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エコキュートなど低周波音の健康被害で国を提訴「規制を怠った責任がある」
井坂和広弁護士

エコキュートなど低周波音の健康被害で国を提訴「規制を怠った責任がある」

ヒートポンプ給湯機「エコキュート」や家庭用燃料電池「エネファーム」などが発する「低周波音」によって健康被害を受けたとして、全国の男女6人が7月8日、国に計約1500万円の賠償を求めて、東京地裁に提訴した。原告の中には、企業や設置業者、近隣住民などを相手に民事訴訟を起こしている人もいるが、国にも健康被害を防止する義務があったのにもかかわらず、規制を怠った責任があるなどと主張している。

低周波音とは、100ヘルツ以下の「低い音」。人によっては聞こえない場合もあるが、音の大きさ次第では不快感や圧迫感を感じることもあるといい、近年、影響が疑われる健康被害が増えている。

低周波音をめぐっては、2012年にも国の責任を問う裁判が起きたが、裁判所は行政行為には広い自由裁量が認められるとして、請求を棄却した。しかし、2014年、消費者庁の消費者安全調査委員会が、エコキュートについて「不眠などの健康症状の発生に関与している可能性がある」とする報告書を発表するなど、当時とは状況が変わっている。

原告側代理人の井坂和広弁護士は提訴後、東京・霞が関の司法記者クラブで会見し、「前回はほとんど実質的な審理がなされていない。今回の『第2次国賠訴訟』では、裁判所は逃げることなく、真正面から審理してほしい」と語った。

●環境省が定める「参照値」が争点

原告側が求めているのは、環境省が公表している「参照値」についての検討だ。低周波音が「騒音」になるかどうかは、周波数ごとの音の大きさ(デシベル)で判断される。井坂弁護士によると、国際標準化機構(ISO)が低周波音を聞き取れるようになる音の大きさ(最小感覚閾値)の目安を設定しており、欧州諸国の多くは、それよりも低いデシベルを基準にしているという。

一方、日本には基準値がなく、環境省が目安として示す「参照値」は「一般被験者の90%の人が寝室で許容できるレベル」(環境省HP)で、ISOの感覚閾値よりも数値的に緩い。例えば、50ヘルツの低周波音の場合、参照値はISOの値より8デシベル、オランダより13デシベルも高いという。また、環境省は「目安」と強調するものの、現実には参照値が企業の製品開発や自治体の低周波音対策における「基準」として機能している部分があるようだ。

原告側は環境省が、基準値を設定していないことと、不十分な参照値を定めたことの2点を問題視している。「環境省が『参考にしてください』と言えば、基準として働くのは当然。ISOの感覚閾値がすでにあるのに、それをさらに緩めた『基準』を発表した行為の違法性は極めて高い」と井坂弁護士は語る。

一方、環境省によると、各自治体が受ける低周波音にかかわる苦情件数は、この20年ほどで大幅に増えたが、2014年度は253件。このうち、エコキュートなどが原因と見られる「家庭生活」に関する相談は59件だった。「苦情を受けると、各自治体が実際に周波数を測定します。測ってみると、100ヘルツ以下(低周波音)でないこともあります。『参照値』はこうした苦情申し立てがあったとき、低周波音が原因かどうかを判断する目安として設定しています」(大気生活環境室)。提訴されたことについて尋ねると、「コメントできる上司が不在」とのことだった。

●「家に逃げ場がない」という健康被害者たち

会見には、原告の男性2人も出席。Aさんは、隣家のエネファームの音が「頭の中でなっている気がする」といい、頭痛や吐き気に悩まされている。床や壁が共鳴するため、家の中には逃げ場がほとんどないそうで、移設費を出すと交渉しても、隣家と業者が首を縦に振らないという。


一方、Bさんは隣家のエコキュートで、耳鳴りがひどいという。妻の方が重症で、給湯利用が多い冬場はホテルや子どもの自宅に逃げることもある。2人はそれぞれ、「低周波音の問題を知らず、健康被害で苦しむ人や、お隣を苦しめてしまう人がいる。問題を多くの人に知ってもらいたい」「いい機械だとは思うが、実際に苦しんでいる人がいる。メーカーもそれは分かっているはず。テストを厳しくやって、人にもっと優しい姿勢をとっていただきたい」と話した。

(弁護士ドットコムニュース)

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