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「外国人は嫌われていると感じた」来日20年、ナイジェリア出身の男性が語る「言語の壁」
イラストはラッキーさん提供

「外国人は嫌われていると感じた」来日20年、ナイジェリア出身の男性が語る「言語の壁」

現在、日本では約289万人の外国人が暮らしているが、在日外国人の中でもアフリカ出身者は約1万6000人と、決して多くはない。

在留資格統計(2018年6月末)によれば、日本に在留するアフリカ人は1万6304人。ナイジェリア、ガーナ、エジプトがベスト3位で、その多くが首都圏で暮らしているという。

アフリカ出身の人たちは、日本で暮らす中で、どんなことを感じているのだろうか。日本在住のアフリカ人に話を聞いた。(ルポライター・肥沼和之)

●「日本人はアフリカのことを知らない」

ナイジェリア出身のラッキーさんは、アフリカの太鼓「ジェンベ」の奏者であり、2004年からは東京・新宿でアフリカンバー「エソギエ」を経営している。

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来日のきっかけは、世界的に評価の高い自動車や家電など、日本のモノづくりに関心を持ったこと。何度か訪れるうち、2000年に本格的に移住しようと決めた。現在は日本人の妻との間に子どももおり、日本語も流暢に話す。

昔から料理好きだったため、来日後は飲食店で働くように。そのうちに、自分で店を出したいという思いが膨らんでいった。

「日本に住んでみて、日本人はアフリカのことを全然知らないとわかったんです。じゃあ、自分がアフリカの宣伝や紹介をしたいなと。飲食店なら、好きな料理も音楽ライブもできるので、始めることにしました」

店を構えた新宿三丁目は、今でこそカジュアルな飲食店が立ち並び、多くの人でにぎわう一帯だ。

だが、店をオープンしたころは知る人ぞ知るディープな店が立ち並び、一見客が気軽に来られる雰囲気ではなかった。日本人の知り合いも少なかったため、店はいつも閑古鳥が鳴いていたという。

そこで、11時から15時まで六本木のレストランでバイトをすることを決めた。バイトを終えると新宿に戻って、20時から深夜4時まで自分の店を開ける。当時、自宅は電車で30分も離れた場所だったので、店のソファーで眠り、起きて顔を洗ってまたバイトへ……という日々を一年半ほど続けた。

ナイジェリア料理を出す店がまだ珍しかったことや、口コミが広まったことなどで、少しずつ客足が増えていった。テレビや雑誌でも取り上げられ、週末ともなれば予約が必須の人気店に。

2019年には、アフリカの若者を支援するためのNPOを設立した。「日本とアフリカの懸け橋になりたい」という思いは、着実に実を結んでいるのだ。

●言語が最大の壁だった

では、日本で生活やビジネスをするうえで、苦労はなかったのか。ラッキーさんは、言語の問題を挙げる。

「日本人の多くは、日本語しか話せません。その結果、外国人とのコミュニケーションを避けがちになってしまいます。すると外国人も、『日本人は自分たちのことが嫌いなのでは』と想像して、分断が生まれてしまうのです」

ラッキーさん自身もそのような経験をしている。来日したばかりで日本語ができなかったころ、英語で日本人に道を尋ねると、逃げるように去られた。

たまたまかと思ったが、同じことが何度も続き、悲しさや驚き、腹立たしさを覚えたという。その後、日本語を習得する必要性を強く感じ、常に辞書やメモを持ち歩いて猛勉強したそうだ。

確かに、その通りかもしれない。筆者は新宿ゴールデン街でバーを経営しているのだが、コロナ以前はたくさんの外国人観光客が街を訪れた。歓迎する店もあれば、「外国人お断り」と掲げる店もあった。

日本語以外での対応ができないという事情のほか、チャージ(席料)が理解されない、常連客を大事にしたい、などさまざまな理由があるからなのだが、「外国人という理由で断られた」と思う外国人もいたはずだ。ラッキーさんの話とは状況が異なるが、外国人が受けたショックの大きさは近いものがあるだろう。

今夏にあった東京五輪が掲げた「多様性と調和」は、グローバル化が進む社会全体においても非常に重要である。その障壁のひとつが言語だという指摘を、我々はしっかり受け止めるべきなのかもしれない。

【筆者プロフィール】 
肥沼和之:1980年東京都生まれ。ジャーナリスト。人物ルポや社会問題のほか、歌舞伎町や夜の酒場を舞台にしたルポルタージュなどを手掛ける。東京・新宿ゴールデン街のプチ文壇バー「月に吠える」のマスターという顔ももつ。

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