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健康増進へ「糖分税」20%、WHOが報告…単なる「増税」ではないか?
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健康増進へ「糖分税」20%、WHOが報告…単なる「増税」ではないか?

糖分が多い清涼飲料水に課税すれば、肥満や病気が減るーー。WHO(世界保健機関)が10月中旬に国連ヨーロッパ本部で発表した報告が話題になった。

報道によると、報告では、糖分が多い清涼飲料水を取りすぎることが、肥満と糖尿病が増える原因になっているとして、20%以上の課税をすれば、人々の摂取量を大きく減らせると主張している。そのうえ、課税によって価格が上がれば、特に若者や低所得の人の摂取量を減らせるとしていて、「医療費も削減できる」と訴えている。

こうした制度について、メキシコがすでに導入し、イギリスやフィリピン、それに南アフリカも導入を検討しているというが、日本で同様の税制はこれまでになかったのか。課税は健康増進に効果的なのか。佐原三枝子税理士に聞いた。

●日本でもあった、「清涼飲料税」「砂糖消費税」

「日本では、現在は清涼飲料水に対して『糖分税』のような税金は課税されていません。

しかし、過去には、炭酸が含まれている飲料に『清涼飲料税』という税金が課せられていました。砂糖にも1901年(明治34年)に制定された砂糖消費税というものがあり、一時は、塩や、酢までもが税金の対象となっていました。

これらの様々な物品税は紆余曲折を経て、1989年に始まった消費税に統合されましたが、砂糖消費税などは、明治から平成の時代まで続いたのです。

これらの税金は成立当時、炭酸や砂糖が高級嗜好品だったという位置づけから課税の対象になっていました。まだ税制が整っておらず、『高級嗜好品の消費に対して課税する』というやり方は世論の賛同を得やすいことや、税金を徴収する方法としても簡単だったという事情があったようです」

嗜好品というと、日本ではたばこや酒に対して税が課されている。

「現代のたばこ税と酒税は、過剰摂取を抑制するために設けられているので、『罪の税』とも言われます。

たばこに至っては、消費税も考慮すると価額の60%以上が税金ですから、税金に火をつけて燃やしているようなものです。

それが解っていても、お酒やたばこをやめることは、好きな方にはなかなか難しいのでしょうが、それでも消費量の抑制になっているように感じます。

健康の観点から、次のターゲットにされたのがカロリーの過剰摂取です。海外ではポテトチップスや糖分の多い清涼飲料水などに課税されています。

日本でもメタボリックシンドロームなどが意識され、健康先進国を目指して、糖分税の導入について議論され始めていますが、実現はまだ不透明です」

●「導入の結果、二重課税されるのは問題」

こうして徴収された税金は、国民の健康増進のために使われるのだろうか。

「もし、糖分税が成立すれば、健康維持のために使われる使途の決まった目的税としたいようですが、たばこ税や酒税は、法人税や所得税と同様、使いみちが決まっていない税金です。

しかも、酒税とたばこ税は、税収全体の4%程度にも達していて、相続税・贈与税の税収に匹敵する大きさです。

健康維持のための罪の税というよりは、国家の財政を支える柱として、この税金はやめられないというのも現実なのでしょう。

また、税理士の立場から申し上げると、たばこ税や酒税にはさらに消費税がかかっています。これらの税金が含まれた価額を基礎として8%の消費税が加算されてたばこやお酒は売られています。このように、税金に税金をかけるという状態は異常だと思います。

糖分税にも税金が二重課税されるようでは問題です。

また、健康維持は生活習慣の改善そのものです。たばこ税の高さがその消費量の抑制に役立っていても、税金だけでコントロールできることではありません。

時間をかけた啓蒙活動やキャンペーンで喫煙の市民権が小さくなったように、様々な活動が絡み合って成り立つものだろうと思います」

【取材協力税理士】

佐原 三枝子(さはら・みえこ)税理士・M&Aシニアスペシャリスト

兵庫県宝塚市で開業中。工学部やメーカー研究所勤務から会計の世界へ転向した異色の経歴を持つ。「中小企業の成長を一貫してサポートする」ことを事務所理念とし、税務にとどまらず、経営改善支援、事業承継や海外事業展開の支援を手掛けている。

事務所名 : 佐原税理士事務所

事務所URL:http://www.office-sahara1.jp/

(弁護士ドットコムニュース)

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