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2020年07月05日 09時20分

法と仏の教えで「俗世の苦しみ」に向き合う  僧籍を持つ本間久雄弁護士の生き方

猪谷千香 猪谷千香
法と仏の教えで「俗世の苦しみ」に向き合う  僧籍を持つ本間久雄弁護士の生き方
僧侶になるため、修行をしていた頃の本間久雄弁護士(本人提供)

困っている人たちの話に耳を傾け、解決へと導く。僧侶と弁護士は案外、似ている存在なのかもしれない。そう思わせるのが、弁護士で僧侶という「二足のわらじ」をはく本間久雄弁護士だ。

実家は都内のお寺。東大法学部から慶應大ローススクールを経て、弁護士になった。「次男で実家を継がなくても良いので、好きにやらせてもらってます」と柔和な語り口で話すが、幼いころから慣れ親しんできた仏教への道も諦めず、ロースクール時代に修行して正式に僧侶となった。

現在は、2つの立場を活かして、お寺が抱える法的問題に取り組み、弁護士ドットコムニュースの法律解説や、仏教専門の雑誌『月刊住職』で法律相談の連載も担当する。さらに仏教系大学の監事もつとめ、「将来的には若い僧侶や学生たちに法教育をしていきたい」と願う。

そんな本間弁護士は、法曹界と仏教界をどのようにつないでいこうとしているのだろうか。(弁護士ドットコムニュース編集部・猪谷千香)

●実はお寺に多い法的トラブル

江戸時代から続く、都内のお寺に生まれた。「小さいころからお経とか仏教の本とかに囲まれて育ちました」という。しかし、高校生のときに選んだ進路は、仏教系の大学や学部ではなく、東大法学部だった。

「そのころから、弁護士になりたいなあと思っていました。次男でお寺を継ぐ予定はありませんでしたので、1人でできる仕事を…ということで、法学部に行って司法試験を受けようかなと考えていました」

さまざまな進路がある中、なぜ弁護士を選んだのだろうか。意外にも、お寺と法律は近しい距離にあったようだ。

「私の実家や、周りのお寺を見ていますと、いわゆる世俗のことに疎い方が多いです。たとえば、お寺は古くから土地を貸すなどをしてきましたが、借地権で法的なトラブルを抱えているところは少なくありません。

また、お寺には檀家さんから人生相談を受けることがありますが、その中には法律的な問題が持ち込まれるケースがあります。

もしも弁護士になれば、困っているお寺や檀家さんのトラブルを解決したり、あるいは、未然に防いだりできるだろうという思いから、司法試験を志しました」

本間弁護士の勉強法の秘訣は、早起きだ。実家がお寺だったため、朝日とともに起きて勉強をする習慣がついていたという。

「早起きしたほうが、集中力も上がります」という。勉強法は、いわゆる「基本書」を複数冊読むスタイル。「普通は1冊を何回も繰り返せとよく言われますが、私の場合は複数冊読んで理解を深めたり、問題演習をやったり。インプットとアウトプットを意識しながら勉強していました」

画像タイトル 都内にある実家の寺院。江戸時代から続く(本間弁護士提供)

●ロースクール時代、僧侶になる

一方で、仏教の道にも惹かれていた。東大から進んだ慶應大ロースクール時代だ。23歳のときには夏休みを利用して、正式に僧侶となるために35日にわたって修行した。

ほかの同級生たちは、集中して勉強をする時期だが、本間弁護士は「夏休みで日程が空けられたので、ちょうど入れるご縁だなと思いました。滝壺に飛び込むような気持ちでした」と笑う。

実際の「滝壺」はどのようなものだったのだろうか。

「当時の制度ですと、大本山で1週間ほど仏教の教えについて、講習を受けます。それから試験を受けて、合格したら、今度は読経の試験。それにも合格したら、今度は総本山で35日間の修行があります。その修行が明けたら、僧籍が得られます」

本間弁護士はさらりと話すが、総本山での修行は決して楽なものではない。朝4時に起床して水行をすることもある。しかし、辛くて逃げたいと思ったことはなかったという。

「もうその中に入れば、流れるままというところで……」と微笑む。

その後、見事、現役で司法試験に合格した。仏教と法律。異なる世界を同時並行で学んだ印象は?

「仏教の仏教学や宗教学といった人文系と、法律の社会科学系はだいぶ趣きが違っています。試験勉強に限定の話なんですけど、社会科学系は割と答えがきっちり出ることが多いです。

よく言われますけれど、司法試験の論文は、数学のように論理で解いていくようなものです。でも、仏教学とか宗教学についてはあらかじめこれだ、という答えはなく、自分の心につながっていくようなものです。まったく違っているなという認識ですね」

画像タイトル 修行時代の本間久雄弁護士(本人提供)

●「仏の教えだけなく、法的にもサポートしたい」

司法試験に合格後は、司法修習を経て、東京の法律事務所に入った。1年半ほどそこで働いたあとは、横浜市にある現在の法律事務所に在籍、もう10年になる。

駆け出しのころから一般民事を扱うが、「世俗にまみれたトラブル」をどう受け止めているのだろうか。

「そもそも、弁護士になりたいと思ったきっかけが、そうしたお寺のトラブルを解決したい、未然に防ぎたいということ、それからお寺を頼ってくれる檀家信徒さんの力になりたいというところでした。

お寺に持ち込まれる、檀家信徒さんからの相談がまさに相続や賃貸借の問題、労務トラブルが多いです。仏の教えだけでなく、そうした世俗面のトラブルや問題を解決したいと思っています。解決することで、みなさんの気持ちが安らげばいいかなという思いです」

古来より、寺院は地域で人々の悩みや問題を受け止めてきた機関だった。

「いわゆる『駆け込み寺』という言葉がありますけれども、昔から困りごとのトラブルは地域のお寺に持ち込まれていたんじゃないかなと思います」

画像タイトル 現在所属する横浜関内法律事務所の所長、庄司道弘弁護士(右)と(本間弁護士提供)

●寺院法務に本格的に取り組む

現在、寺院法務も手がける。

「いわゆる会社法務とか企業法務とか知財法務とか分野がありますけれども、お寺に特化したものとして寺院法務があります。

お寺の抱えている問題で最も多いのが、借地です。法の整備がされていない昔から、土地を貸しているお寺が多いのですが、現在は地代や更新料の増額、借地管理に関するトラブルになっているケースが少なくありません。

ほかにも、墓の管理の問題も多いです。檀家さんが墓地の管理料を払ってくれないなどのトラブルですね。また、墓地規則を変えたい、宗派の離脱をしたいなど、宗教法人法にほかの法律が関わってくることが特徴的です」

中には高齢者施設や幼稚園、保育園、病院を運営するお寺もあり、法務は多岐にわたる。こうした寺院法務を本格的に取り組んできたのが、本間弁護士だ。近年は、特に寺院法務のニーズの高まりを感じるという。

「今までは、お寺の内々で済ましていたことが、ネットで検索されてこういうふうな解決法があるんじゃないかと。だんだんと外部に相談して解決したいという方向性を持たれている気がします」

●現代社会に仏教はなぜ必要なのか?

弁護士として印象に残っている仕事がある。

「刑事事件の国選弁護人を担当することがあるのですが、長年断絶していたご家族に私から連絡したことをきっかけに、再び親子の絆が戻ったり、身寄りがない方について、行政などと掛け合って、帰属先を確保したり。そういうふうな活動をできると、やっぱり弁護士をやっていて良かったなと思います」

そう話す本間弁護士に、僧侶としての顔がのぞく。

「誰かのお役に立てたかな、人の人生にプラスに作用できたかなと、喜びを感じます」

現在社会にとって、仏教の必要性を感じることが多い。

「今はネットやSNSで表面的には人との繋がりがあるように思えますが、はたしてそれは本当に、人と人との真心の付き合いなのか、と思うところがあります。

つい先日も、女子プロレスラーの方がSNSの誹謗中傷によって亡くなりました。そうした負の側面が強くなってきているということは、人間関係が希薄になって、世間は砂漠のようなっているのではないかと感じます。

仏教とは、そうした乾いた人間の世界に潤いをもたらす存在ではないかな、と思っております」

画像タイトル 寺院法務に関する著作も多い本間久雄弁護士(本人提供)

●「将来は仏教を学ぶ学生に法教育を」

将来は、宗教法人法の分野を開拓したいと語る。

「まだまだ未開拓の分野です。たとえば、企業法務だと、いろいろ大きな事務所があり、組織的な対応をしています。同じように、事務所を弁護士法人化するなどして、組織的に取り組んで、寺院法務、宗教法人法務という分野を確立していきたいなと思っています。

『月刊住職』を見ていただくとわかりますが、たとえば修行中にハラスメントがあったり、まだまだガバナンスが行き届いていないところもあります。そういう分野についても、従前からある宗教の伝統を損なわないかたちで、現代のガバナンスを導入して、宗教界に法律を浸透させていけたらと思っています」

ロースクール時代、多様な人材が集まっていたが、お寺出身者も少なくなかった。今、そうした弁護士たちと「横の連携」を作っているという。

「2カ月に1度くらい、宗教法人法の勉強会があります。そういう場でお寺出身の弁護士で集まったりしていますね。ほかにも、宗教法人を専門にやっていらっしゃる税理士や行政書士、社労士の方々がいらっしゃるので、そういう士業が連携して、ワンストップサービスを提供できたらいいなあと話しているところです」

寺院法務の本を書くなど、後進の育成にも力を入れている。仏教界と法曹界をつなぎたいという願いからだ。

「現在、仏教系である立正大学の監事もやっておりますので、今後は、学生の法教育にも力を入れていきたいです」

画像タイトル 妻とは仏前結婚式を挙げたという(本間久雄弁護士提供、編集部で画像を編集しています)

【本間久雄弁護士略歴】

都内の寺院を実家に生まれ育つ。2005年に東京大学法学部第一類(私法コース)卒業後、慶應義塾大学法科大学院在学中、僧籍を得るために約1カ月の修行に。法科大学院卒業後、2007年に新司法試験合格。2008年、第二東京弁護士会に入会。2010年には現在の横浜関内法律事務所に入所、横浜弁護士会(現・神奈川県弁護士会)に入会。寺院法務の専門家として、法律相談に乗ったり、メディアで法律解説を行う。宗門校である学校法人立正大学学園監事も務める。趣味は散歩とハイキングで、休日は三浦半島や多摩の里山をめぐることが多い。主な著作に「寺院の法律知識-適正な運営と紛争の予防-」(新日本法規、共著)、「葬儀・墓地のトラブル相談Q&A」(民事法研究会、共著)、「Q&A宗教法人をめぐる法律実務」(新日本法規、共著)、「マンション・団地の法律実務」(ぎょうせい、共著)など。寺院の専門誌「月刊住職」でも法律相談を連載している。マンション管理士、1級ファイナンシャルプランニング技能士などの資格も持つ。

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