と診断されたという。

神戸地裁は、被告の行為について、「客観的に相応の恐怖を与えるもの」として、あおり運転・暴行行為とうつ病との間の「因果関係」を認めた。

トラブル当時はまだ「あおり運転」として今ほど注目されていなかったが、裁判所は厳しく判断したようだ。今回の判決はどう評価すべきだろうか。交通トラブルにくわしい清水卓弁護士に聞いた。

●8年前のトラブルでも因果関係を認めた注目の裁判例

——あおり運転とうつ病発症との因果関係が争われたようです。

交通事故に遭った被害者がストレスや精神的な不安などから、うつ病を発症したと主張し、事故とうつ病発症との因果関係の有無が裁判で争われること自体は、実は結構あります。そして、事故とうつ病の因果関係が肯定されるケースもあります。

一方で、うつ病の発症を裏づける証拠が不十分だったり、事故前にうつ病を発症していた病歴が判明したりするなど、うつ病が発症した原因が事故以外にもあると認定されて、因果関係が否定されたり、因果関係が認められたとしても心因的要素による素因減額(損害賠償の減額調整)されたりするケースも散見されます。

——あおり運転などと、うつ病発症との間で因果関係が認められましたが、これは珍しい認定なのでしょうか。

今回の事案では、トラブル8日後という比較的早期に医療機関を受診し、うつ病と診断されており、精神的な不安の内容を早期に具体的な証拠化できていたことが、因果関係肯定のポイントと思います。

裁判所がこのような証拠を重要視したこと自体は、オーソドックスな認定といえるでしょう。

ですが、この判決では、被告によるあおり運転と降車後の暴行行為に端的に焦点を当てて、被告とのトラブルは「客観的に見ても相応の恐怖を受けるもの」として、あおり運転および暴行行為とうつ病との因果関係が明確に肯定されており、しかも、約8年も前の事案だったことも踏まえれば、注目に値する裁判例といえます。

なお、このような判決が出されるようになった背景事情として、(1)近時のあおり運転の社会問題化、(2)あおり運転に対する近時の法改正による厳罰化、(3)あおり運転の社会問題化や厳罰化による国民意識の変化(泣き寝入りせずに処罰や賠償を求めていく意識・雰囲気の醸成)、(4)ドライブレコーダーなどの証拠化する技術の発展なども指摘できるかと思います。

●「精神面への影響」「早期証拠化」など指標となりうる判決

写真はイメージです(yamasan / PIXTA) 写真はイメージです(yamasan / PIXTA)

——今回の判決の意義や今後への影響についてはどうでしょうか。

今後のあおり運転とうつ病発症との因果関係の有無が争われるケースで参考になります。

裁判所が、あおり運転やその後の暴行行為が被害者にうつ病を発症させることがあるということを明らかにしたことで、あおり運転など、乱暴で危険な運転による被害の範囲が被害者の精神的な側面にも及ぶことが改めて確認されたという点も指摘できるでしょう。

また、精神的な症状の医療機関による早期証拠化の重要性を改めて学ぶことができる判決といえます。精神的な不安や症状を抱える被害者として、事故・トラブル後にどのように対応すべきかの指針にもなるでしょう。

——いまだにあおり運転は発生しています。今後の課題は何でしょうか。

あおり運転など、乱暴で危険な運転が一日も早く根絶され、そのような運転による被害がなくなる日が訪れることが何よりです。そして、あおり運転などの被害に遭われた方々が泣き寝入りしないで済むよう、社会的な取り組みをより一層充実させていくことが望まれます。

具体的には、(a)早期に被害を相談できるサポート機関・体制を確保する、(b)精神的な被害や不安を訴える被害者が早期に病院を受診できるよう、サポート機関の相互連携や適切な誘導体制を整備・構築することなど——があげられます。

プロフィール

清水 卓
清水 卓(しみず たく)弁護士 しみず法律事務所
東京の銀座にある法律事務所の代表を務め、『週刊ダイヤモンド(2014年10月11日号)』で「プロ推奨の辣腕弁護士 ベスト50」に選出されるなど近時注目の弁護士。交通事故分野などで活躍中。被害者救済をライフワークとする“被害者の味方”。

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