難民受け入れについて閉鎖的な状況が続く日本で、1999年の設立以来、迫害を逃れて来日した難民が失った権利の回復に取り組み、彼・彼女らが日本社会の一員として暮らせるよう活動を続けている難民支援協会(JAR)。
食糧や日用品の配布、医療へのアクセス、情報提供などの生活支援のほか、弁護士と連携した法的支援や就労支援など、2023年度は71カ国996人に9535件の支援をおこなっている。
また、年に4回前後開催される記者懇談会では、日本国内だけでなく、難民をめぐる世界の動向をデータとともに報告するなど、JARはメディア関係者への情報や、政策提言にも注力している。
●宿泊先のない「難民申請者」は行き場がなく野宿に
政策提言を担当し、難民申請者の支援にも携わるスタッフの生田志織さんは、難民申請者が路上に取り残されている現状についてこう話す。
「シェルターや宿泊先がなく、JARの事務所で仮眠をとる方がいるなど、難民申請中の人が路上生活になることは、以前からありました。ただ、コロナによる入国制限が解除され、入国者が増えたことに伴い、路上生活者が増えているという印象はあります。問題は申請者数の増減ではなく、国による難民申請者への対応が不十分な状況が続いていることです」
JARの支援活動は多岐にわたるが、その一つに空港で庇護を求める人々への情報提供がある。JARも参加しているNGOのネットワーク「なんみんフォーラム(FRJ)」では、日本弁護士連合会(日弁連)や出入国在留管理庁(入管庁)と連携しながら、支援の枠組みをつくってきた。
「そもそも空港での庇護希望者は、情報にアクセスできません。難民が間違って帰国させられることがないように、成田空港など主要空港にJARの連絡先を記載したポスターを貼付し、情報をまとめた冊子を置いてもらい、連絡してきた人に何ができるかを伝えています」
空港で入国拒否に遭い、JARに連絡をしてきた人には、一時庇護上陸許可という制度があることを伝えるという。
「空港で庇護を求めた人にはなるべく早く面会して、日本に逃れた理由や状況について聞き取りをします。ただ、一時庇護の許可はなかなか認められませんし、成田空港であれば東日本入国管理センター(茨城県牛久市)など、空港から収容施設に移送される場合も少なくありません。なるべく早く、空港にいる段階で外に出てもらうことが、保護の観点から重要です」
●住居を見つけることが困難な難民申請者へシェルター提供
JARの現場支援の様子(提供)
難民申請者が直面する最大のハードルは住居の問題だ。短期ビザで入国したあとに難民申請する人、入国が認められず空港で難民申請する人の多くは、日本に知人のいない状況で来日している。
中でも入国が認められず収容された人にとって、仮放免や監理措置の申請時に必要な保証人・監理人や収容を解かれたあとの住居探しは容易ではない。
JARではシェルターを確保し、住居を見つけることが困難な難民申請者への提供を続けている。
「シェルターの数は流動的ですが、常時50人前後をサポートしています。入管の収容施設内では、難民申請のための証拠書類など情報収集もままならないので、収容されている人にとっても、そうでない人にとっても、住居の確保は常に大きな課題です」
支援団体や個人支援者が指摘するように、住居に対する公的支援の不足が、来日直後の難民申請者が野宿となる状況を招いている。
住居の確保と並んで、国を逃れてきた人がまずやらなければならないのが、入管庁に難民認定申請書を提出することで、JARでは申請書を書くサポートもおこなっている。
「どこに、どんな書類を提出する必要があるかを知らない人もいるので、まずは情報を提供します。8ページある難民認定申請書の質問事項には、難民の定義を理解している人なら答えられるものの、日常的には使わない用語も出てきます。列挙された迫害理由のうち、自分はいずれに該当するか。今後、受け得る迫害の理由をしっかり伝えるためにも、申請書をきちんと書くことは大切です」
●弁護士のプロボノ概念を広める
2023年は難民認定数、認定率とも上がったものの、認定者の87%はアフガニスタン、ミャンマー出身者と特定の国に限られており、日本の難民認定の基準は、他国と比べて非常に厳しい。
こうした中、難民申請者が弁護士にアクセスできるよう、JARでは弁護士との「協働」にも力を入れている。
「代理人を受任すると3〜5年、裁判になれば10年以上かかることもあります。そもそも難民問題に興味のある方が少ない中、費用面のサポートの薄い難民案件を受任してくださる方は珍しいので、私たちで弁護士の方向けの勉強会も開いて、受任者を開拓するところから始めています」
勉強会では難民案件に注力している弁護士を講師に迎え、難民の定義、申請書類の作成方法、証拠の集め方、また、難民事件を担当する弁護士にはどのような関わり方が求められるかなど、ノウハウを伝える。受任した人には、難民案件のキャリアのある弁護士と組むなど、経験を積んでもらいながら輪を広げているという。
枠組みづくりの必要性について、広報の田中志穂さんはこう補足する。
「難民支援を熱心にやっている個人の弁護士さんだけではとても回らないことから始めましたが、受任者は個人の弁護士、大手の弁護士事務所が引き受ける弁護士、大きく2パターンになります。
国情報の収集や資料の翻訳、本人からの聞き取りなど労力がかかり、結果が出るまで時間もかかる難民案件は、大手でも多くは抱えてもらえませんが、プロボノの概念を広めることから始めた取り組みは、少しずつ成果が出ています」
2024年は、難民申請者約50人に弁護士をつないだ。「相談者の数に対してまだまだ対応し切れていない」と言うものの、労多い難民案件を受任する弁護士の開拓を続けてきたJARは、関東弁護士会連合会と連携し、2024年に日本司法支援センター(法テラス)の無料法律相談会をおこなう指定相談事務所に登録されている。
弁護士へのアクセス向上に加え、今後は入管庁に難民申請における弁護士の役割を認めてもらいたいと、生田さんは続ける。
「一次審査のインタビューでは、弁護士の同席が基本的に認められず、難民申請者はトラウマになるような体験を尋ねられる審査の場に一人で臨まなければなりません。
難民認定の手続きには専門性が求められます。当事者は自分が受けた迫害について話すことができても、それを難民保護の文脈に落とし込むのは本人のやることではありません。
代理人としての力を発揮してもらうためにも弁護士の同席は必要で、法的支援を強化すると同時に、こうした制度的な問題も解決していきたいところです」
●難民審査の基準や理由を明確にしてほしい
JAR、つくろい東京ファンド、反貧困ネットワークの3団体は2024年11月、難民申請者への唯一の公的支援である「保護費」の予算増額を求めて緊急申し入れをおこない、その後、約2400万円が補正予算で計上された。
「申し入れが直接、成果につながったかはわかりませんが、現場で当事者の傍らにいる者として、支援団体がこれだけやっていることや、妊娠中の女性や子どもが野宿状態という現状を国に伝える必要はあると思っています。特に政府は不許可になった人を数字でしか知らず、保護費を受けられない人の実態を想像できていないのではないでしょうか。
2010年以降、難民申請者は増え続けましたが、2020年まで予算は減り続けました。生活に困窮する難民申請者を保護するはずが、予算の枠組み内で出せる人に出すことにすり替わっているようにみえてしまいます。
これでは困窮している人が救われません。ここ数年は当初予算が少し増えて、補正予算もついていますが、予算の枯渇を懸念してか、秋口になると、保護費の支給状況が悪くなっているように感じます」
外務省の委託(※2025年4月以降は法務省)のもと、予算もマンパワーも限られた現況下、申請者全員の保護費受給を望むのは難しい。
だが、難民申請同様、保護費の申請も、書類の提出が早い人からインタビューされるわけではなく、同じように路上生活をしている状況でも、保護費が出る人、出ない人がいる。なぜそうなるのか。その基準や理由を明確にしてほしいと、申請者や支援者はRHQに望んでいる。
「民間の支援団体もRHQも、大変な現場を担っていることは変わりません。問題は、RHQに委託している政府の仕組みです。難民申請者の生存権を守るため、国にはRHQや支援団体の働きかけをきちんと受け止め、改善につなげてほしいとは思います」
●難民受け入れに前向きな世論があることを伝えていく
日本に逃れてきた難民支援に特化したJAR以外にも、最近は、国籍を問わず生活困窮者を支援する団体が難民を支援している。
「この間の申請者の増加に伴い、もともと日本の貧困問題に取り組んできた団体のもとに、難民申請者も相談に行く状況が生まれています。JARの支援が届いていないことの表れでもありますが、生活困窮者支援を専門にしてきた団体の支援方法を知ることは、異なる視点や解決の方法を考える機会になっています。申し入れを一緒にするなど、新たな連携が生まれています」
他のイシュー同様、難民受け入れについてもさまざまな意見がある。だが、国会で改定入管法が議論された2023年の春には、これまでJARが発信・キャンペーンしてきた以上に多くの人から難民問題に関心を寄せられたそうで、今後も政府に対して難民受け入れに前向きな世論があることを伝え続けていきたいと、生田さんは言う。
「そのためにも海外の制度がどうなっているか、情報収集にもアンテナを立てていています。EUの場合、難民申請者の生活水準を確保することは、加盟国の義務です。ほぼすべての人が支援を得られる国もあります。
入管は『海外のやり方をそのまま日本に導入はできない』といいますが、人を守るために確立された制度が難民のためになるなら、日本でも実現に向けた方法を考えるべきでしょう」(取材・文/塚田恭子)
●認定NPO法人 難民支援協会 1999年設立。「難民の尊厳と安心が守られ、ともに暮らせる社会へ」をビジョンに活動する。日本に逃れてきた難民を対象に、難民申請の手続きや、来日直後の生活(衣食住や医療)、企業での就労、地域との関係づくりの支援をおこなう。政策提言や広報活動にも力を入れている。年間の来訪相談者数は約800人(約70か国)、相談件数は7,000件以上(2022年度実績)。 国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)のパートナー。https://www.refugee.or.jp/