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コロナ改正法「刑事罰」削除、入院・調査拒否で「過料」に…罰金とどう違うの?
「罰金」と「過料」、どう違う?(bee / PIXTA)

コロナ改正法「刑事罰」削除、入院・調査拒否で「過料」に…罰金とどう違うの?

新型コロナウイルス対策の強化案として、政府が国会に提出していた「感染症法」と「新型インフルエンザ対策特別措置法」の改正案は2月3日、国会で成立し公布された。施行は2月13日。当初改正案に盛り込まれていた感染者の入院拒否時の刑事罰については撤回された。

政府が国会に提出した感染症法改正案では、入院に応じなかったり、入院先から逃げ出したりした場合、刑事罰として「1年以下の懲役または100万円以下の罰金」を科すとしていたが、最終的に懲役刑を削除し、行政罰である「50万円以下の過料」に変更した。

保健所による感染経路などの調査を拒んだり、調査に虚偽の回答をしたりした場合の「50万円以下の罰金」も「30万円以下の過料」に改めた。また、特措法改正案についても、時短などの命令に応じない事業者に課す過料が当初の改正案より減額される。

成立した改正法では、全体的にペナルティが軽くなり、刑事罰が新設されることはなくなったようだが、たとえ過料でも、違反すれば「●●万円」のペナルティがあることには変わりない。いったい罰金と過料はどう違うのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。

●罰金は「前科」になるが、過料はならない

——罰金と過料は、具体的にどう違うのでしょうか。

罰金はれっきとした刑事罰(刑罰)の一種です(刑法9条)。刑法などの刑事法に違反したこと、すなわち犯罪行為をおこなったことに対する制裁です。

犯罪行為は、刑法や刑事訴訟法が適用されます。警察が捜査して、場合によっては逮捕されたり、家宅捜索を受けたり、起訴されて刑事裁判にかけられたりすることがあります。罰金刑は、有罪判決の一種ですから、不服がある場合には控訴、上告して争うことができます。

また、罰金刑は刑罰であり、有罪判決の一種ですから「前科」になります。たとえば、検察庁で作成される前科調書に記載されますし、市区町村で保管される犯罪人名簿に登載されます。前科者ということになり、犯罪行為を重ねた場合には、前科のない初犯者に比べて刑が重くなるというデメリットがあります。

——罰金は「犯罪」に対する刑罰で、前科になるのですね。

これに対して、過料は行政罰の一種であり、行政上の義務違反などをおこなったことに対する制裁です(秩序罰)。

行政上の義務に違反しただけであり、犯罪行為をおこなったわけではありませんので、刑法も刑事訴訟法も直接適用されません。警察が出てきて捜査することはありません。逮捕もされないし、家宅捜索もされないし、起訴されて刑事裁判にかけられることもありません。

過料は、特別の定めがない限り、地方裁判所が裁判をすることになっています(非訟事件手続法119条)。裁判といっても、刑事裁判のように公開法廷で裁判が開かれるわけではなく、ほとんどの場合、略式手続きで過料の裁判が下されます(同法122条)。

過料の裁判に不服がある場合には、即時抗告(同法120条3項)や異議申立(同法122条2項)をすることができます。

過料は刑罰ではありませんから、前科にはなりません。前科調書にも犯罪人名簿にも記録されません。

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——過料はどんな違反行為に課せられるのでしょうか。

過料が規定されている例として、会社法上の登記の義務を怠った場合(同法976条)や転入届を14日以内に出さなかった場合(住民基本台帳法52条)などがあげられます。

——ちなみに、「科料」という罰則もあります。これはどのようなものですか。

「科料」(かりょう)は、読み方こそ「過料」(かりょう)と同じですが、中身は別物です。

科料は、罰金と同じ刑事罰です。科料は1000円以上1万円未満、罰金は1万円以上という違いがあります。つまり罰金よりも軽い刑罰です。科料の刑が規定されている罪としては侮辱罪(刑法231条)などがあげられます。

検察庁で作成される前科調書に記載される点は罰金と同じですが、市区町村で保管される犯罪人名簿に登載されません。

●「過料でも一定の抑止効果ある」

——今回の法改正案では、刑事罰の新設が見送られました。

懲役刑や罰金は刑事罰であり、犯罪行為をおこなったことに対する制裁です。感染者が入院に応じなかったり、入院先から逃げ出したりすることは感染拡大防止の見地からあってはならないことですが、そのこと自体は犯罪行為とまではいえません。

また、感染拡大防止の見地からは、過料を課することによって一定の抑止効果があると思いますので、懲役刑や罰金まで科す必要はないと思います。

刑事罰の新設を撤回して、過料にとどめたのは、理論的にもバランス的にも妥当な判断だったのではないでしょうか。

プロフィール

澤井 康生
澤井 康生(さわい やすお)弁護士 秋法律事務所
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(3等陸佐、少佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。

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