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退職せずに「長時間労働」「パワハラ」をやめさせたい…環境改善のサバイバル術
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退職せずに「長時間労働」「パワハラ」をやめさせたい…環境改善のサバイバル術

大手広告代理店「電通」の新入社員だった女性が昨年12月、過労自殺したことがわかって以降、長時間労働の是正や、パワハラ・セクハラ防止策への関心が高まっている。女性のツイッターアカウントには、月間105時間の時間外労働や、上司などから受けたパワハラやセクハラを示唆する投稿もあった。

ネット上では、同じような境遇にある人たちからの苦しみを吐露する声もあふれている。

あまりに理不尽な職場であれば、命をなくす前に退職することが先決だ。ただし、辞めずに解決する方法はないのだろうか。このような長時間労働やパワハラなどに悩む労働者は、どのように会社に是正を求めることができるのだろうか。竹花元弁護士に話を聞いた。

●「状況の改善」と「心身の健康の保持」

長時間労働やパワハラに悩む労働者は会社に対して、在籍したまま、どのように是正を求めることができるのか考えてみます。

このとき、労働者にとってもの獲得目標の一つ目は、「状況の改善」です。具体的には、長時間労働の是正、残業代の支払い、コンプライアンス体制の構築、パワハラ加害者に対する処分や異動などが考えられます。

二つ目に、「心身の健康の保持」があげられるでしょう。具体的には、産業医の受診やストレスチェック制度の活用などが手段としてあります。

●個人単位で加入できる「合同労組」も

この2つの目標を達成し、状況を改善するためには、直属の上司に相談することが、手段の一つとなるでしょう。しかし、それでは改善しない場合や、直属の上司がパワハラ等の行為者(加害者)である場合もあります。

その場合、具体的な手段としては、労働組合に相談することが考えられます。最近は社内に労働組合がない企業や、労働組合があっても会社とことを構えないスタンスをとっている場合も、しばしばあります。そのようなときは「合同労組」という会社単位ではない労働組合に加入して、労働条件について団体交渉を申し入れることができます。

合同労組は、地域別や業種別に様々なものがあります。個人単位で加入できますし、正社員だけでなく、契約社員、パートタイマー、管理職まで幅広い労働者が対象となるものが存在します。

●労働基準監督署は?

また、長時間労働のために必要な手続き(労働基準法36条の労使協定等)がとられていない場合や、労働時間に見合った賃金が支払われていない場合は、その旨を労働基準監督署に申告することも考えられます。この結果、監督官が会社に対して調査を行い、労基法違反などに違反する事実が判明すれば、是正勧告等の措置がなされます。

労働基準法に違反する状況が放置されている場合、公益通報窓口(事業所内、厚生労働省、メディアなど)に情報提供して、改善を求めることも考えられます。

ただし、情報提供をする窓口により、通報者が保護される要件が異なるので注意してください。この点、事業所内での内部通報の保護要件が一番緩やかであるのですが、現実的には、社内ルールを信用して内部通報したが、閑職に追いやられた、退職を迫られたといった事案が現れており、通報者を保護しつつ初期段階で企業自らが芽を摘んで健全化を図ろうという趣旨が十分に生かされていないケースも見受けられます。

その他にも、実際に行うことがある方法として、企業に所属しつつ弁護士に依頼をし、弁護士を代理人として登場させたうえで、違法状態の改善や不利益取扱いの抑止の点で会社を牽制しつつ、状況の改善を図ることもあります。

●相談によってデメリットはない?

一般的に、企業に在籍をしながら勤務先との間で労働紛争を起こすことには現実的な困難が伴います。

退職後に残業代請求を行ったり、不当な解雇に対して労働者の地位の確認を求めることはしばしばあります。しかし、在職中に残業代請求を行うようなケースはあまりありません。一見平穏に見えている労使関係において、積極的に紛争を顕在化させることには、職場に居づらくなるというデメリットがあるからです。また、内部通報についても、先ほど述べたような問題が生じうる現実があり、法改正が議論されています。

とはいえ法律上、労働者が前述したような手段をとったのち、会社がその労働者に不利益な取り扱いを行うことは禁止されています(労働組合法7条1号、労働基準法104条2項、公益通報者保護法3条から5条1項)。

「不利益取扱い禁止」に違反する行為を企業が行った場合には、その行為が不当労働行為に該当したり、刑事罰の対象になることがあります。

労働者としては、獲得目標の達成のためにどの手段をとるべきであるか、法律が定める不利益禁止を背景にどのように会社側と対峙するべきであるか、専門家の意見もききながら事案ごとに考える必要があるといえます。

●どのような証拠が必要?

いずれの手段をとる場合であっても、長時間労働やパワハラの証拠を集めておくことが重要です。長時間労働であればタイムカードやパソコンのログ記録が一般的ですが、それらの記録が実態を反映していない場合は、会社で深夜に送った業務メールをプリントアウトしたものも有効となります。

パワハラについては、録音のように言動を記録できていると立証に役立ちます。あるいは、状況を見ていた人の証言も重要な証拠となります。特に、労働基準監督署への申告時には、相談内容の信ぴょう性を高め、速やかに対応してもらうためにも、このような証拠を携えることは有効です。

なお、退職後にも、前述したような訴えは可能ですが、「労働者」という地位が失われているために、対処法の選択肢の幅が狭まります。しかし、退職しているがゆえに、会社とことを構えることによるデメリットが減るとも言え、パワハラに対する慰謝料請求を行ったり、未払い残業代がある場合はその請求を行ったりするなど、自分の請求権を行使することが主な手段となります。

それが間接的に社内環境の改善を促すことにもなるでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

竹花 元
竹花 元(たけはな はじめ)弁護士 法律事務所アルシエン
法律事務所アルシエンのパートナー。労働法関連の事案を企業側・個人側を問わず扱い、交渉・訴訟・労働審判・団体交渉の経験多数。人事労務や会社法務の経験を生かして、企業向けハラスメント防止セミナーやM&Aの法務デューデリジェンスも行う。東証プライム上場企業・非上場大手企業・医療法人・ベンチャー企業など、多くの業種・規模の企業で法律顧問を務める。労働法に関する書籍を23冊執筆。

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