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隣家の「植物のツル」「木の枝」の侵入がとまらない! 切ったらダメ?
写真はイメージです(HIME&HINA / PIXTA)

隣家の「植物のツル」「木の枝」の侵入がとまらない! 切ったらダメ?

隣家から自宅の敷地内に伸びてくる植物のツルに困っている人たちがいる。

ネット上には「隣の庭のツルがうちの敷地に侵入してきて、うちのフェンスに実もなっている」、「隣の家の雑草のツルが伸びてきて、うちの自転車に巻きついている。せめて雑草の手入れぐらいしてほしい」などの投稿がみられる。

中には「隣の家がほったらかしで何もしないので、こちらで伸びてきたツルを切ったり、抜いたりしています」という人もいる。

しかし、もともとは隣家の植物だ。「邪魔だけど、無断で切除してよいのか」と悩んでいる人も少なくない。

●定期的に隣家の庭に入り、刈り込みをする人も…

瀬戸仲男弁護士は「隣地の樹木の枝や根が境界線を越えてきた場合に対する法律として、民法233条があります」と説明する。

「同条1項は『隣地の竹木の枝が境界線を越えるときは、その竹木の所有者に、その枝を切除させることができる』としています。つまり、越境している枝を切るように請求できるということです。

所有者である隣家の住人が自らすすんで切除してくれれば、話は簡単です。また、隣家の住人に『樹木切除承諾書』のような文書に署名してもらい、自分で切除するという方法も実際によく行われています」

実際に、自宅のツル植物が隣の庭に侵入してしまっているという人は「定期的に隣の庭に入らせてもらい、植物の刈り込みをしている」という。また、隣家の許可を得てツルを切除したり、なった実を貰ったりしている人もいるようだ。

●隣家が応じてくれない場合は?

しかし、隣家とよい関係性が築けていなかったり、切除を承諾してもらえなかったりする場合もある。中には、ツルが敷地内に伸びていることを隣家に指摘したところ「あなたには関係ない」と言われたり、何もしてもらえなかったりしたという人もいる。

そのような場合は自分で切除したくなるところだが、瀬戸弁護士は次のように指摘する。

「無断で切除したことが原因で争いがこじれた場合には、民事事件として損害賠償請求をされたり、刑事事件として器物損壊罪で告訴されることも理論上はあり得ます。そのため、解決したい場合は、間に人(代理人)を立てて話し合ってみるとよいでしょう。

共通の友人などがいれば、その友人に間に立ってもらってもよいですが、一般の人が間に立っても解決しない場合は専門家(弁護士など)に間に立ってもらうとよいと思います。

それでも、解決しない場合は、やむを得ません。費用対効果の面では現実的ではないかもしれませんが、裁判所の手続き(訴訟提起、調停申立、あるいは、仮処分申立)について、弁護士に相談してみましょう」

ただし、仮に訴訟を起こしたとしても、裁判所がすぐさま『切除の請求』を認めてくれるかというと、そうでもないようだ。

「参考になる裁判例として『新潟地裁昭和39年12月22日判決』があります。この判決は、枝の切除要求が『権利濫用』となる場合があることを認めています。

『権利濫用』とは、形式的に権利の行使に見えても、当事者双方の利益を比較(衡量)して実質的に考えれば権利行使が許されない、とされる場合のことです。

先ほど述べたように、民法では、隣地から伸びてきた植物の切除を請求する権利が認められています。しかし、その権利を行使することが『濫用』とみなされる場合があります。

新潟地裁が示している権利濫用のケースは、次のとおりです。当事者双方の利益を比較(衡量)する際の基準が示されています。

第1に、越境した枝によってなんらの被害も被っていないか、あるいは、被っていたとしてもその被害がきわめて小さい場合です。

第2に、枝を切除することによって被害者が回復する利益が小さいのにくらべて、樹木の所有者が受ける損害が不当に大きい場合です。

以上のような場合には、切除要求が認められないことになる可能性が大きいといえます」

プロフィール

瀬戸 仲男
瀬戸 仲男(せと なかお)弁護士 アルティ法律事務所
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築・相続その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の歴史・伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。

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