市税など約1000万円を滞納していた50代男性に対する徴収を怠ったとして、三重県四日市市は担当職員12人を処分した。時効を迎えた金額は、延滞金も含め、およそ1900万円になるという。処分は戒告と訓告で、2016年12月9日付。
市によると、滞納が始まったのは2000年度から。支払いを促したところ、男性が市役所を訪れ、大声でクレームをつけるなどしたため、放置するようになったという。男性は、数年前から健康保険料も納めていなかった。
市は今後、退職者も含めた職員計8人に約250万円の損害賠償を請求する方針だという。市役所の職員たちは回収のため、どんな手段を取るべきだったのだろうか。池田誠弁護士に聞いた。
●市職員はどういう対応をすべきだったのか?
ーー税金の滞納は犯罪になる?
税金の滞納は、それ自体が犯罪になるわけではありません。ただ、税金の支払いを滞納すると、当然のことながら、延滞税が発生します。
また、「国税徴収法」の適用や準用により、民事上の手続によらず、「差押え」や「公売」などを通じて強制的に資産を処分され、回収されるリスクがあります。たとえば、自宅不動産などの差押え、給与や預金など「債権」の差押え、自動車など「動産」の差押えです。
ーー滞納にも「時効」がある?
税金はその種類にもよりますが、概ね5年で「徴収権」が消滅します。本件では、消滅時効の満了によって、「徴収権」を消滅させてしまったわけです。本来は、時効を中断させる方法を取るべきでした。
ーーどうすれば時効を中断させられる?
今回は地方税が問題となっているようですので、地方税法に限定して解説します。
地方税法18条3項は、時効の中断方法として「民法の規定を準用する」としています。では、民法ではどう規定されているか。民法147条では、時効の中断事由として、(1)請求、(2)差押え、仮差押え又は仮処分、(3)承認、の3つを挙げています。
「請求」といっても、基本的には民事訴訟の提起やそれに準ずる手続の申立を意味します。広い意味での「裁判」をイメージしてもらえると良いでしょう。
一般的な意味合いでの請求行為は民法153条の「催告」の範囲でしか時効中断の効力がありません。具体的には「督促状」などの書類を送るといった行為です。ただし、催告の場合は、6カ月以内に裁判などの正式な中断手続きを取る必要があります。
また、「承認」とは、今回のような場合、債務者(滞納者)が債権(税金の滞納)の存在を認める事です。たとえば、債務承認書の作成が理想的ですが、一般的には全体の債務を認識しながら一部について返済をしたり、返済の猶予を求めたりする行為が「承認」にあたります。
このほか、地方税法18条の2に基づき、(1)納付又は納入に関する告知、(2)督促、(3)交付要求を行うことも考えられました。
簡単に言えば、職員は、滞納者相手に地方税法上の督促を行ったり、滞納者から一部の支払を受けたり、支払の猶予の申出を受けるなどしながら任意の支払を促すか、差押えをするといった対応が必要だったということです。
●職員に一部を賠償させるのは厳しくないか?
ーー職員に賠償させることについては?
一般論として、時効中断措置を怠って徴収権を時効にかけてしまったとすれば、損害賠償請求を受ける余地があると考えます。職員は、時効中断措置を適宜実行し、徴収権が時効にかからないようにしながら、可能な限りの徴収を実現するべき義務を負っていると考えられるからです。
ただし、時効消滅して発生した損害について、職員に対し、どの程度の責任を負わせかは慎重に検討する必要があります。市としても、職員が時効管理をしやすいようシステムを構築したり、導入したりするべき義務がありますし、当該職員を管理する市長らにも監督責任があると考えられるからです。
過去の裁判例では、職員が徴収権を時効消滅させた事例で、市長に対し、約755万円の損害のうち約45万円の損害賠償責任が認められた裁判例があります。
ちなみに、当方が顧問を務めております債権回収会社では、時効期間の経過状況をコンピュータで管理するシステムを導入し、担当者のミスで債権を時効にかけることが極力排除されるようにしています。
今回の事例でも、同様のシステムが導入されているかなどを加味し、妥当な賠償額が決定されたのかどうか、検証される機会が出てくるかもしれませんね。