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留学生がバイト先に正社員就職し、働き続ける「抜け道」 就労制度のゆがみと支援策
写真はイメージです(mits / PIXTA)

留学生がバイト先に正社員就職し、働き続ける「抜け道」 就労制度のゆがみと支援策

人手不足で外国人人材への期待が高まる中、2019年4月に出入国管理法(入管法)が改正され、新しい在留資格「特定技能」が開始されたが、2019年12月末時点で特定技能資格取得者は1621人となり、政府が当初想定していた4万人という数字には遠く及ばない結果となっている。

「特定技能」に限らず、外国人人材をどう受け入れるのかは大きな課題だ。今回、留学生の就職事情を中心に考えてみたい。そこには、就労ビザの「抜け道の悪用」といった課題も存在している。(ライター・オダサダオ)

●バイトの上限時間を超えた留学生、ビザ更新が認められず

2019年4月に出入国管理法が改正され、「特定技能」という在留資格が新設された。これは、人口減少によって、不足する労働者を補うべく、外国人労働者の受入を拡大するものである。建設業や介護だけでなく、宿泊業、飲食料品製造業や外食業も受け入れの対象となった。

そもそも、なぜ「特定技能」という新たな在留資格が必要になったのだろうか。理由としては、少子高齢化やオリンピックを控え、人手不足が深刻となっていることを挙げることができる。

しかし、それだけではない。昨年、東京福祉大学で「消えた留学生」の問題がクローズアップされた。この問題は、東京福祉大学の留学生管理体制というだけでなく、ビザ更新が出来なかった学生が続発したことが原因でもあった。これらの学生は、ビザで許されている週28時間(長期休暇中は1日8時間)を越えて、アルバイトをしており、ビザ更新の際にそれが問題となって、更新出来ずに帰国を余儀なくされた人が多い。

この問題は、留学生を隠れ蓑にして、就労目的で入国した外国人の問題と解釈されることが多い。そのような外国人がいる一方で、アルバイト先から求められ、上限を超えている学生も多い。これらの学生は、学校では何も問題を起こしていない真面目な学生が多いという特徴を持つ。

アルバイト先から求められ、断れずに上限を超えて、アルバイトをし、その結果、ビザの更新が出来ずに帰国せざるを得なかった。留学生ビザによるこの問題は、学生だけではなく、アルバイト先でも勤務体系の管理が必要となっていることを示している。

しかし、現実には、それが難しくなっている事情もある。コンビニなど、一部の業界では、日本人のアルバイトが集まらず、慢性的な人手不足の状態となっている。そのため、ビザ更新が出来るように、外国人の勤務体系を管理しようとしても、交代の人員を確保出来ないこともある。月並みな表現であるが、留学生のアルバイトとビザをめぐる問題は、複雑な問題なのである。

●アルバイト先に正社員として就職するケースも

また、小売業などが特定技能の対象外になっていることで、「特定技能」によって、埋まるはずだった「抜け道」を悪用する動きが残されている。 

外国人が日本で就労するためには、就労ビザの取得が必要となる。2020年現在、このようなビザには高度専門職ビザ、就業ビザが該当する。技能実習や特定技能は、就業ビザに含まれる。

技能実習や特定技能以外は、何らかの資格が必要だったり、専門職である必要がある等、取得が難しい。しかし、留学生の中には、それでも就職を決める人々がいる。

その中には、もちろんきちんとした手順を踏んで、就職をする人々もいる。しかし、中には、アルバイト先に正社員として就職するという人もいる。彼らは、派遣会社やコンビニなど、それまで自分がアルバイトをしていた場所にそのまま、就職を決めている。

例えば、アルバイト先のコンビニに正社員として就職を決める。この場合、コンビニの本部ではなく、フランチャイズを運営している会社に正社員として就職する場合が大半だ。もしくは、会社に就職を決めたが、その会社は派遣会社で、業務は倉庫整理や、補充などの単純労働という場合もある。

雇用元としても、短期間で入れ替わるアルバイトよりは、正社員として長く働いてもらう方が、都合が良い。雇用される側としても、学費を払いながら、上限のあるアルバイトをするよりも、長時間働ける方が良い。そのため、多少の条件が悪くても、就労を選ぶのである。

彼らは、どのようにしてビザを切り替えるのだろうか。そこで登場するのが、行政書士である。雇用元の紹介などによって、ビザ切り替えが得意な行政書士に依頼し、就労ビザに切り替える。大抵は、技術・人文知識・国際業務の枠での就労ビザ取得が多い。出入国在留管理庁の統計によると、平成30年に在留資格変更許可がなされた資格で最も多いのがこの資格で、昨年度は24188人、在留資格の中で93.2%をしめている。

印象論になってしまうが、コンビニの店員や倉庫作業員が国際業務に該当するかと言われると疑問が残る。それでも、ビザが発給される場合がある。

しかし、中にはビザ切り替えに失敗する人も居る。留学生は、行政書士に着手金を支払い、ビザ切り替えに成功した場合には、成功報酬を支払う。着手金と言う大金を支払っても、切り替えが保障されているわけではない。

また、就労ビザの切り替えがすんでいないにもかかわらず、退学してしまう学生もいる。これはビザ制度に対する学生の無理解から生まれたことだが、学校の中には就労ビザの切り替えを確認するまで、退学を認めないということもある。ビザの切り替えに失敗して、既に退学していたならば、その学生はすぐに帰国しなければならない。そのような事態を防ぐためにもやむを得ないであろう。

このようにアルバイト先での正社員就労はリスクを伴っている。しかし、それでも、学生の中には、就労を選ぶ人も居るのである。

●履歴書の書き方から教える必要がある

急増する外国人留学生を受けて、学校側でも就職サポートの取り組みを行っている。留学生に対する就職支援としては、履歴書の書き方や、エントリーシートなど、日本式就職方法を教え、留学生向けの就職説明会を開催している。

留学生支援の取り組みは、学校だけではない。2007年に当時の安倍政権はアジアゲートウェイ構想の一環として、アジア人財資金構想を打ち出した。これは、優秀な留学生を日本に呼び、日系企業での就職を拡大するため、大学と産業界が連携しながら、募集から採用に至るまで、留学生に必要な日本語教育、専門教育を施すというものである。この事業は2013年に終了したが、ここでのノウハウを生かし、留学生支援を継続している一般社団法人 留学生支援ネットワークのような団体もある。

留学生支援の取り組みは進んでいるが、留学生特有の問題もある。いくつか例はあるが、履歴書やエントリーシートの問題からそれを見てみよう。

日本人からすると、履歴書やエントリーシートを書くということは難しいことではない。しかし、留学生の中には、履歴書を書いたことがないという人も珍しくはない。アルバイトは、友達のつてを頼り、大学や専門学校の書類は先生に見てもらいながら、場合によっては代筆してもらった。そのような人は履歴書を書いたことがないのも当たり前であろう。

そのような学生には履歴書の書き方から教える必要がある。書きながらも、色々な問題がある。留学生の母国は、日本と異なる学校制度を取っていることが多い。留学生の母国と日本の学校を照らし合わせて、どれに該当するのかを考えながら、書いていく必要がある。

留学生の学歴に関する問題は、企業側にとっても、重要な問題だ。留学生の中には、母国での学歴を誤魔化しているという場合がある。近年、それが発覚し、メディアで報道されることも多くなってきた。日本と異なり、学校制度自体が整っていなかったり、小さなことでも賄賂が横行するような国が世界にはたくさんある。その場合、提出した書類自体の信憑性が問題となる。この点を確認することが企業の負担になることもある。留学生の学歴1つをとっても、日本とは違っていることが分かる。

●「特定技能」だけでは解決できない

2019年4月に特定技能が開始され、1年を迎えようとしている。この間、「特定技能」のビザ発給は想定を大きく下回っているのが現状である。その要因として、制度の使い勝手の悪さや、ビザ発給の厳しさなどが指摘されている。しかし、今後、制度が運用されていけば、着実にビザ発給件数が増えていくだろう。

ビザ更新や申請の際のチェックは年々厳しくなっており、この記事で紹介した「抜け道」を活用してのビザ発給も難しくなってくると予想される。

しかし、「特定技能」が開始されたとはいえ、外国人就労の問題がすべて解決されている訳ではない。そもそも違う文化や背景を持つ人々を受け入れるのであるから、ここまで指摘してきたような複雑な問題が存在している。外国人就労者受け入れは、簡単な話ではない。企業側にも負担を強いる。外国人就労は受け入れれば、人手不足を解消出来るという魔法ではないのである。

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