技能実習制度の趣旨にそわない除染作業などをさせられたとして、元技能実習生のベトナム人3人が、受け入れ先だった建設会社(福島県郡山市)を相手取り、損害賠償などをもとめた裁判。
会社側がベトナム人たちに計171万円の解決金を支払うことで10月23日、和解が成立した。原告代理人と支援者が10月29日、厚労省記者クラブで会見を開いて明らかにした。原告の1人は、代理人を通じて「解決してよかった」とコメントした。
●福島第1原発事故にともなう除染作業をさせられた
訴状などによると、原告3人は2015年7月、技能実習生として来日。この建設会社で同年8月から、鉄筋施工や型枠施工の技能を習得することになっていたが、2016年3月から2018年3月にかけて、郡山市などで福島第1原発事故にともなう除染作業をさせられた。
しかも、危険な作業であることを教えてもらえておらず、健康診断による被ばく線量測定の結果なども教えてもらえていなかったという。会社側に謝罪や賠償をもとめたが応じてもらえなかったため、慰謝料などをもとめて福島地裁郡山支部に提訴していた。
●裁判所が和解勧告していた
先立って、福島地裁郡山支部は、会社側がベトナム人それぞれに解決金を支払うという内容の和解勧告をおこなった。注目すべきはその内容だ。裁判所は、次のように「除染作業が技能実習制度の制度趣旨に沿わない」という考え方を示している。
・除染作業は、技能実習制度の趣旨目的に沿わないものであると言わざるを得ず、技能実習制度の枠組みの中でおこなわせることはできないと解するべきである。この点は、技能実習生が、除染作業への従事を希望したとしても同様である。
・除染作業は本来はおこなわせることができないものだが、仮に除染作業を原告たちにおこなわせる場合、労働契約上の観点から、少なくとも住宅除染作業等をおこなわせるのに相応する賃金を支払うことが求められるというべきである。
・したがって、除染作業に従事した日については、同種労働をおこなう労働者の賃金と同水準である日額8000円と技能実習生としての給与日額5752円との差額を支払うべきである。
・また、除染作業によって、技能実習制度の健全な運用を損ない、原告たちが同制度による技能習得の機会を得る利益をそこなうことになったことは否定し難い。この点を考慮し、被告は、原告らに1人につき20万円程度の解決金を支払うことが相当であると考える。
会見の様子(2020年10月29日/弁護士ドットコム撮影)
●「実習生に除染労働させるのはダメだと示された」
原告代理人によると、新型コロナウイルス感染拡大の影響下で、ベトナムにいる原告たちが証人尋問のために入国することが困難であることから、早期和解による解決を選択したという。
記者会見で、原告代理人をつとめた指宿昭一弁護士は「裁判所が非常に踏み込んだかたちで、異例の和解勧告をしてくれた。しかも、裁判所の考えが対外的に示せるようにつくってくれたことを高く評価したい。和解というかたちだが、司法の中で、実習生に除染労働させるのはダメだと示された。このことに大きな意義がある」と話した。
同じく原告代理人の中村優介弁護士は「本音と建前が乖離して、さらに人権侵害の温床となっている技能実習制度を残して良いのかということが、社会として問われている。この制度を早急に見直さないと、この国が人権後進国というレッテルを貼られてしまうんじゃないか」と述べた。
●「日本ではたらく実習生が、安心して働いてほしいです」
原告の1人は、代理人を通じて次のようにコメントした。
「裁判が解決して、とてもうれしいです。私たちは、除染作業をするために日本に来たのではありません。会社から、危険については、名(ママ)にも知らされませんでした。あとで、とても危険なことだと知り、健康のことで、とても心配になりました。
裁判所が、私たちのことを理解してくれたと思います。コロナのため、日本へ行って証言することがむずかしくなり、どうなるかと思いました。でも、解決してよかったです。日本ではたらく実習生が、安心して働いてほしいです。
みなさん、ありがとうございました」