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コロナ給付金「不備ループ」、半年経っても審査中で「廃業まってるの?」 事業者が嘆き
不備ループにあった理学療法士の男性

コロナ給付金「不備ループ」、半年経っても審査中で「廃業まってるの?」 事業者が嘆き

コロナ禍で設けられたあまたの助成金制度。救われた人もいる一方、史上最大規模の申請を処理し切れず問題も起きている。審査の遅さやミス、バラつきにより、給付を受けられない事業者が出ているのだ。

「申請して半年たつのに給付がありません。新しく書類を送るたび、かなり時間がたってから、追加の書類を出せという『不備メール』が届きます。その繰り返しです」

こう話すのは、九州で自費のリハビリサービスを提供する理学療法士の男性。コロナ関連の「月次支援金」を申請したが、提出書類に不備があるとして、まだ審査が続いている。いわゆる「不備ループ」だ。

月次支援金は、緊急事態宣言などによる人流抑制の影響に配慮したもの。売上が半分以下になった中小法人に20万円、個人事業主に10万円を上限に給付する。

ただ、制度設計した中小企業庁によると、給付後の廃業なら返還は不要だが、給付前に廃業した場合は、不備ループで審査中になっている分も含めて受給できない。事業の継続・立て直しのための取り組みを支援するという趣旨だからだ。

「申請から半年、客足もあまり戻っていないし、オミクロン株も出てきた。正直続けられるか不安も出てきました。不備ループでこっちが廃業するのを待っているんじゃないかと思ってしまいます。こんなに時間と労力だけ浪費させられて、まったく支給されないなら、最初から申請しなければ良かった」

●「審査担当者によるバラつきが大きい」

給付金の趣旨からすれば、速やかな給付が望まれるが、慎重に審査しているだけという見方もありえるだろう。

しかし、「不備ループ」は月次支援金に移行する前の「一時支援金」のころから、国会やメディアでも取り上げられている。実態としては審査側の処理がパンクしている面もあるだろう。

行政書士で税理士法人Impact(名古屋市)代表社員の大箸直彦税理士は、顧問先の「不備ループ」の解消に尽力する専門家のひとりだ。顧客の中には、17回もループした末、理由の説明もなく不支給となった人もいるという。

「審査に時間がかかり、ようやくステータスが更新されたかと思ったら、『明日までに不備を直さないと給付しない』という理不尽な連絡が来ることもあります。審査担当者によるバラつきも大きいと感じます」

大箸税理士の担当する顧客。申請後、すぐに給付があった事業者もいれば、5回以上も書類を出し直す事業者も少なくない。

ほかの月はすぐに給付されたのに、ある月だけ「不備ループ」にかかった事業者もいたという。ほかの月と同じ書式の資料を提出しているのに、多くの追加資料を求められ、長らく審査中のままだ。

支援金の審査は、「デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー」を元請けとして、複数企業が担当している。しかし、審査者や企業間で判断基準が統一されていない可能性がある。

一方、中小企業庁は、受給資格がないのに月次支援金を申請した月があれば、ほかの月の給付も取り消すとしている。審査が滞っている事業者にとっては気が気ではないはずだ。

制度の詳細についての資料(2021年12月1日版)。「資格なし」を強調し、注記で「一律ではない」としている。(https://www.meti.go.jp/covid-19/getsuji_shien/pdf/getsujishien.pdf

●「不正疑うなら民間ではなく、税務署に調査させるべき」

このほかにも大箸氏が担当する顧客では、次のような不備ループ事例が起きている。

ある美容院の経営者は、「一時支援金」の申請について、10回もの不備ループにあった。帳簿や各種領収書、売上を日にちごとに分けて入金した銀行通帳のコピーなど、書類はA4で100ページを超えている。それでも審査が通ったのは、申請から約半年たってからだった。

女性の通帳。この数年間、記帳時に日付をつけて、その日の売上を入金するようにしていた(加工は編集部)

このほかにも同じ組織に属しているのに、かたや1回の申請で給付された人もいれば、5回以上も追加資料を出す不備ループに入った人もいた。

国税職員として20年以上のキャリアもある大箸氏は次のように語る。

「なんでこれで認められないのかわからないというケースばかり。不備ループにかかった月については、理不尽に大量の資料の提出を求めて来ています。税務署の調査よりも厳しい」

各給付金の申請には、確定申告書を提出しなくてはならない。もしも不正な申請だとしたら、確定申告にも疑いが出てくる。

「虚偽申告の疑いがあるとして給付金を認めない一方で、同じ確定申告に基づき、所得税、住民税、国民健康保険を納めさせていることに、行政の矛盾を感じます」

「経産省(中小企業庁)が確定申告書のでっちあげを疑うなら、その提出先である全国の税務署へ実態調査を依頼すべきではないでしょうか。民間の素人が調べるより、法律に基づく調査権限のあるプロと連携すべきだと思います」

●中小企業庁「国民の税金」「不正受給の度にご批判をいただく」

不備ループについて、中小企業庁はどう考えているのか。弁護士ドットコムニュースの取材に対し、担当者は「お待たせしていることは事実なので、そこは申し訳ない」としつつ、あくまでも例外だと話す。

一時支援金・月次支援金のウェブサイトによると、12月20日時点で月次支援金は244万件の申請に対し、およそ9割の226万件に給付済み。また、両支援金の75%については、4週間以内に給付されているという。

「事業者であれば、全員がもらえる制度ではない。本人は要件を満たしているとお考えでも、実際には違うという人もいる。こちらもなるべく給付したいという思いで書類を求めている。その結果、一部で時間がかかってしまうことがある」

「給付金の不正受給事案が起こる度に『なんでばら撒きをするんだ』とのご批判をいただく。国民の税金なので、適正な執行をということで対応していることはご理解いただきたい」

●あいつぐ不支給問題、判断が覆る例も

コロナの給付金をめぐっては今年10月、持続化給付金が不支給となった全国89事業者が給付を求めて、裁判を起こしている。

実際に給付金の審査ミスが明らかになったケースもある。東京都では2020年に募集した2つのコロナ助成金について、本来支給すべきだったのに不支給とした事例が少なくとも107件あった

史上最大規模の給付金だけに、処理の困難さは想像に難くない。ただ、審査を厳しくしても、不正受給をゼロにすることはできない。一方、売上が減った事業者への給付は遅れる。実際に10回以上の不備ループの末、半年近くかかって支給された事業者がいる。

不正防止と迅速な支給はトレードオフの関係にある。両方大切ではあるが、そのバランスをどう取るかが問われている。

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