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「土に還りたい」火葬ではなく「土葬」を希望する声…禁止されているって本当?
写真はイメージです(rabbitan / PIXTA)

「土に還りたい」火葬ではなく「土葬」を希望する声…禁止されているって本当?

日本では火葬が主流となっているが、「火葬ではなく、土葬してほしい」という遺言がのこされた場合は希望をかなえることはできるのだろうかーー。

東京都内の大学に通うオキノさんは、ゼミの先生(60代)が「土葬してほしいと思っているんだよね。火葬はいやだ。遺言書に書こうかな」と話しているのを聞き、土葬に興味を持った。土葬とは、遺体を棺桶の中に入れ、土の中に埋葬することだ。

「土に還りたい。自然と一体化したい」などと考えるようになったオキノさん。しかし、大学の友人に話をすると「土葬ってダメなんじゃないっけ。禁止されていたと思う」と言われたそうだ。

土葬は本当に禁止されているのだろうか。

●法律上「土葬はダメ」ではない

火葬や土葬について定めているのは、「墓地、埋葬等に関する法律」(以下、「墓埋法」)だ。「埋葬」とは、「死体(妊娠4か月以上の死胎を含む)を土中に葬ること」をいう(墓埋法2条1項)。つまり、土葬のことだ。

「埋葬」は、墓地以外の区域に行ってはならないとされている(同法4条)。また、埋葬を行おうとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、市町村長(特別区の区長を含む)の許可を受けなければならない(同法5条)。

つまり、法律上は墓地であれば土葬をしてもよく、土葬をする場合は市町村の許可が必要ということになる。オキノさんの友人がいうように「土葬はダメ」ということはないようにみえる。

●東京都23区内で「土葬」することは難しい?

しかし、中には条例で土葬を禁止している自治体もある。たとえば、東京都新宿区の「墓地等の構造設備及び管理の基準等に関する条例」13条は、墓地の経営者は、土葬をさせてはならないと規定している。

ただし、「特別の理由があると認められる場合であって、区長が公衆衛生その他公共の福祉の見地から支障がないと認めて許可したとき」(同条)は土葬が認められるとされている。

そうはいっても、東京都内で土葬を実現させることは難しそうだ。『各地方公共団体における墓地経営に関する情報共有のあり方に関する研究 平成 28 年度総括研究報告書』(2017年)によると、東京都23 区内では「土葬は許可があれば行なえる場合があるが、区民感情等に照らして、許可がなされることは難しいものと思われる」とされている。

では、ほかの自治体はどうだろうか。本間久雄弁護士はつぎのように説明する。

「各地の条例・規則を見ると、たとえば、北海道などでは土葬する際に深さを2メートル以上にしなければならない旨の墓埋法施行細則を設けています。ほかにも、栃木県や新潟県などで同様の施行細則が規定されています。

逆に言えば、深さ2メートル以上で埋葬できれば、土葬できることとなります。また、条例・規則などに土葬に関する規定がなければ、墓埋法の原則どおり土葬が認められることとなるでしょう」

●土葬は「墓地側の事情」でできないのが実情

本間弁護士は、土葬は法律・条例などによって原則としてできないというよりも、「実際には、墓地側の事情でできないということが実情といえるでしょう」と語る。

「公営・民営の墓地ともに墓地使用規則等において『土葬の禁止』がうたわれているのが一般的です。墓地の区画内に墓石を設置することになっている墓地使用規則が多くなっていますが、墳墓の下にカロート(焼骨を納めるスペース)を設置することになったときから、当該墓地区画では物理的に土葬ができなくなります」

なぜ、多くの墓地で土葬は禁止されているのだろうか。本間弁護士によると、最大の問題は「衛生上の問題」であると考えられるという。また、「手続きが煩雑」であることも要因の1つとなっている可能性があるようだ。

「墓埋法17条(管理者の報告)は、『墓地又は火葬場の管理者は、毎月5日までに、その前月中の埋葬又は仮葬の状況を、墓地または火葬場所在地の市町村長に報告しなければならない』と規定しています。

『埋葬』とは土葬のことですから(墓埋法2条1項)、つまり、土葬の場合のみに報告義務が課されているということになります。毎月報告するのは煩雑なので、このようなことが土葬禁止の一因となったのではないかと考えられます」

オキノさんのゼミの先生が土葬を希望する場合は、土葬ができる墓地を探すことが現実的な対応策といえるだろう。本間弁護士によると、北海道・茨城県・山梨県などに土葬可能な墓地があるようだ。

プロフィール

本間 久雄
本間 久雄(ほんま ひさお)弁護士 横浜関内法律事務所
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。

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