「塾講師が生徒に恋ってアリ?」——ネットの匿名掲示板で、こんな話題が盛り上がっていた。塾講師のアルバイトをしている21歳の女性が、塾に通う17歳の男子生徒を好きになってしまったのだそうだ。「話してると楽しくて、ちょっとひねくれてるところが可愛い」「まさか高校生が恋愛対象になるなんて」と、ときめきが抑えられない様子だ。
しかし、女性の想いをよそに、他の人たちからは「高校生と付き合うのは犯罪では?」「受験に集中する時期に塾講師と恋愛なんて確実に親を敵に回す」「バレたら親のクレームで塾つぶされるかも」など、シビアな意見が寄せられていた。
ただ、ひとくちに付き合うと言っても、いろいろな形があるだろう。手もつながず、夕方に2人でおしゃべりする程度の関係もある。逆に、深夜に2人きりで会ったり、肉体関係などに至れば、全く話が変わってきそうだ。法律はどうなっているのだろうか。島野由夏里弁護士に聞いた。
●「深夜」は問題
「21歳の塾講師女性と17歳の男子高校生が、お互いを好きになり、自然な形で恋愛関係になったという前提で話をしますが、手もつながず、夕方に2人でおしゃべりする程度の関係であれば、全く問題ありません。
しかし、高校生の保護者の許可を得ず、深夜に2人きりで会うことは、各地にある青少年保護条例の『深夜外出の制限』に反してしまいます。たとえば東京都の場合、相手が16歳未満であれば、30万円以下の罰金が科されます。
また、お相手の男子高校生が深夜に街にいれば、将来法に触れるような行為をする恐れがある『ぐ犯少年』として、家庭裁判所に送致される可能性があります」
●肉体関係をもったら?
では、このまま関係が深まり、2人が肉体関係をもった場合はどうだろうか。
「東京都の条例は、『何人も、青少年とみだらな性交または性交類似行為を行ってはならない』と規定しています。
これに反すると、たとえ青少年の同意があった上での行為でも2年以下の懲役、または100万円以下の罰金を科されます。
もし、法廷に持ち込まれれば、条例違反とされる可能性は高いでしょう」
たとえ、相手の青少年が肉体関係を持つことに同意していてもダメなのだろうか?
「これは、青少年が同意していることを前提とした規定です。それでも2年以下の懲役というのは、重いと感じられるかもしれませんね。
ただ、条文を見てもらえればわかるとおり、この条例には『みだらな』という限定が付いています。
ここは裁判でもよく争われるポイントで、たとえば結婚を前提とした交際であれば、みだらでないとして許される場合もあります」
今回のようなケースでも、「みだらではない」と言えるのだろうか?
「今回の2人は塾講師と生徒として出会ったということで、すでに長期間交際を続けているわけではなさそうです。また、男子高校生が受験を控えた身で、婚姻年齢にも達していないことなどを考えると、結婚前提の交際という主張は難しいでしょう」
ということは、塾講師は条例違反に問われてしまうのだろうか。
「その可能性はあるでしょう。ただ、条例違反で刑事罰を科されるところまでいく事例は、それなりに年のいった男性と少女のケースなど、普通の恋愛関係とは言えないケースが多いように見受けられます。21歳の女性と17歳の男性であれば、そこまではいかないのではないでしょうか」
●学校の先生と生徒が付き合ったら?
それでは、もしこれが学校の先生と生徒が付き合って、肉体関係を持ったという場合なら、何か違いはあるのだろうか。
「条例違反については、教師だから、塾講師だからといって、何か判断が変わるわけではありません。ただし、学校の先生は就業規則に従って、職場で懲戒処分を受けることになるでしょう。アルバイトの塾講師よりも、処分されることの重みは大きいのではないでしょうか」
漫画や映画で描かれる「先生と生徒の恋」に、憧れた経験がある人もいるだろう。しかし、現実の法律をしっかりと守らなければ、罪に問われてしまうという悲しい結末が待っているかもしれない。