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廃棄依頼した「ハードディスク」がネットで売られ、生徒の氏名流出…法的責任は?
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廃棄依頼した「ハードディスク」がネットで売られ、生徒の氏名流出…法的責任は?

岐阜県美濃加茂市の中学校で、廃棄処分したはずのハードディスク(HD)がネットオークションで販売され、生徒ら約750人分の氏名データが流出した。落札した男性の連絡で発覚したという。市の教育委員会が2月23日に発表した。

地元の岐阜新聞によると、廃棄処分を請け負ったのは名古屋市の企業。この企業は、学校から42台のPCを引き取り、複数の産廃業者に「粉砕によって破壊」するよう委託契約をしていたと説明している。これが事実だとすると、委託された業者のいずれかが、破壊せずにオークションに出品したとみられる。

市教委は今後、業者に事情を聞くとしているが、一般的に、廃棄を委託された業者が無断でオークションに出品することは、法的にどのような問題をはらんでいるのか。濵門俊也弁護士に聞いた。

●刑事では業務上横領、民事で損害賠償責任を負う可能性

「一般に情報漏えいといいますと、情報端末への不正アクセス等のハイテク系犯罪が想起される方が多いかもしれませんが、実際起こっているケースとしては物理的な媒体を通じた事故が多く、また盗難、紛失といった古典的なスタイルのものが多いといえます。

今回の事件も産廃業者がHDDという有体物をネットオークションにかけたことによって発生したとすればまさに古典的なスタイルの延長といえるでしょう」

廃棄処分する約束の商品を、売ったり、自分のものにしたりすることは、法的にどのような問題があるのか。

「廃棄処分を依頼したからといって、必ずしも所有権を放棄したとまではいえないとすると、商品の所有権は、一応依頼者のもとに留保されているといえます。

そのように考えれば、当該商品を売ったり、自分の物にしたりする行為は、業務上横領罪にあたる可能性があります」

今回のケースでは、HDの中には生徒の個人情報がはいっていたようだ。HDに個人情報が含まれていた場合、別に問題は生じないのか。

「産廃業者は個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)にいう、『個人情報取扱事業者』ではありませんので、個人情報保護法の罰則規定の適用はありません。

また、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(廃棄物処理法)の罰則には、個人情報を流出される行為はありません。ただし、民事の損害賠償責任を負う可能性はあります」

具体的にはどのような責任なのか。

「まず、廃棄処分を委託されていたにもかかわらず、その義務を怠り、情報漏えいさせたことによって損害が発生したとすれば、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。

漏えいが生じた場合、件数によっては、個人対応で莫大な費用が発生するだけでなく、社会的な信用を大きく毀損して、その損害賠償額も多額に及ぶ可能性があります。

また、当該個人情報の特定個人に対しては、情報漏えいによって特定個人のプライバシーが侵害されて損害が生じた場合には不法行為責任に基づく損害賠償責任を負う可能性があります。この場合、情報の性質により、損害の程度は異なります。

とくに、思想、信条、宗教、人種、病名といった機微情報が含まれる場合には、通常の損害額よりも高額になる傾向があります」

●委託した側の責任は?

委託した側は何らかの責任を負う可能性はあるのか。

「単に依頼しただけでは足りず、最終的な処理の確認をしなければなりません。また、消去された事実の確認をデータ証明書をもって行う必要があります。単に報告を受けていただけでは足りないのです。

こうした義務を怠った結果、情報流出を招き、特定個人のプライバシーが侵害されて損害が生じた場合には、不法行為責任に基づく損害賠償責任を負う可能性があります」

今回のケースでは、落札した男性からの連絡で明らかになった。落札した側がそのままHDを利用することも問題になりうるのか。

「法律的には廃棄しなければならない義務まではありません。そのまま使うことも自由です。ネットオークションのルールからすれば、落札者がHDを返還する以上、売主が代金を返還することとなるのでしょうが、今回の事件についてはあまり期待できないでしょう。迷惑をかけて申し訳なかったとして、学校が落札者に代金相当額の謝礼金を渡すのが上策ではないでしょうか」

(弁護士ドットコムニュース)

プロフィール

濵門 俊也
濵門 俊也(はまかど としや)弁護士 東京新生法律事務所
当職は、当たり前のことを当たり前のように処理できる基本に忠実な力、すなわち「基本力(きほんちから)」こそ、法曹に求められる最も重要な力だと考えております。依頼者の「義」にお応えします。

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